エーちゃん
S53旧司法試験論文憲法参考答案

S53旧司法試験論文憲法参考答案

エーちゃん

司法試験、予備試験の受験生の皆様、いつもお疲れ様です。

2012年(平成24年)度新司法試験合格者のエーちゃんといいます。

今回は、旧司法試験昭和53年憲法論文試験の問題を最近(令和元年、平成30年)の新司法試験の設問風にアレンジした問題を題材に、僕の参考答案を載せています。

なお、昭和53年の旧司法試験の憲法というと古い問題で、今やる意味あるの?と思われるかもしれませんが、

実は、平成30年新司法試験憲法の論文試験とほぼ論点が同じ内容となっており、今の新司法試験の論文対策としても有益だと思っています。

また、いきなり新司法試験の問題を解くよりは、まずは、旧司法試験や予備試験などの短文の問題で多角的な主張の仕方(問題点→反論→私見)を学んだ方が、新司法試験の論文憲法にスムーズに移行できると思います。

なお、この参考答案を使うにあたっての注意点を挙げておきます。

まず、この参考答案はあくまで僕が考えた一例ですので、これが唯一の正解というわけではありません。

なので、この参考答案を無批判に使うのではなく、あくまで司法試験や予備試験の憲法の答案イメージを沸かせるための参考として使って欲しいと思います。

もちろん、司法試験や予備試験でもこのような答案をそのまま載せれば受かる訳ではありません。(むしろ時間不足や答案用紙不足になってしまいますね。)

また、論証も長めに書いてあるのは、この参考答案を読むことで、①法的三段論法の論証方法条文からの規範の定立→あてはめ→結論)、②三段階審査違憲審査基準を使った答案の書き方、③判例の引用の仕方などをつかんで欲しいからです。

いわば「問題文と参考答案を読むことで勉強になるようなnote」になればと思い作成しました。

なお、途中やや参考文献に載っていない表現があります(表現内容規制の根拠が妥当しないなど)。これは、僕自身がそれぞれの制度の根拠に遡って論理的に考えたものですので、学問的な正しさは保証できない点はご注意ください。

ただ、司法試験は学問的に正しいことを求められているのではなく、あくまで実務家登用試験ですので、基本的な条文の要件や趣旨、概念の定義、判例や学説による法解釈に基づいて、問題文の事案に即して自分なりに論理的に表現された答案も評価されているようですので、学問的な正しさにそこまでこだわる必要はないのではないか、と個人的には思います。

それでは、まず設問を読んで少し考えてから(もしくは、答案構成をしてから)参考答案を読んでみてください。

(旧司法試験昭和53年論文式試験憲法第1問(改題))

A県では,自動販売機による有害図書類の販売を規制するため,次の案による条例の制定を検討している。
「第5条 自動販売機には,青少年に対し性的感情を著しく刺激しまたは残虐性をはなはだしく助長し,青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると認めて知事が指定した文書,図画またはフィルムその他の映像若しくは音声が記録されている物を収納しまたは陳列してはならない。
2 知事は,前項の規定に違反する業者に対し,必要な指示または勧告をすることができ,これに従わないときは,撤去その他の必要な措置を命ずることができる。この命令に違反した業者は,3万円以下の罰金に処せられる。」

〔設問〕
あなたは,A県から依頼を受けて,法律家として,この条例案が合憲か違憲かという点について,意見を述べることになった。
その際,A県からは,参考とすべき判例があれば,それを踏まえて論じるように,そして,判例の立場に問題があると考える場合には,そのことについても論じるように求められている。また, 当然ながら,この条例案のどの部分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを 明確にする必要があるし,自己の見解と異なる立場に対して反論する必要があると考える場合は, それについても論じる必要がある。 以上のことを前提として,あなた自身の意見を述べなさい。

(参考答案)

第1 法令違憲(明確性の原則違反《憲法21条1項,憲法31条》)
1 まず,A県条例案(以下,「本件条例案」という。)5条1項の「性的感情を著しく刺激し,または残虐性をはなはだしく助長し,青少年の健全な育成を阻害するおそれがある」という文言が不明確であり、かつ、同条2項が,同条1項の要件を満たす場合には自動販売機業者(以下,「業者」という。)に対し3万円以下の罰金刑を科していることが,罪刑法定主義(憲法31条)の一内容である明確性の原則に反しないかという問題点がある。
同様に、本件条例案5条1項の文言が漠然不明確であり憲法21条1項に反しないかという問題点がある。
2 この点について,徳島市公安条例事件において、最高裁は憲法31条が刑罰法規の明確性を要求する根拠として、①刑罰の対象となる行為を一般国民に告知すること,及び②国家権力による刑罰法規の恣意的適用の防止を図ることを挙げている。
そして、このような憲法31条の根拠から同判例は、明確性の判断基準として、「当該法令が通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的な場合に当該行為に適用できるかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかによって」判断すると述べている。
この判例に従って検討すると,本件条例案5条1項の「性的な感情を著しく刺激し」というのは,具体的にどの程度の内容なら「性的」「感情」が「著しく刺激」した文書といえるのか,幅がありすぎるため、通常の判断能力を有する一般人の理解において読み取れない。
また、同項の「残虐性をはなはだしく助長し」という文言も大量殺人の写真等が載っているものはともかく,その他の場合に、具体的にどのような文書等がこれにあたるかについて、幅がありすぎて、通常の判断能力を有する一般人が読み取れない。
したがって,本件条例案5条1項は憲法31条の明確性の原則に反するのが原則である。
次に、憲法21条1項は本来規制対象とならない表現まで差し控えること(萎縮的効果)を防止するという要請から、表現の自由を規制する法令は明確ではなくてはならないという明確性の原則を定めていると解されている。したがって、上記判例と同じ基準により本件条例案5条1項は明確性の原則(漠然性故に無効)に反するのが原則である。
3 もっとも,本件条例案5条は青少年保護を目的とした規制であるから,一般の表現の自由の制約と同じに考えるのではなく,明確性の要求についても,通常の表現の自由の制約に比して多少ゆるめられるべきであると解する。
そこで,例えば,本件条例5条1項の「性的感情・・・と認めて知事が指定した文書、・・・記録されている物」(以下、「有害図書類」という。)の定義を規則などの下位基準により具体化,限定化すれば,明確性の原則違反とはいえず,憲法31条,21条1項に反しないといえる。
第2 法令違憲(憲法21条1項違反についての目的手段審査)
1 青少年の知る自由について
(1)まず,本件条例案5条が「有害図書類」の読み手である青少年の知る自由を侵害し憲法21条1項に反しないかという問題点がある。
(2)そこで,まず,青少年の知る自由が憲法21条1項の「表現の自由」として保障されるかについて検討する。
ア 確かに、憲法21条1項の「表現」とは文言上は専ら表現の送り手を意味することから、同条項は表現の発信側の自由(出版の自由など)を保障したものであり、表現の受け手側の自由、すなわち知る自由を保障したものとはいえないと解する余地もある。                    しかし、そもそも「表現の自由」が、憲法21条1項によって保障されたのは、表現活動には①各人が表現活動を通じて様々な意見、情報を発信し、また相互に意見、情報を交換することによって、自己の思想及び人格を形成、発展させるという価値(自己実現の価値)、及び②そのように各人が相互に意見、情報を受領することで、自由な意思により自己が正当と信じるものを採用することによって多数意見が形成され、このような過程を通じて国政が決定されるという価値(自己統治の価値)があるからである。
イ そして、青少年の知る自由についても、彼らが様々な意見、情報を入手することによって自己の思想,人格を形成、発展させるという価値(自己実現の価値)はあるといえるし(①充足),彼らが様々な意見,情報に基づいて自己が正当と信じるもの採用することにより、将来の多数意見が形成され、このような過程を通じて国政が決定されるという価値(自己統治の価値)もあるといえる(②充足)。
ウ また、文言上も「表現の自由」は、情報をコミュニケートする自由であると解されていることから、本来受け手の存在を前提としており、知る自由を保障する意味も含まれていると解することができる。
エ 以上より、青少年の知る自由も憲法21条1項の「表現の自由」として保障されると解する。                        (3)次に,本件条例案5条が青少年の知る自由を制約するかについて検討する。
この点については,本件条例案5条1項によって、青少年が「有害図書類」を自動販売機で購入できなくなり、その結果「有害図書」という書籍等を知る機会が著しく減少するといえ、青少年の知る自由への制約はあるといえる。
(4)最後に、本件条例案5条が青少年の知る自由を実際に侵害するか否かについて検討する。
ア この点について,①青少年の知る自由も前述の通り,自己実現,自己統治の価値に資する重要な権利であること,②本件条例案5条1項は「有害図書類」という表現のメッセージにより生ずる害悪(青少年による性的逸脱行動等)に着目した表現内容規制であり,思想の自由市場をゆがめるおそれがあることから,本件条例の立法目的が必要不可欠であり,かつ規制手段が必要最小限度であれば合憲とする厳格な審査基準が妥当するという反論が考えられる。
イ しかし,青少年は成人と比べ情報選別能力が不十分であり,知る自由の要保護性は成人よりも低いことから上記反論①は妥当ではない。
また,本件条例案は確かに「有害図書類」という内容に着目した表現内容規制であるといえるが、本件条例案の目的は、上記判例によれば,精神的に未熟な青少年が有害図書に触れることにより,青少年の価値観に影響を与え,性的な逸脱行動や,残虐な行動につながることを防止し,もって青少年の健全な育成を図ること(パターナリスティックな制約)にある。
そして、表現内容規制に厳格審査基準が適用される根拠は,前述のとおり思想の自由市場をゆがめることにあるが、本件条例案のように青少年の保護を目的とした規制の場合,保護の対象となる青少年には情報選別能力が十分にはなく,思想の自由市場が機能する前提(各人に十分な情報選別能力があってはじめて思想同士を戦わせることができる)を欠くことになる。
したがって,表現内容規制であることを理由として厳格な審査基準が適用される根拠を欠くことになるため,反論②は妥当ではない。
そこで,本件条例案5条により制約される青少年の知る自由は成人の知る自由よりも要保護性は低く,また、同条は表現内容規制の根拠が妥当しないことから,本件条例案5条の①立法目的が重要で,かつ②規制手段が立法目的と実質的に関連している場合に限り合憲とする厳格な合理性の基準によって判断すべきである。
(5)本件での検討
ア 本件条例案5条の目的について
(ア)まず,本件条例案5条の目的は、「有害図書類」が青少年の価値観に影響を与え,青少年の性的逸脱行動や残虐な行動を引き起こすことから,それを防止し、それによって青少年の健全な育成を図ることにある。
(イ)この点について、上記のように「有害図書類」が心身ともに未発達な青少年の価値観に影響を及ぼすとしても、それから直ちに彼らが性的逸脱行動や残虐な行動を引き起こすという科学的根拠(エビデンス)は存在しないとして,本件条例案5条の目的は重要でないという反論が考えられる。
(ウ)しかし、前述の通り青少年は心身が未発達であるがゆえに情報の選別能力を十分有せず,彼らの知る自由の要保護性は大人と比べ低いといえること、また、青少年にはパターナリスティックな制約の要請が働くことから、反論のように彼らへの害悪発生が生ずる科学的根拠が存在することまでは不要であり,相当の蓋然性があれば足りるというべきである。
そして,「有害図書類」により心身が未発達な青少年が影響を受け,性的な逸脱行動や残虐な行動を引き起こすというのは社会一般の経験則に照らしても十分根拠があるといえるため,相当な蓋然性は認められる。
したがって、本件条例案5条の①立法目的は重要である。
イ 本件条例案5条の規制手段について
本件条例案5条の②規制手段と立法目的が実質的に関連しているか否かは,㋐手段の適合性(規制手段が立法目的の達成に役立つか),㋑手段の必要性(当該条文の立法目的を達成できるよりゆるやかな手段があるか),㋒利益の均衡(規制により得られる利益と失われる利益はバランスがとれているか)(狭義の比例原則)によって判断するべきである。
(ア)まず,㋐手段の適合性についてみると、本件条例案5条により青少年が「有害図書類」を自動販売機で購入できないことによって、彼らが「有害図書類」を読むことはできなくなり、その図書類から悪影響を受けることもなくなり、ひいては青少年の健全な育成に十分役立つといえる。
他方で,本件条例案5条2項の3万円以下の罰金程度では,業者に対するペナルティーとしてはあまりにも軽く,自動販売機業者が「有害図書類」を販売することを抑止する効果として十分でないことから、手段の適合性は認められないという反論が考えられる。
しかし,罰金3万円とはいえ刑罰の一種ではある以上,業者が実際に本件条例案5条に違反して罰金刑に処せられた場合,新聞等の報道によって、当該業者の社会的信用や企業イメージは失われることが予測されることから当該業者に対する抑止効果としては、十分といえる。
以上により,㋐手段の適合性は認められる。
(イ)次に,㋑手段の必要性(同じ目的を達成できるよりゆるやかな手段があるか)について検討する。
本件条例案5条1項は,前述判例で問題となった包括指定(知事が個別具体的に当該図書類が「有害図書」にあたるか判断するのではなく,条例や下位の規則などにより量的基準を設け,それにあたる図書類を自動的に「有害図書類」と指定する方法)ではなく,同項に「・・・と認めて知事が指定した」とあるように個別指定を定めたものである。
これは包括指定と異なり,知事が個別具体的に、当該図書類の青少年に対する悪影響を一つ一つ検討しながら判断するものであり,青少年の健全な育成という目的を達成する上でこれよりゆるやかな手段というのは考えがたい。
したがって,本件条例案5条1項の個別指定と同じ目的を達成できる,よりゆるやかな手段は存在せず,㋑手段の必要性は認められる。
(ウ)最後に㋒利益の均衡(狭義の比例原則)について検討する。
本件条例案5条が制定されたとして得られる利益は,青少年が「有害図書 類」を入手できないことによって、彼らの価値観に悪影響を及ぼすことがなく、青少年の健全な育成が図れることである。
青少年は心身が未発達であり、一旦「有害図書類」に触れると、彼らに回復困難な影響を及ぼすおそれがあるといえるので、「有害図書類」に触れないことにより図れる青少年の健全な育成という利益は大きい利益といえる。
また、失われる利益は、青少年の「有害図書類」を知る自由であるが,前述のとおり彼らは情報選別能力が成人よりも不十分であり、知る自由の要保護性は低いといえ,失われる利益は成人と比べるとそれほど大きいとはいえない。
したがって,規制により得られる利益の方が規制により失われる利益よりも大きいといえるため,㋒利益の均衡は認められる。
(エ)以上から本件条例案5条は㋐手段の適合性,㋑手段の必要性,㋒利益の均衡のいずれも認められるため,②規制手段が立法目的と実質的に関連しているといえる。
(6)したがって,本件条例案5条は①立法目的が重要で,②規制手段が立法目的と実質的に関連しているといえるため,青少年の知る自由を侵害せず,憲法21条1項に反しない。
2 成人の知る自由について
(1)青少年と同様に本件条例案5条が成人の知る自由を侵害し憲法21条1項に反しないかという問題点もある。
(2)まず,成人の知る自由についても青少年の知る自由とほぼ同様の理由により憲法21条1項により保障される。
(3)もっとも,本件条例案5条が成人の知る自由を制約するか否かについては,別途検討を要する。
ア この点について,成人は青少年と異なり、法的には「有害図書類」を購入することができる上、たとえ自動販売機で「有害図書類」を購入できなくとも、書店やインターネットなどで「有害図書類」を購入することは可能であることから、本件条例案5条は成人の知る自由を制約しないという反論が考えられる。
イ しかし,自動販売機による「有害図書類」の購入は、成人にとっても、店頭などの対面販売と比べ、人目や店員との対応を気にする必要がないため、心理的抵抗が少なく、それゆえ本件条例案5条によって自動販売機による「有害図書類」の販売が禁止されると、成人にとって「有害図書類」を入手する機会が減ることになるといえる。
また、事実上他の販売経路(書店やインターネット)で「有害図書類」を購入できるということと、本件条例案5条によって成人の知る自由に対する制約があるか否かについては別次元の問題であって、上記反論は妥当ではない。したがって,本件条例案5条は成人の「有害図書類」の入手の機会を減少させるという点において、成人の知る自由を制約しているといえる。
(4)次に,本件条例案5条が成人の知る自由を実際に侵害するかについてについての審査基準について検討する。
ア この点については,①成人の知る自由といっても,本件では「有害図書類」という自己統治の価値が希薄な表現についての知る自由であるため,その重要性は政治的表現を知る自由と比べて低いといえること、②本件条例案5条は青少年の保護を目的とした規制であって、成人に対する関係では間接的・付随的規制といえることから、同条の立法目的が正当であり,規制手段と目的が合理的に関連しており,規制により得られる利益と規制により失われる利益の均衡がとれていれば憲法21条1項に反しないという,合理的関連性の基準によるべきという反論が考えられる。
イ しかし,上記反論①については,本件条例案5条1項の「残虐性をはなはだしく助長」する文書として,例えば大量殺人の写真などが載せられた本の場合,それを読んだ成人が,現在の法律の問題点を考えたり,そのような大量殺人が生ずる原因を考えることにつながる場合もあり,ひいてはそのようにして形成された自己の見解を社会に発信したり,または選挙権行使の考慮要素にしていくというも十分考えられるため,自己統治の価値が希薄であるとは一概にはいえない。
また,成人については青少年と異なり一般的に,情報選別能力は十分に有しており,知る自由の要保護性は青少年より高いといえ,反論①のように成人の「有害図書類」を知る自由の重要性が政治的表現を知る自由の重要性と比べて低いということはできない。
次に,上記反論②についても,確かに成人にとって本件条例案5条は判例上(猿払事件参照)の間接的,付随的規制といえる。
しかし,同条は成人に対する関係では、「有害図書類」という表現の内容に着目した規制ではなく、青少年の健全な育成を図るという表現内容中立規制といえ、判例のいう間接的付随的規制の理論によって審査基準を著しく緩めてしまうことは、表現内容中立規制における表現の自由の重要性を無意味にしてしまうことになり、妥当ではない。
以上より,成人の「有害図書類」知る自由の重要性は他の政治的表現の自由を知る自由とくらべ低いとはいえず,また、成人に対する関係では表現内容中立規制であることから,合理的関連性の基準よりも厳しい基準で審査すべきである。
具体的には、本件条例案5条の①立法目的が重要であり,かつ②規制手段が立法目的と実質的に関連している限り、憲法21条1項に反せず合憲であるという審査基準(厳格な合理性の基準)によるべきである。
なお、本件条例案5条が青少年の知る自由との関係では表現内容規制であり、成人の知る自由との関係では表現内容中立規制であるという点については、本条例案が青少年の健全な育成を目的としており、青少年との関係では「有害図書類」の内容が生じさせる害悪(性的逸脱行動や残虐な行動)を防止するという内容規制といえるが、成人との関係では彼らの心身の成熟度から「有害図書類」の内容による害悪は生じにくく、むしろ内容とは関わりのない青少年の健全な育成という目的達成のための内容中立規制と評価することも可能であるため論理矛盾とはいえないと考える。
(5)本件での検討
ア 本件条例案5条の目的について
(ア)本件条例案5条の立法目的について,前述の青少年の知る自由の制約において検討した通り青少年への害悪発生が生ずる相当な蓋然性があれば足り,本件でも前述の通り相当な蓋然性は認められるとして,①同条の目的は重要であるという反論が考えられる。
(イ)しかし、成人については、青少年と異なり情報選別能力が不十分ということはなく、彼らの知る自由の要保護性は低いとはいえず、また、成人にはパターナリスティックな要請は働かないため、相当な蓋然性では足りず、「有害図書類」によって青少年に対し害悪が生ずる科学的根拠が存在することが必要であると解する。
そして、前述の通り「有害図書類」が青少年の性的逸脱行動等を引き起こす科学的根拠は存在しないため,本件条例案5条の①立法目的は重要とはいえない。
イ 本件条例案5条の規制手段について
(ア)まず,㋐手段の適合性及び㋑手段の必要性は青少年の知る自由の制約で述べた通り認められる。
(イ)次に,㋒利益の均衡について,検討する。
a この点については,岐阜県青少年保護育成条例事件において,最高裁は、当該条例は成人に関する関係においても有害図書の流通をいくぶん制約することにはなるものの,青少年の健全な育成のため必要やむを得ない規制として,憲法21条1項に反しないと判断した。
このように、本件条例案5条に関しても、青少年の健全な育成という規制により得られる利益の方が,成人の知る自由という失われる利益よりも大きいといえるため,㋒利益の均衡はあるという反論が考えられる。
b 確かに,本件条例案5条によって図れる青少年の健全な育成という利益は青少年の可塑性(成長可能性)を考えると、大きいといえる。
しかし,前述したように成人は青少年と異なり情報選別能力が不十分とはいえず、成人の知る自由の要保護性は高いことから、同条による成人の知る自由の制約は大きいといえる。
したがって,本件条例案5条により得られる利益は失われる利益よりも大きいとはいえず,㋒利益の均衡は認められないといえる。
(ウ)以上より,本件条例案5条の②規制手段は立法目的と実質的に関連しているとはいえない。
(6)よって,本件条例案5条は成人の知る自由を侵害し憲法21条1項に反し違憲である。
第3 法令違憲(憲法22条1項違反について)
1 本件条例案5条1項は,業者が「有害図書類」を収納することを禁じ,同2項において,同1項に違反した業者に罰金刑を定めるものであることから,業者の営業の自由(自動販売機で「有害図書類」を販売する自由)を侵害し憲法22条1項に反しないかという問題点がある。
2 まず、前提として、業者の営業の自由が憲法22条1項により保障されるか検討する。
(1)この点,薬事法事件において,最高裁は、職業は,①人が自己の生計を維持するための継続的活動であるとともに,②社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動を有し,各人が自己のもつ個性を全うすべき場として,個人の人格的価値と不可分の関連を有することから,憲法22条1項の「職業選択の自由」には職業の開始,継続,廃止の自由(狭義の職業選択の自由)だけでなく選択した職業遂行の自由(営業の自由)も含まれると判断している。
(また,実質的にも,選択した職業を実際に営業できなければ,憲法22条1項で職業選択の自由を保障した意味はなくなるため,営業の自由は憲法22条1項により保障されると解する。)
(2)本件でも,業者が「有害図書類」を自動販売機で販売する自由は,業者が選択した自動販売機業という職業遂行の自由といえ,これは業者の営業の自由として憲法22条1項により保障される。
3 次に,本件条例案5条2項により,同1項に違反した業者には,最終的に3万円以下の罰金刑が科されることとなっており,業者が「有害図書類」を自動販売機で販売することが禁止されているため,業者に対する営業の自由の制約は認められる。
4 そこで,本件条例案5条が業者の営業の自由を実際に侵害するかについて検討する。
(1)まず,本件条例案5条が業者の営業の自由を侵害しているか否かをいかなる審査基準によって判断するべきかを検討する。
 ア  この点、薬事法事件判例を参考に考えると、まず、職業は社会的相互関連性が大きいため、職業の自由は精神的自由に比較して、公権力による規制の要請が強い(憲法22条1項が「公共の福祉に反しない限り」と定めたのもこの点を強調する趣旨といえる。)。
そのため、問題となる法令が職業の自由を侵害するかどうかを裁判所が審査する際には、立法府の政策的判断を尊重して、立法府には一定の立法裁量が認められる。
そして、職業の種類や内容、それを規制する目的、規制態様も多種多様であるため、問題となる法令が憲法22条1項の「公共の福祉」に反すかどうかは、一律に判断するのではなく、①制約される権利の性質,②規制態様、③規制目的を比較考量した上で、立法府の裁量の広狭を決定し、審査基準を設定すべきであると解する。
イ 本件条例案5条は,業者の自動販売機による図書類販売を全て禁止するものではなく,その内の一部である「有害図書類」と指定された図書類等の自動販売機への収納(ひいては販売)を禁止するものにすぎない。
これは、①狭義の職業選択の自由の制約ではなく、選択した職業の内容、態様に対する制約といえ、業者に対する営業の自由の制約にとどまるといえる。
また,本件条例案5条は前述の薬事法事件判例の事前規制である許可制とは異なり、同2項で行政指導,行政処分,刑罰というような事後規制を定めるものであるから②規制態様は許可制よりも弱いといえる
そして、本件条例案5条の規制の目的は、前述の通り「有害図書類」が青少年の価値観に影響を与え,青少年の性的逸脱行動や残虐な行動を引き起こすことから,それを防止し、それによって青少年の健全な育成を図ることにある。
これは、自動販売機による「有害図書類」の販売を自由にすることで生ずる青少年への悪影響という害悪を防止するための③消極目的規制といえる。
ウ この点、消極目的規制であることを重視し、本件条例案5条の規制目的が重要であり、かつ、規制手段が規制目的と実質的に関連している限り憲法22条1項に反しないという審査基準(厳格な合理性の基準)によって、法令の合憲性を判断するという反論も考えられる(規制目的二分論)。
エ しかし、上記薬事法事件判例が厳格な合理性の基準を採用したのは、単に規制目的が消極目的であったからだけではなく、もっぱら許可制が狭義の職業選択の自由に対する強力な制約であったためであると解される。
ところが、本件条例案5条は、上述した通り、①狭義の職業選択の自由に対する制約ではなく、営業の自由に対する制約にすぎないし、②規制態様も事後規制という許可制よりも弱いものであることからすると、上記判例の射程は及ばず、本件では、厳格な合理性の基準は妥当しないというべきである。
そこで、本件条例案5条が、①営業の自由に対する制約に過ぎないこと、②規制態様が許可制よりも弱い事後規制であること、他方で、③消極目的規制であり、立法府の政策的判断を尊重する要請はそれほど高いものとはいえず、立法裁量は比較的狭いことからすると、本件条例案5条の㋐規制目的が正当であり、㋑規制手段が規制目的と合理的に関連しており、㋒規制により得られる利益と規制により失われる利益との均衡がとれていれば、憲法22条1項に反しないとする審査基準(合理性の基準)によって合憲性を判断すべきである。
(2)本件での検討
ア 規制目的
本件条例案5条の㋐規制目的については、青少年の知る自由の私見で述べたのと同様の理由で正当といえる。
なお、この点に関して、営業の自由に対する制約を正当化できるほどの目的の正当性があれば足りるため、成人の知る自由というより重要な権利を正当化する場合と結論が異なるのは問題ないと考える。
イ 規制手段
(ア)次に、㋑規制手段と規制目的との合理的な関連性を検討すると、前述の通り、本件条例案5条が制定されると、青少年が「有害図書類」を自動販売機で購入できないことによって、彼らが「有害図書類」を読むことはなくなり、その図書類による青少年への悪影響が生じないことから、青少年の健全な育成に十分役立つといえ、規制手段と規制目的との間には合理的な関連性が認められる。
(イ)そして、㋒規制により得られる利益が、青少年の健全な育成という大きい利益である点は、青少年の知る自由で述べたのと同様である。
他方で、規制により失われる利益は、業者の営業の自由という経済的利益に過ぎず、青少年の健全な育成と比べてそれほど大きい利益とはいえない。
したがって、㋒規制により得られる利益と規制により失われる利益との均衡がとれているといえる。
(ウ)したがって、本件条例案5条の㋐規制目的は正当であり、㋑規制手段が規制目的と合理的に関連しており、㋒規制により得られる利益と規制により失われる利益との均衡がとれているといえる。
5 よって、本件条例案5条は業者の営業の自由(自動販売機で「有害図書類」を販売する自由)を侵害せず憲法22条1項に反しない。

                                以上

(反省点)

まず、この答案は、青少年の知る自由の審査基準のところでは表現内容規制とし、成人の知る自由の審査基準のところでは表現内容中立規制としていますが、正直司法試験でこのように制約対象の主体ごとに内容規制と内容中立規制を変えて良いのかは、正直、まだ勉強不足で分かりません。

ですので、試験的には青少年や成人ともに内容規制か内容中立規制かどちらかで統一した方が無難だと思います。

ただ、個人的には制約されている人権の主体ごとに規制の意味は変わってくる場合もある(例えば、岐阜県青少年保護育成条例事件判例の「有害図書」規制も、青少年との関係では直接規制として、成人との関係では判例も間接的・付随的規制と捉えているようです。)と思い、あえて答案例では分けて書きました。

また、「有害図書類」の表現の価値という点については、青少年のところでも述べた方が良かったかもしれませんし、成人のところでも、表現の価値が低くないことの説明はやや強引だったかもしれません。

さらに、手段の必要性のところも、反論として一度立法目的を達成できるよりゆるやかな手段を一度書いた上で、それは効果的でないと私見で書いた方がよかったように思えます。

皆さんも、一度上記の点についてどのように書いたらいいか考えてみてください。

ここまで、お読み頂きありがとうございます!

この参考答案が、少しでも受験生の皆さんの参考になれば幸いです。

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エーちゃん