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あのとき先生がわたしにかけてくれた「期待」の効果|『Think Smart』読書感想文

唯一、そして未だに年賀状のやりとりをしているのが、小学校5年•6年で担任をしてくれた先生だ。担任をしてくださった2年間に年賀状のやりとりをして以来、卒業しても、年によってはそれが喪中はがきや寒中見舞いに形を変えながらもずっとやり取りが続いている。

今日ふと、先生は、わたしを人生ではじめて推してくれた人かもしれないと思い至った。例年5年生が参加する地区の演奏会。その年は児童が2曲分の伴奏をする必要があったのだけれど、2曲ともわたしが任されたのを思い出したんだ。

ピアノを習っている子たちは他にも複数いたし、伴奏者になることを強く望んでいる子もいた。ピアノが弾ける子たちの中で、わたしより上手な子が何人もいたことは、小学生ながらに理解していた。それでもわたしが2曲分の伴奏者を務めたのは、今改めて考えても、学年主任も兼ねていた先生のプッシュによるものでしかない。

形はないが、「期待」には影響力がある。現実を変える力がある。
Think Smart

スイスの地の巨人、ロルフ・ドベリによる著書『Think Smart』にある期待についての話の部分を、誰かを推し続けてきたわたしにも人から推してもらった自覚が何度かあって、まさにこの言葉どおり。

当時、ピアノ伴奏できるスキルがあって、やってみたい女の子は5、6人いた気がする。3クラスある学年だったから、他のクラスの担任は自分のクラスの子に弾かせたい気持ちもあったんじゃないかな。

そんなのをすべて跳ね除けて、担任である彼女は言ったんだ。
「ゆうこちゃん、2曲、よろしくね」

先生に言われたから。わたしが引き受けた理由はそれだけだった。
わたしの先生はピアノが苦手だからか、音楽の時間に伴奏が必要になるとわたしにピアノに座るように言った。正直、わたしより短期間で、上手に仕上げる子が他にいるのを小学生ながらにわたしは把握していたけれど、先生は分かっていなかったんじゃないかと推察する。

きっと先生は、技術がある•ないとかじゃなく、「この子ならやれる」って、ただそれだけを信じてくれていた。だからわたしは、伴奏をしたい•したくないとかじゃなく、できるようにしなければならなかった。天才タイプではないし、ピアノについては覚えがいい方でもないから、来る日も来る日もとにかく練習し続けて、それで本番も何とか格好をつけた。

『Think Smart』では、「ローゼンタール効果」について紹介しているページがある。ピグマリオン効果という名前でなら馴染みのある人も多いかもしれない。

生徒たちの中から、無作為に選んだ数名が「これから知力が伸びていくと判明した」と教師に伝えた。それだけで1年後、その子達は他に比べてIQの伸び率が良かったという。「この子はできる」と期待をかけることが、どれだけの力をもつのか証明した実験だろう。

わたしが担任の先生にかけてもらった期待は、自然とわたしに自信をつけていたんだと思う。合わせて、その期待を裏切らないと心のどこかで感じていたから、期待にそえるだけの努力もできた。そうしてみんなに見える形で結果を出して、それが他の活動にもつながっていった。

思えばこのピアノ伴奏以外にも、水泳の模範とか、リレーとか、算数の授業とか、学期終わりのお楽しみ会とか、先生はいろんなところでわたしに期待をかけてくれていた。そのおかげか、小学5•6年生では悩むことはあっても、困ることはほとんどなかったと記憶している。

5年生のときに先生がクラスの数名だけを放課後に残して「5年1組を良くする会」と名付けて何度か会議をさせてくれたことを思い出した。気の置けない人たちと少人数で楽しみながら戦略を立てて実行する楽しさを覚えたのは、あれが原点だったのかもしれない。今の仕事も、みんなそんなスタイルで進めている。

期待の現実を変える力は、どの程度持続するのかはわからない。けれど先生の期待は、確実にわたしの小学校生活を変えた。とすると、その結果で中学校生活が変わり、高校生活が変わり、その結果として今の生活にも影響を与えているのかもしれない。

わたし自身小学校の教員をしていたから思うけれど、1人の担任にできることなんてごくわずかだ。それでも、一緒に過ごせる短い期間にかけた期待が関わった子の人生を少しでもプラスに動かせるなら、大切な人には惜しまず期待をしていきたい。

期待には、将来それが実現するように待ち構えるという意味もあるらしい。〜してねとあてにして待つのではなく、実現するものとして待ち構える。

仕事でもプライベートでもファンをしているので、わたしも隣を伴走しながら、その人が理想とする状態を実現するものと決めて待ち構える姿勢でいよう。

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