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緑色の彼女をさがして vol.36

春みたいだった。

冬なんてことを忘れるくらい暖かくて、私たちはコートを脱いで歩いた。


日曜日、
北千住の喫茶店サンローゼで待ち合わせ。広い店内の、窓際の端、背の低い白いソファー。


一人、遅れて来るという友達の到着を待たずに、私たちはナポリタンとオムライスを注文した。

友達のナポリタンが運ばれてきてからしばらくして、遅れていた友達も席に着き、私のオムライスも到着。


薄い卵につつまれたハムとマッシュルームが入ったケチャップライス。たっぷりと乗った赤いケチャップを、銀色のスプーン伸ばしてから口に運ぶ。

美味しかった。


後から来た友達がエビピラフを注文したあと、誰からともなく、ここ最近の出来事を話し出す。

良いことも、悪いことも、驚いたことも、嬉しいことも全部。

私たち三人に共通していたのは、
少し疲れているということだった。



サンローゼを出て、
暖かいを通り越して少し暑すぎるくらいの陽射しの中を歩いた。
商店街を抜けて、荒川の河川敷。
空と、川と、緑と、ただ広いその場所はとても気持ちが良かった。少し黄昏てしまいそうになるほど、流れていく水面をじっと見た。

それは私が見たかった景色だった。


本当は、
フィンランドの湖の水面をじっと見ていたい、というのがここ最近の願いだったけれど、その願いは荒川の水面でも少し満たされていく気がした。

それはそれで少し悲しい。

河川敷から一駅分を歩いて、目指したのは南千住の喫茶店 オンリー。

雑誌で見かけてから気になっていた喫茶店で、アメリカンダイナーみたいな感じの内装が見て見たかった。
約30分くらいの距離を歩いて、私たちは喫茶店オンリーを目指した。

「豆腐屋の隣がオンリーだよ」と友達が言った矢先、誰一人予想していなかった、豆腐屋の隣にある、シャッターの閉まったオンリーの姿が見えた。

虚しく「魔性の味 オンリー」という看板だけがそこにある。本当にガッカリしてしまって、私たちのリアクションは薄かった。


仕方なく、
喫茶店を探して彷徨った。

辿り着いたのは、
街外れの喫茶店 オレンジ。


店内の奥の席では、マスターがお客さんの占いをしていた。テレビに取り上げられるほど占いで有名な喫茶店らしい。


カウンターにはヒョウ柄のトップスと花柄のスカートを履いた、マスターの奥さんらしき方がいて、水と熱いおしぼりを運んでくれた。

暑い中をずっと歩き続けて喉が渇いていた私たちは、迷わずに、クリームソーダとコーヒーフロートを注文した。


シンプルな円形のグラスに浮かんだバニラアイスを食べながら、暑かったよね、と言う。



占いをしているマスターの助言が所々、耳に入った。

コースターもなくて、
家庭にあるようなストロー、少しぶっきらぼうな接客、でもクリームソーダは思ったより好きな味がした。


友達が前触れなく、昨日みた夢を話出す。鰻を求めて何時間も並んでいる夢の話。脈絡も、結末も何にもなくて、それがすごく面白かった。

「夢って、やっぱり会いたい人が出てくるよね」

そう言った友達の言葉に、
私も最近みた夢を思い出した。

それ日の夢はとてもリアルな感覚があって、見上げる角度とか、服の質感とか、時間の流れとか、本当に現実みたいだったことを思い出した。

友達の「会いたい人」というフレーズが心にずんときた。そうか、と思う。



隣の席の年配の夫婦が煙草に火をつけた。換気扇のない店内、煙草の煙はゆらぐことなく天井へ伸びて、白い影が漂っていた。


占いを終えた女性が店を出て、その後すぐに新たな占いのお客さんが店内に入ってくる。

そしてマスターの辛口な助言が、
また所々聞こえてきた。



私たちはあたり聞き耳を立てないようにして、勘定を済ませて店の外へ。

店先にあるメニューの食品サンプルが、全部、焼きそばみたいな色をしていて笑った。茶色いオムライスとか、茶色いピラフ、茶色いミートスパゲティ。

日が長くなったのか、
まだ少し明るくて友達のすすめで、
都電荒川線に揺られて帰ることにした。


バスに乗ってるみたいな風景と、初めて見る町並み、バラエティ豊かな乗客。


日曜日の夕方の、
微笑ましい光景が続いた。


東京にいるのに少し旅行したような気分だった。荒川線から電車を乗り換えて、それぞれの駅で降りる。

翌週にも会う予定があったので、
また来週と手を振って電車を降りた。



つかの間の小旅行からの日常。
見慣れ過ぎたいつもの駅の、いつもの光景。いつも何とも思わないその日常が、この日は「うんざりだ」と思えてくるものに見えた。


駅前のネオンも、商店街の明かりも、選択肢のないスーパーも、行き慣れた喫茶店も、ぜんぶ好きなはずだったそれが、ぜんぶに嫌気がさしていく気がした。
街も、自分も、今あるものぜんぶ。


人に対して無駄に遠慮してしまうことも、真面目すぎて呆れられてしまうことも、私は私のままでいてはダメだということを、遠回しに言われた日のことも思い出した。


春みたいだったのに、やっぱりまだ冬だった。

やっぱりまだ、
人恋しくなる季節のままなぁと思いながら、一人、部屋に帰った。


今回の緑色の彼女

喫茶店 オレンジ

クリームソーダ 500円
コーヒーフロート 500円

甘すぎないシロップと、白いバニラアイス。

荒川河川敷にて

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