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あと5年は生きたいんだが。

売場でお客さん(ご年配の男性)からこんなことを言われた。

「わしはあと5年は生きたいんだが、どんなビールがいいか?」

”5年”っていったいなんなんだ?(どっからきた数字だ?)まさかこの人生の深い心理を私に問うているのか?それともちょっと、危ない(いろんな意味で)人か?などとほんの少し悩んだけれども、私は平静なふりをして接客を試みた。(病気とかではないようだ。)

とりあえず、というかそれしか頭に浮ばなかったのだけど、ビール売場でカロリーオフやら糖質オフやらプリン体オフやら、そんな文字が缶を賑わしてる、まぁ、とにかくありったけの健康志向のビールを勧めた。

すると、その私の勧めたビールがとても気に入ったようで「そうか!今度からこれを飲んでみよう!」と飲む前にすでに出来上がってるみたいに、なんとも声が大きく豪快で元気が有り余ってて、笑うと目がしわになるような、とてもご機嫌なおじいさんだった。

「ありがとうございます。ごゆっくりと」と言って私はお辞儀をしつつ、その場を逃げようと・・・いや、離れようとした。

すると、おじいさんは何を思ったのか、いきなり私の肩を思いっきりたたくとがははー!と笑いながら私に言った。

「わしも、あんたみたいにハンサムにしてくれ!」

なんだそれは?
(ちょっとひいてしまう私。)

確かにおじいさんは、とても特徴的な顔で、私の場合は、ただ単に目立った特徴のない顔だ。なんとも面白いおじいさんだった。不思議とそんなふうに誉められた(?)ことが私にはとても気持ちのいいものだった。(女の子に言われたわけじゃないのに、どうした私?)

こんな人もいるんだなぁ。毎日があんな調子で愉快に人生を過ごしてるんだろうなぁ。いいな、あんな人生。あんなお歳でもあんなふうに私も豪快に笑っていたいものだ。

私は仕事をしながらも、ぼんやりと思ってた。
たぶん、きっとあのおじいさんは、
またどこか人の集まる場所で
間違いなく言っているんだろうな。

「わしはあと5年は生きたいんじゃが・・・」と。

たぶん、その5年後もずっと。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一