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ロゴ制作に役立つ参考書6選(+1)。

こんにちは、デザインと写真の事務所「サンポノ」の江口です。前々回、前回とロゴについて記事にしましたが、今回はロゴ制作に役立つ本を紹介します。

ロゴ制作に役立つと書きましたが、はじめの三冊はフォントやタイポグラフィの扱い方に関する書籍です。その理由は、フォントやタイポグラフィの知識が未熟だと、ロゴタイプやシンボルマークを効果的に作ることができないというのが、経験からくる私の持論だからです。フォントとロゴは着地させる完成系は異なりますが、用いられる技法はかなり共通しています。さらに、ロゴを制作した後に、名刺や封筒などのアプリケーションツールを制作することになるのですが、タイポグラフィのマナーを知らないで制作すると、一定レベル以上の層から信用を勝ち取るのが難しくなります(これはクライアントの取引相手においても同様です)。肌感覚として、日本のタイポグラフィのマナーは厳しくはないので、クライアントも知らないことが多いですが、海外のデザインに馴染み深い方はタイポグラフィのルールを知らなくても、これらのルールが守られたものに触れることが多いため、肌感覚で感じ取っている方が多いです。

はじめに断っておくと、今回取り上げる書籍は、近年のデザイン書籍で流行っているような、「今っぽい雰囲気が作れる本」ではありません。むしろ、時代を超えて、私たちの仕事を長く助けてくれる本です。ちょっと敷居が高く感じるかもしれませんが、デザイナーとして長く仕事を続けようと思っているのでしたら、是非、読んでみてください。

『欧文書体』と『欧文書体2』

一冊目と二冊目は同時に紹介します。美術出版社から出版されている『欧文書体 その背景と使い方』『欧文書体2 定番書体と演出法』の二冊です。この二冊の著者はタイプディレクターとして著名な小林章氏です。小林氏と言えば、ヒラギノフォントの制作や数々の名作フォントの改刻版を制作したことで知られている方です。

この二冊を読むと、数々の有名フォントの使い方や使用時の印象などの実践的な内容の他、歴代のタイプディレクターの紹介や、名作フォントが誕生した背景も書かれているので、より体系的に知識を得ることができます。これらに記載されている内容は、ロゴタイプを制作する場合や、未掲載のフォントを使用する場合にも当てはまるので、とても役に立ちます。似たような本はたくさんありますが、ここまで欧文書体に特化して書かれた本はないため、内容が深く、読み終えた後も辞書的な使い方をしたりと、いつまで手元に置ける本となっています。


『欧文組版』

三冊目も美術出版社から出版されている『欧文組版 タイポグラフィの基礎とマナー』です。長く絶版となっていましたが、近年復刻改訂されて再度出版された本であり、先の二冊が欧文フォントについての知識を得るための本なら、こちらは欧文フォントを使ってデザインをする際の知識を得るための本です。名刺やレターヘッドのデザインの仕方や、コロン(:)などの約物の使い方のルールに至るまで、これ一冊を読んで手に入る情報量はとても多く、日本にいながら欧文のマナーが学べる貴重な本です。

余談ですが、私がこの本を読んだのは、以前勤めたデザイン事務所に入社する前だったのですが、私が欧文フォントの使い方に一番詳しかったのを覚えています。大手企業と直接取引しているデザイン事務所だったのにも関わらず、この辺りの知識やマナーが杜撰だったのには唖然としました。少しずつ知識を伝えて改善していったのですが、既に知識とマナーが身についていた自分にとっては、日本のことをステレオタイプに扱ったハリウッド映画を見たような心地がしたものです。デザインしたものが国内のみで流通したとしても、外国人が見ない可能性はないとも言えないので、欧文タイポグラフィのルールを知っておくに越したことはないでしょう。


級数表

さて、次に紹介するのは本ではありません。知識を得たら実践を繰り返すのみです。Webデザインを学ぶ場合のトレース練習は、Chromeのデベロッパーツールなどを使えば簡単に行えますが、印刷物のトレース練習をするのは容易ではありません。その時に役立つのが、級数表と呼ばれるものです。Amazonで級数表と検索すると各社から販売されていますが、これらは実際に印刷されているフォントサイズ(級数)や文字間隔を調べるためのシートです。大体、透明のシートに升目とフォントサイズが記載されていて、印刷物に乗せてフォントサイズや文字間隔を調べるものです。これを使って、先人達がデザインしたもののサイズ感を調べて、タイポグラフィの感覚を身につけていきます。本で知識やマナーを身につけても、実際に駆使できなければ、意味がありません。そのための練習を手助けしてくれるツールです。ちなみに、私が使っていたのは、GE企画センターから発売されている「写植割付スケール」です。

私のコーチングでも、Webデザインのトレースをしたことがある人はいても、印刷物のトレースをしたことがある人は皆無です。誰でもデザイナーになれる時代になりましたが、美大や芸大に通わずに、級数表のことを知るのはなかなか難しいのかもしれません。ある程度まとまった金額が動く雑誌や著作を級数表で調べてみると、Webデザインとは違った世界を発見することができるでしょう。


『欧文書体のつくり方』

紹介も後半に入り、漸く「作るための本」をご紹介します。それが『欧文書体のつくり方 美しいカーブと心地よい字並びのために』です。この本は、最初に取り上げた小林氏のシリーズ第三弾です。最初の二冊がフォントの扱い方であったのに対し、この本はタイトル通り、文字を作るための本です。タイトルには欧文書体と書かれていますが、錯視への対処法(同じ太さの縦線と横線なら、横線の方が太く見えるなど)などが記載されており、これらを駆使して既存のフォントが作られていることを知ることができます。実際、ここで書かれていることは、ロゴ制作で私が利用していることでもあり、コーチング中にブラッシュアップ方法として教えていることでもあります。

ただ一点注意しなければならないのは、フォントは文章として滞りなく読めることを求められて作られることが多く(例外として標識で用いられることをメインに考えてフォントが作られることもあります)、ロゴタイプは名称をひとつのまとまりとして読めることが求められているという違いを把握しておく必要があります。最近流行っている作字という分野もその類ですが、伝えるべき名称を、最善のデザインに昇華するようにロゴは制作されます。つまり、この本に書かれていることと、制作しているロゴがしっかりと機能することを天秤にかける場合は、後者の方が優先されることを忘れてはいけません。そうは言っても、カリグラフィのやり方など、基本的なことはロゴ制作と同じなので、ここで書かれていることを実際に練習しておくことは、ロゴ制作に大いにプラスに働きます。


和文の参考図書

残念ながら、和文の歴史は、時代とともに目まぐるしく変化してきたこともあり、和文書体について体系的に学べる本というのは、なかなか見つけることができません。しかし、二冊面白い本を最後にご紹介いたします。まずは、誠文堂新光社から発行されている『文字とタイポグラフィの地平』です。『アイデア』という雑誌の中で取り上げたフォントやタイポグラフィについての記事をまとめた本となっています。和文タイポグラフィの歴史の他、日本の役所や病院を事例にしたブランディングデザインのためのタイポグラフィの使い方も掲載されていて、とても参考になります。他の和文フォントの本が写植に特化した内容に偏ってしまったり、フォントを羅列しただけの浅い内容になってしまっているのに対して、和文タイポグラフィの歴史など、今回紹介した本を面白がって読めた方なら、きっとこの本も興味深く読めるでしょう。


もう一冊は、白川静氏著の『常用字解』です。本というよりかは辞書に近いですが、常用漢字の成り立ちについて知ることができます。ロゴを制作する際の思考整理法にマッピングを用いることは前回の記事で紹介しましたが、企業名で漢字を使用していたり、キーワードに含まれている漢字を調べるときに重宝します。白川氏の著書は他にも、『字統』『字通』『字訓』があり、それぞれ膨大な知識量が簡潔にまとめられています。ただし、内容が重複する箇所もあり、いずれも高価なので、図書館で閲覧するのもいいでしょう。

余談ですが、私は何かを調べるときに図書館を利用します。司書の方に調べたい事柄を伝えると、それに即した内容の本や論文を紹介してくれるレファレンスというサービスが図書館にはあります。そして、紹介してくれた本や論文を読み、さらに知識を深めるときに、巻末にある索引を当たります。必要な本が近隣の図書館になくても、国会図書館にはあるので、度々利用しています。こうして私たちの知識は体系的に組成され、クライアントにとって役立つ情報を与えることが可能になります。


和文の歴史は、大陸文化の伝来から、縦書き、戦前戦後の漢字の変化、仮名文字、カタカナ、右から読む横書き、そして、現在の左から読む横書きと移り変わってきました。さらに、右開きの書籍と左開きの書籍が混在していたりと、現在でも和文の扱い方は多くの種類があります。それもそのはず、『常用字解』の冒頭にも記載されているように、日本の国語教育は、敗戦後に日本を占領した連合国の政策によって、大きく変えられました。しかも、統治の便宜上による変更であったため、漢字本来の意味ある構成や文化的背景を無視したものになり、この時に文字としての和文の歴史が断絶したとも言えます。使用する言語が変更されるということは、使用方法も変わってしまうということです。つまり、私たちが身近に触れている日本語というのは、戦後70年程度の歴史しか持っていないのです。しかも、その歴史は無意味とは言えないまでも、本来の意味を無視した形骸化した内容である以上、歴史とは言えないという気さえします。和文フォントや和文タイポグラフィについて、体系的によくまとまっている書籍が見つかりにくい(書きにくい)のも、こういった歴史的背景が関わっているのでしょう。

しかし、先に挙げた『欧文書体』や『欧文組版』を読んで得た知識を、和文フォントに応用することができます。先述したように、視覚表現の効果は、時代や文化を超えて、我々に平等に与えられているものだからです。大事なのは、どういうデザインを必要として、それを表現するためには、どういうフォントを選んで(作って)、どういう組み方にするのがいいのか判断し、実践することです。これはロゴ制作の現場でも同じです。

おわりに

今回取り上げた本は、ロゴ制作というよりもフォントやタイポグラフィに偏った内容と受け取られてしまうかもしれません。しかし、冒頭でも述べたように、これらの知識や技術を身につけないで、優れたロゴを制作しようとするのは無謀と言えます。私たちの仕事は、ただ一回のラッキーパンチで一生を過ごせるような生易しいものではありません。日々成長する学習能力が必要とされます。

また、これらの本は、SNSやネットでよく紹介されている本ではないかもしれません。しかし、そのどれもが実践的でありながら、キャリアを重ねても役に立つ内容となっています。空気感を伝えるだけのベストセラーと称されるデザイン書は目立ちますが、クライアントへの説明で「空気感が今っぽいから使いました」と話して、納得はされないでしょう。予算が数百万円以上となるようなブランディングデザインの仕事では、提案されたロゴの造形や、使用されているフォントの意味や印象などを、デザイナーの口からしっかりと説明されたいものです。今回ご紹介した本は、そんな時にきっと役立つことになるでしょう。

今回ご紹介した欧文書体に関する本は、実際にコーチングをする際に、指定図書として購入していただき、級数表での練習も行ってもらっています。

サンポノではデザインなどのクリエイティブワーク以外にも、企業に勤めているデザイナーの育成(コーチング・メンター)などもご依頼いただいております。気になった方は是非、ホームページをご覧ください。お役立てできたらとても嬉しいです。
サンポノホームページ:https://www.eguchimasaru.com/

それでは、また次回会いましょう。

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