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渾身の書『食べることと出すこと』 ― タブーを超えて

頭木弘樹著 『食べることと出すこと』(医学書院、2020年)

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食べることと出すことは
本来セットで考えられるべきかもしれないが
生と死が一繋がりでありながら
死がタブー視されるように
出すことも厭われているように思う

これは大学生のときに
潰瘍性大腸炎を患い
13年間の闘病生活を送った著者が
病の末に至った新境地を
数々の文学紹介を兼ねながら
時に切なく
時にユーモラスに
綴った稀有な書だ

9月25日に著者と翻訳家の斎藤真理子さんによる
オンライントークイベントがあったのだが
2時間では足りないほどで
それだけ広がりと深みのある本を
絶妙な切り口で解き明かしていかれたのは見事だった
スピーカーのお二人はもちろんのこと
このような機会を設けてくださった
代官山蔦屋書店さんにも感謝しかない

本書にはもちろん
壮絶な闘病体験も記されているけれど
けっして闘病記ではなく
誰もが日々経験している排泄行為に関わる苦悩であるがゆえに
誰からも共感を得やすいものだと思う

ただ私の場合は
子に付き添う立場で経験した闘病生活を
改めて思い起こすこともあった

明るく振る舞う昼間の病室と
人間の素が現れる夜の病棟

孤をつきつめていくと
対峙する相手が自分ではなく世界になる点

「わかりあえない」という絶対的な壁がありながらも
どうか想像してみてほしいと願う切実さ

昼間は見えなくても星が存在しているように
この明るく頑張る社会の中で
消えかかり
見えなくなっている存在について

ぜひこの書を通じて
想像してみていただけたら
と願っている