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#6 映画『命乞いコレクター』"ゾンビ練習"のシーン

前回はヌエとその仲間たちのシーンを紹介しました。この映画の設定から言うと「命乞いを集める側」ですね。さて今回は、命乞いをする側に焦点をあてます。

「命乞いが面白かったら助ける」という約束がある以上、映画の中で誰かが助からないと、お客さんの期待を裏切ることになります。

現在の構想では、冨田というクズ男が助かることになっています。今日は冨田と、冨田の彼女、日向子とのシーンを紹介しますね。

こちらのお二人です(イラスト:シーズン野田

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ゾンビ練習

◯日向子のアパート
  日向子、ゾンビを真似て歩いている。
日向子「(いわゆるゾンビのうめき声)うう…。(突然やめて)どうかな?」
  と、聞いた先にはボーイフレンドの富田がいる。手には何やらゾンビファンブックらしきものを持っている。
富田「ごめん、ちょっと何を基準にしたらいいか」
日向子「ちゃんと怖い?」
富田「くはない。大体なにこれ、How To Zombieって?文法間違ってるし」

  日向子、ゾンビの動きで富田を食べるフリなど。
富田「(動じず、読んで)脳みそが腐っているので考えることはできません。本能で生肉に向かって、本能で生肉にかぶりつきましょう。こんなんが売り物に(背表紙を見て)わ、2800円!馬鹿じゃないの!」
日向子「あたし、才能ないのかな…」
富田「才能って、ゾンビの才能?」

  日向子、うなずく。
富田「素人意見で申し訳ないんだけどさ、なんか関節とか腐ってる感じ出したらいいんじゃない?」
  日向子、ぱあっと笑顔になり、
日向子「さすが!トミー君天才!」
  と、やってみるが、いかんせん嘘臭い。
富田「なんか違うな。決めちゃうんだよ。例えば、左足の関節が弱いとか、個体の特徴をさ」
  と、さっと実演してみると、日向子より遥かに雰囲気が出ている。
  日向子、しばらく見入ったあと、拍手。
富田「え?嬉しいけど、嬉しくない」
日向子「凄い!生きてるように見えない。[ 富田自身の生き方について言われているような感じにしたい。彼の受け取り方がそうなるように。]教えて」

富田「だから、(実演しながら)まず左足を引きずって…腐ってるつっても死後硬直みたいのあるだろうから硬くすんだ、身体を。あと目線ね、なんかどこも見てない感じにしたかな」
日向子「すんごいナチュラル!前世はきっとゾンビだったね」
富田「おかしいでしょそれ」
日向子「…身体を硬くする、か。なろうね二人で、ゾンビのカップルに」
富田「(いなす感じで)そうだね、手始めに今夜ベッドの中でなろうね。本能で生肉にかぶりつきましょう」
日向子「なにそれー」
富田「死後硬直じゃないのに硬くなる部分があるんだよ」

  タイミング良く電子レンジがチンと鳴るので、
富田「ぽこ」
日向子「(笑って)いやだぁ」
富田「(行きながら)前から聞こうと思ってたんだけどさ、なんでそんなにゾンビ好きなの?」
日向子「好きなんじゃないの。なりたいの」
富田「ん、実際に?」
日向子「うん」

  富田、軽くうなずき、電子レンジの中身を取り出す。
富田「(運んできて)お待たせしましたー。電子レンジしか使ってない鳥ささみの明太子巻でございまーす」
  日向子、もっと話したそうな表情。
富田「(気づいたが無視して)電子レンジあれば何でも出来る。電気ある無人島だったら俺は電子レンジ持ってくね」
日向子「ねえ、なんでなりたいの?とか聞いてよ」
富田「うん、それ聞いちゃうとね、君のことを単なる不思議ちゃんじゃ説明し切れなくなると思ってね、やめた」
日向子「説明って、誰に?」
富田「ひとまず、俺に」

  と、ささみをテーブルに置き、箸などの用意をする。
日向子「(ふふ、と嬉しそうに)あたしって不思議ちゃんなんだ」
富田「喜んじゃうかー」
日向子「天才君と不思議ちゃん。(間)漫画のタイトルみたい!」
富田「4巻くらいで打ち切りになりそうなね」
日向子「あたし昔ね、足音がムカつくってフラれたことあるんだよ」
富田「(流して)うん、食べようか」

  二人、ほぼ同じタイミングでささみ明太子巻を食べる。
日向子「(真剣に)んん…」
富田「どうした、不味いか?」
日向子「え、いや、イカレポンチって言葉好きだなぁって」
富田「んー」
日向子「悪い言葉なはずなのに、悪くなり切れてない感じがするでしょ」
富田「だね。(間)あのさ、結婚しようか」

  日向子、手が止まりキョトンとした顔を富田に向ける。
富田「…こりゃまた絵に書いたようなキョトンとした顔だ」
日向子「(じわりと表情が変わり)嬉しい」

  富田、多少なりとも緊張していたのか、肩の力が抜け笑顔になる。
日向子「でもごめん!」
富田「おおっと」
日向子「トミー君のこと愛してるけど、あたしゾンビになってゾンビと結婚するのが夢だから」

  今度は富田がキョトンとする番である。
日向子「いや分かるよ。本当はいないかもだけどさ。でもね、世界には7億人?70億人?だかいるじゃない。一人と1秒過ごしたとして、全員に会うまで200年かかるんだって。200年もあったら会えそうでしょ?ゾンビの一人や二人」
富田「…200年生きられないのに?」
日向子「(モグモグ)そこなんだ。そこなんですよ問題は」
富田「そっか…なんかがんば(ってね)」
日向子「(遮って)これ美味しい!」

ちなみに、冨田は女ったらしでもあり、複数の女性と付き合っています。女性には困っていないのに、予想通りに動いてくれない(おそらくはメンヘラな)日向子に惹かれてしまう。

きっと、ゾンビになる方法を真剣に調べたりするんじゃないかな。んなもんないと分かっていながら。

そんな感じで観客が冨田のことを「こいつクズだけど嫌いになれない」と思った辺りで、ヌエの前に引っ張られてくる。
・クズだけど面白い冨田はどんな命乞いをするんだろう?
・その結果ヌエは冨田を助けるのか?殺すのか?
というシーンが待っています。

次回予告

ってなわけで、次回はそのヌエと冨田が対峙するシーンをご紹介します!

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