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『日日是好日』森下典子

私の卒業した女子大は、通称「花嫁修業大学」と呼ばれていた。そういう所に入りたかったわけではなく、主に偏差値の問題で入れる所に入ったまでです。花嫁修業…と言われるだけあって、家庭科系のサークルは何故かさかんでした。料理、洋裁、和裁、保育はもちろん、生け花は池坊、古流、小原流、草月と流派ごとに4つあって、お茶も裏千家と表千家でそれぞれ存在していました。

私が所属していたのは二部(夜学)だったので、同級生は皆忙しくてサークル活動などやっている余裕はありませんでしたが、卒業した後にお茶やお花を習う人は多かったです。どちらかと言えばお茶よりもお花を習う人の比率が多かったように思います。私も小原流で少し勉強しました。まあ、そういう時代だったのですね。母校のサークルも現在はお茶は表千家だけ、お花も池坊だけが残っているようです。

さて、本書は以前黒木華さんと樹木希林さんが主演した同名映画の原作です。主人公の大学生がおかあさんに勧められて近所のお茶の先生のお教室に習いに行く所から始まります。訳も分からずお点前(お茶を点てること)を続けていくうち、いろんなことを「わかる」と言うよりも「感じる」ようになっていきます。

主人公はなかなか就職できず、結局正社員にはなれずにフリーターとして仕事を続けるようになる。結婚が決まったものの土壇場で破断になる。自分の本を出版する。おとうさんが亡くなる…など生きていく上でさまざまな事に出くわし、その都度お茶に救われる。お弟子さんの中で一番キャリアが長いのに後からきた人のほうが筋が良く、辞めたくなったりもしました。

私はお茶のお点前って同じことを毎回繰り返すのかと思っていました。だから習っている人は何年も同じことをやってよく飽きないなと思っていました。本書を読んでわかったのですが、お点前の形は使う道具によってさまざまに異なるのだそうです。なるほど、それなら長く続くのもわかります。

何故こうするのか?どうしてそうなるのか?主人公は先生にいろいろ質問しますが、先生は決して答えず、何も考えずにただお点前に集中しなさいと言います。そして続けていくうちに主人公は「あ、これはこういう意味があるんだ」と気づくのです。説明せずに生徒が自分でわかるまで待つ、教えるほうも簡単ではなく、むしろ大変だと思います。

裏千家に入門していた私の母も「お茶は哲学だから難しい」とよく言ってました。哲学というのとちょっと違うかもしれないけど、本書の中で先生が「掛け軸一番のごちそう」と言い、亭主(ホスト)がお客さんをもてなす気持ちをことばで表している。掛け軸、季節の茶菓や茶花、庭のつくばい、いずれも亭主が客をもてなすために最善のものをあつらえた空間が居心地悪いわけがない。またそこへ行きたいと自ずと思うようになる。

茶道って思っていた以上に深いのだなと感じ、機会があったら習ってもみたくなりました。


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