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短編小説

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【小説】えだゆうの桜。

【小説】えだゆうの桜。

昔、書いた短編小説です。少し哀しい物語。でも、心は明日へと向かっています。こんな不安な時だけど、少しでも心が柔らかくなって下されば幸いです。

・・・・・・・・

その黄色い帽子は、随分と前からその桜の木のてっぺんの枝に、引っかかっていたような気がする。なぜ、その帽子がそこにあるのかを、そのときの僕は、まだ、知らないでいた。

桜にはまだ、花が咲いていなかった。

僕の記憶では、その桜はもう、2年

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あんなに儚い約束を。

いつか、あなたと約束したけど
遠い昔のことだから

なんてずっと思ってた。

大人になるにつれ私には
なくしたものと、哀しいことが
星の数ほどありすぎて
あの頃の小さな夢は
もう、笑顔では話せないの。

でも、あなたのことだから
きっと忘れてくれているよね。
いつも優しいあなたのことだから。

今、通り雨がすぎた。
街がまた、動き出す。

私はあなたを待っている。
そして、あなたを待っていた。

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ぼくはアクマのハムスター。

ぼくはアクマのハムスター。

*この作品は、昔、私と当時、小学1年だった娘と一緒に作った絵本です。小さな子供でも読めるように、全部、ひらがなで書いています。約4千字になりますので、お時間のある時に、読んで下さるとうれしいです。

*作中のイラストは小学1年生だった娘が書いたものです。

青木詠一
・・・・・・・・・・・・・・・

ぼくがゆきちゃんと、はじめてであったのは、ゴミすてばだった。あのひのことは、いまでもぼくはおぼえて

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彼女とあの夏に乾杯。

彼女とあの夏に乾杯。

「ねぇ、ちょっとビール買ってきなさいよ!」

スマホから聞こえてくる彼女の声はすでに酔っ払っている様子だった。

「えーなんでだよ。オレ、今、忙しいんだけどなぁ」

会社帰りの駅のホームで僕は、電光掲示板の時計を見ながら言った。

「だって、しょうがないでしょ!冷蔵庫のビール、全部なくなっちゃったんだから!ひっく!うわぁぁん!」

「なんだよ、泣くなよ。また、振られたのか?」

「そうよ、それが何

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フヨウの美しい花びら。

フヨウの美しい花びら。

街で見かけた綺麗な花を、私がカメラで撮っていたとき、一人の美しい少女が家の庭に現れた。どうやらその花の持ち主のようだった。少女は少し驚いて、それでも小さなかわいい声で「こんにちは」とかすかに頬を染めながら、私に挨拶をした。思えばそれが二人の小さな出会いだった。

「すみません、きれいな花だったもので・・・ちょっと撮らせてもらってもいいですか?」私は尋ねた。少女は少し不思議そうな顔をして「いいですよ

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空を想う日記 ~波乃サエの場合~

空を想う日記 ~波乃サエの場合~

私、波乃サエは家電量販店で仕事をしている。29歳独身。(気づけばこの仕事を続けて3年になる。ちなみに店では”サザエさん”と呼ばれている。信じらんない・・・私は波乃サエだって!磯野サザエじゃないし波平とも関係ないし、だいたい無理があるって!)

学生の頃は、少しは男子にモテたけど、今じゃ、店の受付で、いくら笑顔を振りまいてもバーコード頭のおじさんか、風船目当ての子供しか寄ってこない。

しかも小さな

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淡いブルーの手紙と日曜日の君へ。

淡いブルーの手紙と日曜日の君へ。

春の小さな物語を書きました。

「なになに?えいいちくん、小説書いたの?もー、いつものエッセイでさえ長いのにぃ!仕方ないなー!ま、暇だし、私が読んであげるか!」ってな感じで、広い心で読んで下さるとうれしいです。(笑)ほんわかと優しくなるようなお話です。8分程度(約3200字)のスキマ時間に、のんびりとコーヒー片手にどうぞ。

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「もうすぐあなたに会いにゆきます。

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「哀しいくらい」眠れぬ夜と物語と。

「哀しいくらい」眠れぬ夜と物語と。

ある日のこと、なぜか眠れずに困ってしまうことがあった。今更、羊なんて数えても面白くもないし。ということで、悩んだ挙句、脳内短編映画を作ることにした。(いきなりだ。)真夜中に空想で作る映画は案外面白く、眠れないのに夢中になった。

まずは主題歌は小田和正さんにお願いする。(これは譲れない。)小田さんの歌をベースに考えると、やはり、内容は恋愛物になるか。なんて考えてゆくと、どんどん想像がふくらんでゆく

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小さな約束。

小さな約束。

いつか あなたと約束したけど
あんな小さな約束だから
なんてずっと思ってた。

大人になるたび私には
なくしたものと哀しいことが
星の数ほどありすぎて
あの頃の小さな夢は
もう 笑顔で話せないの。

でも あなたのことだから
きっと忘れてくれているよね。
いつも 優しいあなただから。

今 通り雨が過ぎた。
街がまた 動き出す。

私はあなたを待っている。
そして あなたを待っていた。

あんな小

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流れ星と小さな祈り。

流れ星と小さな祈り。

言い争いになりそうな
一歩手前の中途半端な気持ちのままで
僕たちは月明かりの下を歩いた。

どこまで歩いても中途半端で
どこまで歩いても悪いのは僕で

黙って小さく泣きたい気持ちを
ただ、我慢している君に
僕は何も言えやしない。

歩き疲れて公園の
ベンチにふたり座りながら
ふと、夜空を見上げたとき
僕らは流れ星を見つけた。

あ、星が…と、僕が思ったときにはもう
君は両手で小さな祈りを捧げていた

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「初恋と金本君」短編小説。

「初恋と金本君」短編小説。

*短編小説といっても、実はあの頃の私の友達のことです。この主人公の彼女の想いは僕の想像ですが、でも、たぶん、合っているような気がします。
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「初恋と金本君」

たしかあれは、小学6年の運動会の前日だったように思う。

「お、かっこいいじゃん!オレの帽子にも書いてくれよ」

教室で後ろの席の金本君が、私の体育帽子にローマ字で書いてあった名前を見てそう言った

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クリスマスの約束。

クリスマスの約束。

「今、君に何を言えばいいのだろう?」

僕がそう言うと、君は頬杖を突きながら
そのときだけ、僕の目を見てこう言った。

「それが今から別れようとしている彼女に言うべき言葉かしら?」

12月17日の別れというものは、ある意味、とても残酷なものかもしれない。あと1週間もすれば、クリスマス・イブだ。そんなわずかな時さえ待てずに、ほんの小さなすれ違いで、僕の、いや、僕たちの心はここまで離れてしまった。

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ウサギが朝食を作ってくれた日(物語)

ウサギが朝食を作ってくれた日(物語)

作家気分で有料にしてますが、無料で全文読めます。絵のない絵本のような物語です。昔、私が書いた小説を手直ししました。少し長文(約6400字)ですが、私のお気に入りの作品です。

読むのに15分程度かかると思いますので、お時間があるときにぜひ!秋の夜長にじんわりと、心が暖かくなってくださると幸いです。
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朝起きると、目の前にウサギがいた。

今思えば、ウサギが

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