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日本中に愛された作曲家・中山晋平 『シンペイ 歌こそすべて』

シンペイ 歌こそすべて
2025年1月10日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 1905年(明治38年)。長野県から上京し、早稲田大学文学部教授・島村抱月の書生になった青年がいた。彼の名は中山晋平。音楽教師になる夢を抱き、抱月の仕事を手伝いながら、3年後には東京音楽学校予科へ。翌年には本科ピアノ科に入学し、卒業後は念願の音楽教員として独立することができた。

 彼は恩師抱月が旗揚げした劇団「芸術座」に参加。トルストイの「復活」上演に際して、劇中歌「カチューシャの唄」を作曲したところ、これが一世を風靡する大ヒットとなる。晋平はその後も劇団に関わっていたが、1918年に抱月が急死し、看板女優松井須磨子もその後を追って自殺したことで劇団は解散する。

 教員時代に結婚した晋平は、教員と二足のわらじを履きながら作曲活動を継続。野口雨情の依頼で作曲した「船頭小唄」が大ヒットしたこともあり、晋平は教員の職を辞して作曲活動に専念するようになる。だがこれは、中山晋平快進撃の序章に過ぎない。

■感想・レビュー

 デビュー作「カチューシャの唄」で日本の流行歌第一号の作曲家となり、その後も多くの歌曲(劇中歌、流行歌、新民謡、童謡など)を作曲した中山晋平の伝記映画。音楽家の伝記なのでさまざまな曲が劇中に散りばめられているが、その多くは日本人ならどこかで耳にし、自分でも歌ったことがある曲ばかりだと思う。

 監督は実話や伝記をモチーフに数々の作品を作っている神山征二郎。今回の映画はエピソードを淡々とつないでいるだけで大きなひねりはないのだが、小さな役にまで実力派の俳優を配したキャスティングの厚みと、奇をてらわない正攻法の演出、主として長野県で行われたというロケーション撮影の効果、そして映画全編を彩る中山晋平の楽曲などで、見応えのある作品に仕上がっていると思う。

 中山晋平の生涯は、ひねりを入れようとすればさまざまなアイデアが考えられそうなのだ。例えば妻の生前から芸者の喜代三と不倫関係にあり、妻の死後はすぐ再婚していることなどは、現代の感覚からすると「それってちょっとどうなの?」と思ってしまう部分だ。しかし映画はこのあたりを軽くあしらって、中山晋平という人物を好ましい人物に見せることに成功していると思う。

 こうした主人公のキャラクター作りに、多大な貢献をしているのが主演の中村橋之助だ。端正な日本的な二枚目だが、これが映画デビュー作にして初主演作。その割には芝居度胸がいいのだが、それもそのはず、父は八代目中村芝翫、母は三田寛子、弟が中村福之助と歌之助という歌舞伎の名門成駒屋のプリンスなのだ。今回の映画では音楽に一途な中山晋平の、10代から亡くなる65歳までを演じきっている。

 一方で歌手の佐藤千夜子や晋平の後妻となる新橋喜代三は、別の俳優をあてた方が良かったと思う。映画は残酷なリアリズムの芸術だ。演じる俳優の実年齢と役の年齢ギャップがスクリーン越しに伝わってきてしまうと、そこで物語が破綻してしまう。

TOHOシネマズ日比谷(スクリーン2)にて 
配給:シネマディア 
2024年|2時間7分|日本|カラー 
公式HP:https://shinpei-movie.com/
IMDb:https://www.imdb.com/name/nm0477771/

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