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天国へ遠足に行っちゃった愛犬たちへ #いい部屋ペット

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この連載にもたびたび登場していた、若くてワルワルの白黒ポインターのウシちゃんと、心臓と後肢麻痺の持病を持ちながらも車椅子で軽快に散歩していたボクサーのメルが、この2月と3月、立て続けに三途の川の向こうへ遠足に行ってしまいました。

ウシちゃんは2月14日没(保護犬のため誕生日不明ですが、享年1歳半〜2歳くらい)、メルは3月18日没(享年11歳9か月)。

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愛犬の死が辛いのは今までも何頭も見送ってきたのでよくわかっていますが、慣れるものではありません。ものすごく辛い、悲しい、切ない。しかもウシちゃんはまだ1歳半かそこらの、元気爆発の可愛い盛り。こんな若い死は初めてなので、かなりダメージを受けました。

想定外の死はショックが大きい

ウシちゃんの死因は、急性腎不全による多臓器不全。少し吐いたのが1月31日。でも食べるし、散歩も普通に歩く。しかし軟便が続くので2月4日に動物病院に行ったら、腎臓の数値がものすごく悪くて即入院。腎臓って、70〜80%壊れて初めて症状が現れる臓器なんだって。そのうえ肝臓と違って再生しない。ヒト医療では、腎臓病になると人工透析をしますが、犬用の透析装置はありません。ウシちゃんは手動で行う腹膜透析をしてくれる病院に転院しましたが、みるみる痩せ細り、弱っていきました。体温も下がり、もう為す術はない。2月11日、私は「お家に連れて帰ります」と先生に伝えました。ウシちゃん、おうちに帰ろう。みんなのいる、おうちに帰ろう。

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友人の獣医に往診に来てもらい、自宅でも点滴は続けて見守りました。そして3日目の朝、私が添えた右手とウシちゃんの右前足はつながったまま、寝ている私が気がつかないほど静かに、彼の命は尽きました。

こんな若い死は信じられない、認めたくない。なぜ急性腎不全になったのか原因がわからないのも、ペットロスがひどくなる要因です。肝臓の数値はそれほど高くなかったので中毒ではない。レプトスピラ症も陰性でした。

12月下旬に、停留睾丸(睾丸が2つとも体外にでてこない遺伝的な疾患)切除とパイプカットの開腹手術をしました。停留睾丸は未成熟の奇形のようで、腎臓のすぐ横にあったそれらしき組織片が切除・摘出されました。でも手術との因果関係は不明です。

術前の血液検査ではオールAの健康優良児でした。ガンや遺伝的な疾患があれば、術前検査で何らかの数値異常が出たはずです。術後1か月間で、健康体の若犬の腎臓が急に壊れたのはなぜ? 原因がわからないので抜本的な治療ができず、対処療法しかできぬまま死に至りました。今も解せないので、無念極まりないです。

残された老ボクサーもみるみる体調悪化

白石家全員が悲しみに暮れました。ぽっかり喪失感。感覚の鈍磨。不眠。時間の流れがふわふわして、時間軸がよくわからない。ウシちゃんの死が、まだ夢の中の出来事のように思えます。どうか神様、嘘だと言って。2週間前まで元気に走り回っていたのに。

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しかし、泣いている場合ではありませんでした。私たちが泣いたり、「ウシちゃんの死は何が原因だったのか、何が起きたのか」などと声を荒げて話していると、残された老ボクサーのメルが、血便になり、食欲がなくなり、散歩で歩かなくなりました。メルだってウシちゃんがいなくなり大きなストレスがかかっているのに、家族の心が悲しみや怒りに満ちているのを感じ取ってしまいました。これはヤバい。メルの免疫力、生命力を下げてしまう! そこでメルの前で泣くのは禁止になりました。メルの前では、明るく楽しく平穏に。泣くのはメルにばれないようにお風呂場で(涙を我慢するとペットロスをこじらせるので、いっぱい泣いた方がよい)。

そもそもウシちゃんを昨年3月にわが家に迎えたのも、2021年2月、メルと1歳違いの兄貴分のクーパーがガンで先立ったからです(『❝NO DOG,NO LIFE❞ 犬がおうちにいるだけで』の記事で書いたとおり)。

ウシちゃんが来てくれたおかげで、心臓病でいつ突然死してもおかしくないと言われていた、メルの寿命が延びたのは間違いありません。それなのにウシちゃんったら、順番抜かしでメルより先に死んじゃって……無念です、想定外です。恐れていたとおり相棒がいなくなると、みるみるメルは元気がなくなりました。ついにはウシちゃんが死んで5日目、腹水が溜まってきました。心臓病が悪化してきた印です。

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だけど、そんなとき。
私たちを救ってくれたのは、やっぱり犬友達でした。これも奇しくも前回記事を書いたばかりですが(『犬友達っていいもんだ♪』)、本当に支えになってくれました。

さりげなくみんなが犬を連れてやってくる

もうじきメルが死んじゃうかも、と内心焦っていると、みんなが(申し合わせてないのに)代わりばんこに犬を連れて遊びに来てくれました。「千枚漬け好き? こないだ京都に行ったから」とか「今日おうちにいる? 近くに行くからちょっとメルに会いに寄っていい?」とか、本当にさりげなく。

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友達の獣医さんは、メルの鍼灸の往診のときに、ワイヤーとスムースのダックスフントを連れてきてくれました。メルの幼なじみのボクサーも、引っ越しされてから10年近く会ってなかったのに、わざわざ来てくれました。

イングリッシュ・スプリンガー・スパニエルの愛好家の友達は、生後4か月のちびーずを2匹、サプライズで連れてきました。「いちばん白石家が喜ぶのは、これかなって思って♥」と。大正解です。メルも久しぶりに見た子犬に、ライバル心燃やしてるし(笑)。うちのリビングに久しぶりに歓喜の声が響きました。

メルは、遊びに来てくれた犬に対して、ウウッといっぱしに牽制することもあったけれど、公園では何気にいっしょに並んでチャキチャキ歩いたり、犬と会った日の夜ごはんは食欲が戻ったりしました。やっぱり犬からしか得られない群れ意識や高揚感があるんだろうなと感じました。メルは生まれてこの方11年間ずっと同居犬がいたので、犬がいる方が安心するのだと思います。ちなみに産まれてこの方、犬のいない生活をしたことのない大学生の娘も、元気溌剌な犬のお客さんが嬉しくて、抱きついていました(笑)。

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プリンをヒントに、茶碗蒸しをたらふく食べて天国へ

メルがごはんを食べないので、シリンジ(針なしの注射器)で強制的に流動食を与えているのを知って「食べないときの最終手段はプリンだよ」と、愛犬とともにお見舞いを持ってきてくれた犬友達もいます。そうしたらメルがプリンを完食してくれました。

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ならば「茶碗蒸しはどうかな。卵の栄養がとれるし、喉ごしもツルンとしているし」と、メル専用牛肉入り茶碗蒸しを作ってみました。するとおもしろいくらいよく食べたのです。やったぁ!

これを機に食欲が戻ったので、毎日茶碗蒸しごはん。しかし「これで持ち直すかも!」と喜んでいた矢先のこと。いつものように朝の犬の散歩で、ニンゲン家族の朝ごはんのクロワッサンを一緒に買いに行った日の夜、メルは発作を起こし、死んでしまいました。不整脈による心停止だと思います。それにしてもあまりに潔いピンピンコロリ。メルの心臓は突然死すると数年前から言われていたので覚悟はしていましたが、それでも急なことで驚きました。でも、ウシちゃんのようにガリガリになって死ぬよりも、5日間茶碗蒸しをたらふく食べて、パタッと死んだのは幸せな最期だったように思えます。空腹なまま死なないでよかった。プリン作戦を教えてくれた犬友達に感謝です。

誰かを愛し、守り、お世話をする幸せ

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2月、3月と連続で、火葬場に行くのは悲しすぎました………。もう今年、来年、いや数年間は、火葬をいつもお願いするおじちゃんに会うのは遠慮したいです。

でも、ウシちゃんのときも、メルのときも、毎日のようにお花が届きました。うちの犬たちには、献花であっても黄色、オレンジ、ピンク、と可愛らしい、元気のでる色の花々が多く集まります。

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お花って「元気だせ!」とバーンと肩を叩かれるエールではなく、奥ゆかしく、だけどこっそりと裏側に「ゆっくりでいいよ。でも元気だしてね」という共感と励ましが隠されている気がします。その温かな、ほんわりした優しさにまた泣けてきます。犬好きだからわかりあえる、愛犬を失ったこの気持ち。犬友達ってありがたいね。お花の力って、やっぱりすごいね。

でも今年の春は、ソメイヨシノが満開になったのに、犬とお花見散歩に行けないのが悲しい。犬なし生活は、27年ぶりです。四つ足の生体反応のない家は物足りない。朝夕の散歩に行かなくてよいのは手持ち無沙汰。わが家にとっては、犬のいる暮らしが「日常」「通常運転」で、いない生活の方が「非日常」「不測の事態」なのです。

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でも犬友達が送ってくれたお花で、わが家のリビングは今もお花畑です。こんなに私にお友達いたっけ?と思うほど(笑)。これはウシちゃんとメルの人徳(犬徳)の為せる業といえましょう。

愛犬を失うのは、とてつもなく悲しいです。だけど、愛犬からかけがえのないものをたくさんもらいました。犬を可愛がる幸せ、当たり前にそばにいてくれる幸せ。面倒くさいけれど誰かをお世話できるのって幸せなことなんだな、と、つくづく思います。

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犬の存在はやっぱり偉大なのだ

そしてメルとウシちゃんが引き合わせてくれた、たくさんの犬友達。その存在も、素晴らしい置き土産です。これからも末永くお付き合いできるニンゲンの特別な友達が、私の人生に残っていくと思います。

その犬友達のひとりから、さっきメッセージが来ました。

「カエさんは当事者だから、なかなかわからないかもしれないけど、ウシちゃんの死は周りの犬友達にも大きな影響を与えたよ。犬友達のわんこでもこんなに愛おしく、いなくなったらこんなに辛いんだって。ひとつの命の影響力にびっくりしました」

「ウシちゃんを知っているから、あの可愛いウシちゃんともう会えないんだという悲しさ。
いま白石家がどんなに辛い思いをしているんだろうという共感。
自分の愛犬の死別に置き換えて想像したときの痛み」

紐解くと、ウシちゃんが死んで、直接悲しいのもあるし、「白石家の胸中を思うと、どんなに辛いのだろうか」と想像力を働かせて、悲しみにシンクロしてくれるのでしょう。さらにはいつの日か必ず訪れる愛犬との別れについて、直視したくないけれど覚悟もしないといけないと、現実味が沸くのだと思われます。

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SNSが広がり、犬友達の輪はどんどん大きくなっています。直接会ったことのない人でも、リアルタイムでメルやウシちゃんの闘病記録を見て、我がことのように心配し、心を痛め、悲しんでくれる人が大勢いました。うちの犬の闘病や介護の体験が、いつか誰かの犬、どこかの家族の、役に立つ日がくるかもしれません。肉体は死んでも、魂は、みんなの知識や経験値として残り、「今日を、毎日を、大事に可愛がろう」と思ってもらえたら、ウシちゃんの死は、犬死ではなくなります。

犬が私の人生に与えてくれる影響力は大きいです。やっぱり犬は偉大。メル、ウシちゃん、心からありがとう。泣いてばかりいないで、私も前を向いていきたいと思います。

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追伸:だけどウシちゃんへ。あなたの人生はやっぱり短すぎた。いっしょに行きたいところ、やりたいこと、いっぱいあったのに。だから天国で走り回るのに飽きたら、また白石家に戻っておいで。今度は、三途の川を越えそうになっても、ピッとすぐ戻るようにガッチリ呼び戻しトレーニングするからね。

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プロフィール
白石かえ
広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。
その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。現在、ボクサーのメルちゃん(メス)、ポインターミックスのウシちゃん(オス)、ニンゲン2と暮らしている。趣味は、犬と野山へ行くこと。
▶執筆サイト:dogplus.me 犬種図鑑
▶ブログ:バドバドサーカス
▶主な著書:
東京犬散歩ガイド
東京犬散歩ガイド武蔵野編
ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』(構成・文)
うちの犬—あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本

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