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ヴィンテージの禁止改訂について

今回のお題はヴィンテージの禁止改訂について。
《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》について、
と言い換えてもいいかもしれない。

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《Lurrus of the Dream-Den/夢の巣のルールス》
コスト:1(白/黒)(白/黒)
伝説のクリーチャー 猫(Cat) ナイトメア(Nightmare)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに入っている各パーマネント・カードが、
それぞれ点数で見たマナ・コストが2以下であること。
(このカードがあなたの選んだ相棒であるなら、あなたは1回のみゲームの外部からこれを唱えてもよい。)
絆魂
あなたの各ターンの間、
あなたはあなたの墓地から点数で見たマナ・コストが2以下のパーマネント呪文を1つ唱えてもよい。
3/2
レア

このカードはご存知の方も多いかと思う。
2020年5月18日付でレガシーとヴィンテージの禁止カードに指定された。

イコリアの発売日はコロナの影響もあり、
日本、韓国、中国、台湾、香港では2020年4月17日だが、
それ以外では2020年5月15日が正式発売日。
もっとも5月15日前にそれなりに各国で出回っていたとは思うものの、
最長の見方で4月17日発売で5月18日で禁止。
一ヶ月程度で禁止された事は間違いない。

この数年、新セットから各レギュレーションで禁止は多く、
禁止はもう珍しいとも思わない。
けれども今回の禁止は異例中の異例。

レガシーについては、《黎明起こし、ザーダ/Zirda, the Dawnwaker》

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と一緒に禁止された事を含めて、
これと言ってコメントする必要は無い。
レガシーでは一定量やりすぎと思われたカードは禁止されている。
ここ1~2年の話では、

《死儀礼のシャーマン/Deathrite Shaman》
《レンと六番/Wrenn and Six》

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あたりがわかりやすい。

しかし、ヴィンテージではこのカードの禁止は異例だった。
ヴィンテージの世界で禁止されているカードのリストを見るとわかる。
今回はここから話をしていこう。

ヴィンテージで禁止されているカードはいくつかの分類が出来る。

・策略カード(25種類)

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これは仕方ない。
策略カードはもともと通常構築戦用に作られたカードではないからだ。

・アンティに関するカード(9種類)
《Amulet of Quoz》
《青銅のタブレット/Bronze Tablet》
《Contract from Below》
《Darkpact》
《Demonic Attorney》
《宝石の鳥/Jeweled Bird》
《再誕/Rebirth》
《嵐のイフリート/Tempest Efreet》
《Timmerian Fiends》

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これも仕方ない。
昔MTGがアンティ(賭け)に関するルールとカードがあり、
トーナメントの開催において、賭けより競技性を重視し、
なおかつトラブルを避けるために禁止は当然の措置だ。

・ゲームを混乱させてしまうカード(3種類)
《Chaos Orb》
《Falling Star》
《Shahrazad》

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この3枚だけ。
《Chaos Orb》と《Falling Star》はどちらも、
「このカードをプレイしている場所から少なくとも1フィート高い場所からはじく。」
「このカードが水平に1回転以上した場合、効果を発揮する。」
という、カードゲームにアクションを要求するカードのため、
致し方なく禁止されている。
《Shahrazad》は

《Shahrazad》
コスト:白白
ソーサリー
プレイヤーは、それぞれのライブラリーを自分のデッキとして
マジックのサブゲームをプレイする。
そのサブゲームに勝利できなかったプレイヤーはそれぞれ、
自分のライフの端数を切り上げた半分を失う。

という、対戦中に別の対戦をしなければならないため、
時間、場所ともに用意が難しい事から禁止されている。
なお、一時期はこのカードはヴィンテージで使えた時代もある。
店主は使った事もある。
このカードについては、時間と場所の両方に無限に余裕があるのなら、
禁止される理由は無いのだが、
時間と場所を無限に解決する方法など見つからないだろう。

これ以外ではヴィンテージはアン・シリーズ等の特殊なカードを除き、
(銀枠、金枠、プレイテストカード等のこと。)
どれほど強いカードであろうともデッキに1枚は採用可能だ。
余談になるが、
《Shichifukujin Dragon》
《1996 World Champion》
は仮に持っていたとしてもヴィンテージで使う事は出来ない。
何故なら、
「ヴィンテージ使用可能セット」
の項目に存在しないからである。

さてお話を《夢の巣のルールス》に戻そう。
このカードは、

策略カード
アンティに関するカード
ゲームを混乱させるカード

のどれにも属さない。
禁止された原因は、
イコリア発売後のヴィンテージの大会において、
トップ8の全てのサイドボードに《夢の巣のルールス》が採用されていた事。

そして相棒ルールは
「あなたは1回のみゲームの外部からこれを唱えてもよい。」
というルールであるため、
最初から1枚制限を食らっている事と同様の状態だ。
最初から制限されていてもトップ8のデッキ全てに採用されていては、
これはもうどうしようもない。
禁止改訂で1枚制限にしても何も変わらない。
だからこそ、禁止にしたのだろう。

しかし、MTGの歴史の中で、
「ヴィンテージの世界において、強すぎるから禁止。」
を食らったカードは無い。
ヴィンテージの世界は普通のカードであるのなら、
どんなに強いカードでも1枚制限で止まってきた。
今まで禁止されてきたカード達は、
ゲーム上不適切である事が禁止条件
であって、
強力なカードである事が理由になる事は無かった。
最強と言われる《Black Lotus》であろうと1枚使える事がヴィンテージの魅力。

このカードは突然にしてMTGの歴史を塗り替えてしまったとも言える。
それも発売一ヶ月で。
ただ、このカードが《Black Lotus》より強いわけでもない。
ルールにあまりに問題があっただけに過ぎない。

この《夢の巣のルールス》がダメだという話については、
禁止発表前に友人とも話をしていた。

友人「この相棒システムは本当にMTGをダメにしかねない。」
店主「初手に必ずあるカードという時点でバランスを崩す事くらい、
 ちょっと考えればわかりそうなものなのにね。」
友人「EDHにまで中途半端に侵食するのがダメ。
 公式が作ったわけではないEDHのルールまで、
 公式のダメなアイデアで世界を壊さないでほしい。」
店主「ジェネラル+99枚で構築という基本から外れちゃうからね。」
友人「もうちょっとやりようが無かったのかね、これ。」
店主「やりようはあったよ。しかも簡単に。」
友人「どんな?」
店主「土地にすれば良かったんだよ。
 『なんらか条件付きでサイドボードから土地をセット出来る。
 この土地は1ターン目にセットする事は出来ない。』

 というルールで。
 これならまずバランスが壊れない。」
友人「あ、それだ。」
店主「これなら土地事故を起こした際にも復帰チャンス。
 初手の手札キープ基準も少しだけ変化して、
 運ゲーの要素を少しだけ排除する可能性になる。」
友人「名前どうするの?相棒じゃないでしょ、それ。」
店主「他次元でいいんじゃない?
 世界観もゲーム性も多分壊れないよ。」
友人「完璧だな。もうお前がカードデザイナーになるべき。」
店主「それが出来たら理想だけどねぇ。」

こんなお話をしていた。
下手にクリーチャーにして、
しかもフィニッシュ手段になりかねないから問題になる事なんて、
デザインした時点で多少なり想像がついてもおかしくはない。
クリーチャーではなく土地の場合、
最初から余程強い能力でもつけておかない限りは、
「土地は1ターンに1枚セットする事が出来る。」
という基本ルールからも外れない。
そして、土地を相棒のように使えるの場合なら、
土地事故によって一方的に負ける要素を少しでも軽減出来る。

例えば、こんなデザイン。

カード名:他次元の森
土地・森
T:(緑)を加える。
このカードはあなたの手札に土地が無い時、
あなたは手札を公開してもよい。
そうしたならあなたは1回のみゲームの外部からこれをプレイしてもよい。
この能力は2ターン目以降に使用する事が出来る。

もう1つくらい出してみよう。

カード名:他次元の平地
土地・平地
T:(白)を加える。
対戦相手1人があなたより多くの土地をコントロールしている場合、
あなたは1回のみゲームの外部からこれをプレイしてもよい。
この能力は2ターン目以降に使用する事が出来る。
あなたはこのカードがゲーム外部から戦場に出たターンに呪文をプレイ出来ない。

相棒の条件のようにもう1つくらい追加しておいたら、
おそらくこれでゲームバランスは壊れない。
ちょっと弱く作るならタップイン。
何よりこの程度の土地能力だとフィニッシュ手段にもならないし、
決め手にもなりにくい。
土地をギリギリまで切り詰めるデッキが有利になる事はあるだろうが、
それで環境を狂わせるところまでは行かないだろう。
《夢の巣のルールス》がまずかった点は、
継続的アドバンテージが可能であった事。
土地の場合では余程の能力をつけない限りはそんな事は起こり得ない。

こんな空想話も悪くはないが、
現実の問題に話を戻そう。

これは本当に最悪の出来事だと思う。
ヴィンテージを長年やってきた者として、
こんな形で禁止カードが出る事はあまりにもひどい。
極論、
《夢の巣のルールス》に限らないが、
他の相棒カードも、相棒と書いていないのであれば、
別に特別なほど強いわけではなかった。
相棒というルールが全てを台無しにしている。

一介のプレイヤー、
一介のショップオーナーの立場では、
この言い分は正しいと言い切れないものはあると思うが、
今回の禁止については、
もっとやりようがあったと思う。

一番ではないかと思う方法は、

「システムが失敗であった事を全面的に認め、
 相棒のシステムの完全廃止。
 現在刷ってしまったカードから相棒に関する記述を無くすと発表。
 再版からは相棒の記述を消したものを発行。」

失敗をしっかりと認め、
真摯な態度であればMTGプレイヤーは最終的には離れないと思う。

禁止にしてしまう事は下策中の下策。
ヴィンテージというMTGの伝統に傷をつけるやり方だ。

それにMTGのカードの一部ではあるが、
カードに書いてあるテキストと違う効果になっているカードはある。
中には記述の一部を削ったカードもある。

一例で言えば、

《Illusionary Mask》
《衝動/Impulse》
《空飛ぶ絨毯/Flying Carpet》

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このあたり。

《Illusionary Mask》はカードテキストの効果と、
実際の効果は全く違う。
カードテキストをいくら読んでも現在のオラクルとは合致しないので、
このカードはオラクルを読んで理解して使わなければいけない。
しかも何度もの変遷を経ているし、
その変遷全てがこのカードのテキストと合致した事もない。

《衝動/Impulse》のビジョンズ版は、
「ライブラリーのトップ4枚を見て1枚を手札に加える。
 残りをライブラリーの下に置いて、
 その後ライブラリーをシャッフルする。」
と書いてある。
このカードの
「その後ライブラリーをシャッフルする。」
は最初から間違いだとしてシャッフルをしないと発表された。
もちろん再録された版についてはこの一文は削除されている。

《空飛ぶ絨毯》は知らない人が一番多そうだが、
思ったよりもカードの効果は変わっている。

過去のルールでは、
「2T:対象のクリーチャー1体はターン終了時まで飛行を得る。
 このクリーチャーがこのターンにいずれかの墓地に置かれた場合、
 空飛ぶ絨毯を埋葬する。」
(埋葬=破壊し再生不可。)
だった。

現在のルールでは、
「2T:クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで飛行を得る。」
になっている。

《空飛ぶ絨毯》が対象にしたクリーチャーの死亡時に《空飛ぶ絨毯》は無傷になった。
テキストが半分消滅しているので、
小さな変化とは言えない。

それに、プレインズウォーカールールや伝説ルールの変更の影響で、
多くのカードに変更が加えられてしまったケースまで考えると、
書いてあるテキスト通りにゲームをすると間違いになる事はいくつもある。

ゲームバランスの崩壊によってルールを消し飛ばしてしまう事も異例になってしまうけれども、
過去にカードのテキストを変化させているケースを鑑みれば、
過去に事例が無かったという話ではない。

だからこそ、
失敗を素直に失敗と受け止めて、
オラクル変更という形も1つのあり方ではないかと。
少なくとも今回の失敗は、
今まで犯したものの中でも前代未聞の重さがあると感じている。
メーカーにこの言葉が届くかどうかはわからないけれども、
《夢の巣のルールス》禁止ではない別の対応を行い、
ヴィンテージの伝統を守ってもらいたい。

ではまた。



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