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追いかけて、追い求めて。

何か自分の限界を感じる時。そんな時に限って、”自分に何ができるんだろう?”なんて私は考え込んでしまう。

片手で数えられるくらいの、くだらないことしか思い浮ばなかったけど、これが今までの私なのかと、妙に納得する自分がいた。それはどこか、あきらめにも似た気持ちのように思えた。

まだ、人生の途中なのに、何か間違って生きてしまったような・・・ふと、そんな気がした。

突然の土砂降り雨の激しさのように
心が急に暗く切なくなっていた。

・・・・・・・
ひとつのクレームがあった。若いアルバイトに中年男性が、顔を真っ赤にして怒っていた。私は接客の途中だったけど、別の社員にその接客をお願いをして私はそのクレームのお客様の対応をした。

”いかがされましたのでしょうか?”
訳もわからず私は尋ねた。

「お前が責任者か!」と男は怒鳴った。

昼間っから酔っているのだろうか?鼻の頭が妙に赤い。それとも、もともとそんな態度しかとれない人なのだろうか?普通じゃない・・・ひどく私は憂鬱になった。

アルバイトのクレジットのサインを頂く時の態度が気に入らなかったらしい。弁解する訳じゃないけど、アルバイトの彼の接客態度は、私は何一つ間違っていないと思う。もちろん、そのときの現場を見たワケじゃない。それは言い切れないかもしれない。でも、彼の日頃の態度を知っている私は、彼を信じたいと心では思っていた。

心ではそう思っていたのに・・・
「申し訳ございません。私の教育不足です」

それはお決まりの言葉だった。

私の言葉は、何一つとして間違った何かを否定することもなく、ただ、それは自分を守りたいだけで、選んだ言葉のような気がした。その言葉に、思わずアルバイトが私の顔を見る。

”僕は間違っていないんだ!間違っていないのに・・・” 彼の心がそう叫んでいるのが、私には見えるような気がした。

私は彼の目を、まっすぐに見られなかった。
「十分に私から注意しておきますので・・・」

ので・・・で、なんだろう?何が言いたいんだろう?その”ので”の続きの言葉は、一体なんになるんだろう?”どうか、ご勘弁下さい。私をどうか許してください。悪いのはこのアルバイトなんです。私じゃありません。”

その言葉の裏に、まるで頭に地面を押しつけたような私は、どうしようもなく弱い人間に思えた。この仕事をしていて、時々、ワケもわからず自分の限界を感じる時がある。私は何がしたいんだろう?何を求めているんだろう?と。頭の中をそんな思いが、ぐるぐると駆け巡っている。

私はこの仕事には向かない・・・。
あの頃、何度もそう思った。

何度も何度も心でそう繰り返しては、結局何も変えられない自分に、あきれ果てていた。私はすべてに追いつけないでいる。追いつこうとしているものすら、私は何ひとつわかっていない。私は何をこの人生でしてきたんだろう?

何もしていない。何も出来てもいない。誰かの言葉や行動に、後からついて行っただけだ。追いつこうとして、追いかけたというワケじゃない。たったそれだけの人生に、何の意味があるというのだろうか。

涙を流すだけなら、誰にだってきっと出来るはず。そうじゃなく、その涙をぬぐう力が、今の私には欲しいんだ。

涙は決して誰かに見せるものでもなく、誰かに訴えるものでもないんだ。涙は自分が悲しいことを、心がそっと、教えてくれているのだと思う。だから涙は透明に、頬を流れてゆくのだろう。

まだ、人生の途中なのに、何か間違って生きてしまったような・・・今の私は、そんな気がしてならない。

この心は、一体どこへ行こうとしているんだろう。

追いかけることもなく
そして、追い越すこともないままに。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一