
思い通りにいかないところが銅版画の魅力 イラストレーター/銅版画家・村上千彩
こんにちは!note更新担当のたぬ子です。
今回は、愛媛県にてイラストレーター・銅版画として活動されている村上千彩さんに、イラスト・銅版画を始められたきっかけやモチーフの探し方などについてお伺いしました。
[プロフィール]
■氏名
村上 千彩(むらかみ ちさ)
■ジャンル
芸術(銅版画、イラストレーション、ブローチ)
■連絡先
Mail:murakami.sakichi@gmail.com
■経歴
銅板画家。イラストレーター。京都女子大学文学部卒業後、印刷会社で編集の仕事に携わった後、1999年よりイラストの仕事をはじめる。書籍・雑誌・広告などで関西や東京の仕事を中心に活動。祥伝社・朝日新聞出版・早川書房・積水ハウスなど。
また版画工房アトリエ凹凸(西宮市)で銅版画を学び2000年より日本各地で個展を開催。2014年京都から愛媛に拠点を移す。
最近はブローチの制作をはじめ、個展会場やwebshop、店舗への納品やイベントでの販売もしている。
■SNS
・Instagram(@chisacream)
自由な版画工房で刺激をうけた

作品提供:村上千彩
― イラストをはじめられたきっかけを教えてください。
子供のころからイラストを描くのは好きでしたが、授業での写生や工作には興味がなくて成績もごく普通。美大進学という発想はありませんでしたが、イラストは趣味でずっと描いていました。受験勉強中もこっそり描いてたくらい。本が好きだったこともあり大学は文学部へ進学しました。
「イラストレーターになれるかもしれない」と思ったのは、企業誌の編集の仕事でイラストレーターの方とお会いするようになってからです。
― そう思うきっかけがあったのですか。
イラストレーターという職業に憧れはあったものの、別世界の人だと思ってました。それが現実の仕事で関わるようになり「こんな身近な存在だったんだ!」と思って。「 やってみたい 」「自分にも描けるんじゃないか」という気持ちがわいてきました。編集の仕事に行き詰まりを感じていたこともあり、退職しアルバイトしながらイラストの持ち込みを始めました。
ラッキーなことに割とすぐ仕事をもらえて、そのままぼちぼち20年以上続けてるという感じです。イラストレーターになることは比較的カンタンだけど、続けていくのは大変だなと実感しています。
― では、銅版画をはじめられたきっかけを教えていただけますか。
会社員時代に銅版画工房に通い始めました。筆や絵の具に代わる表現を無意識に探していたのだと思います。その工房はプロの方が多くいらっしゃって24時間自由に制作できました。その代わり、聞かないと何も教えてもらえない。現代アートや抽象画、伝統的な細密画、ポップなイラストなど、皆さんそれぞれが自分の世界を築いていて「表現ってこんなに自由でいいんだ!」と、2年間でしたけどすごく刺激を受けましたね。
版画は版を完成させたら同じものを複数枚刷るので、後から手を加えるのが難しいです。どこかで「ここで完成」の線を引かなくてはいけない。のめりこんで描いたものでも、最後にパッと手放さなければいけない。その距離感が自分には向いてるのかもしれないですね。
銅版画は時間がかかりますし、結構めんどくさい作業が多いです。でも、版を腐食液につけることで思いがけない質感が生まれたり、失敗だと思ったところにいい効果が生まれたり、人の手でコントロールできないところが銅版画の魅力だと思います。
線のあじわいと版が生み出す質感

― 村上さんがエッチングで制作されているのは、銅版画工房で習われた技法だからですか。
最初数ヵ月だけカルチャーセンターの銅版画教室へ通っていて、そこでドライポイントとエッチング、アクアチントを習い、その後先生の工房へ移りました。たまたま最初に教えてもらった技法が自分に合ってたんですよね。
周りの方は、メゾチントやドライポイント、ディープアクアチントなど、様々な技法で制作していたので、見よう見まねで試したりもしましたが、結局エッチングに戻りました。
― エッチングのどのようなところがお好きなのですか。

線の表現が好きですね。細いニードルでグランド(防腐剤)を引っ掻いて線を描くので、味のある線になるんですよね。
また、版を腐食液に漬けた時にどうしてもグランドに薬品が染み込んで、面が荒れるんですよね。それが独特な風合いになるので、作品のノイズになると思う人は綺麗に拭き取って消しますが、私はその風合いが良いと思うので割と残しています。
小説や写真から物語を再構築して

作品提供:村上千彩
― 作品のモチーフはどのように決められているのですか。
子供のころから本を読むのが好きだったので、本から着想を得ることが多いですね。外国の児童文学に描かれている挿絵が好きで、その影響も受けています。動物も好きなので猫や犬をモチーフにすることも多いし、最近では子供をよく描いてますね。

作品提供:村上千彩
ボタニカ(朝井まかて著/祥伝社)の装画を担当させていただきまして、牧野富太郎博士も植物も好きだったので、装画のお話をいただいた時に「ボタニカの展覧会をする!」と決めて博士や植物モチーフの作品をたくさん描きました。なので最近は植物にとても興味がありますね。
植物のスケッチを忠実にしたことで、これまでは植物の構造やおもしろさをちゃんと分かっていなかったんだなと気づいたので、今は一度スケッチしてから自分なりにデフォルメして描くようにしています。

作品提供:村上千彩
あとは古い写真集が好きなので、そこから浮かんでくる物語を描くこともあります。
― 写真集は日本のものですか。
日本も外国もどちらも好きです。モノクロ写真というところが大事ですね。モノクロで表現されることで現実感が薄れて、現実にあった過去だけれども夢の中の世界を見ているような気持ちになります。夢と現実の間を描きたいのだと思います。
小説や写真からシーンが浮かんでくるのですが、それをそのまま描いても作品にはなりません。構図がよくないとおもしろい作品にならないので、そこは試行錯誤しています。
簡単なエスキース(案)は用意しますが、版に下絵を描けないので、自由に描いてるうちにどんどん変わっていくこともあります。線が線を呼ぶという感じです。最初に思い描いたシーンと異なる絵ができることもありますが「自分が描きたい世界の空気が絵に流れていたら正解」と思っています。
描くのは早いですが、刷ってみてダメだと思ったらボツにします。半分くらいはそんな感じです。一日中制作して、全部失敗という日もあります。
― 世に出ている作品の倍以上、没にしている作品があるのですね。
そうですね。でも、ほぼ完成した状態で刷って「全然ダメ」と思ったものでも、2~3日後に見ると「あれ?いいな」と思うことがたまにあります。そういう時は作品が新しい雰囲気になっていることが多くて、新しさに見慣れず刷った直後は「ダメだ」と思ってしまうんですよね。逆に、刷ってすぐ「いいのができた!」となる時は、今までの絵の延長線上にあるものが多いです。それはそれでいいんですけど。
来た人が楽しめるアートイベント

― 今後、愛媛でやりたいことを教えてください。
10年前に愛媛に帰ってきたんですけど、それまではずっと関西にいました。会社員だったときは別として、家にこもって作業することが多かったので、帰ると決めた時に「何か人とかかわることをしたいな」と思って『お寺市』をはじめました。2017年から始めて、もう7年目になりますね。
展覧会へ行くというハードルを下げたいと思い、3ta2Galleryさんとコラボしてお寺市の中でグループ展『小さな版画展』のプレオープンも開催しています。お寺市ならリピーターの方も多いですし、お買い物も楽しめて美味しいものも食べられる。なおかつ版画も見られて販売もしてます、ということなら気軽に来ていただけると思うんですよね。
これまで多くの作家さんとご縁がありました。私自身もさまざまな場所で展覧会をしているので、お寺市以外にも、来た人に楽しんでもらえるお寺とアートをつなげるイベントを開催していきたいと思っています。
絵しりとり みぎて ⇒ て○○○

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