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中国での日本語学部の存在|世界の日本語教師たち Vol.9(後編)|前川友太さん

このedukadoページでは「世界の日本語教師たち」というテーマで、毎週世界を股にかけて日本語を教える先生たちの現場のリアルな声を取材した記事を配信したいと思います。

第9回では、“中国での日本語学部の存在”と題してお届けします。

今回の日本語教師:前川友太さん


営業職として勤めたのち、退職し中国へ留学。知人の紹介で日本語教師を始める。短大で3年間、高校で1年間教師を勤める。現在、中国・天津の工業大学にて日本語を教えている。

インタビュアー:Jun
埼玉県在住のフラガール。国際観光専攻。趣味は海外ドラマとJ-popアイドル観賞。観光学を通じて世界を学ぶうちに、日本文化について深く知りたいと思いedukadoへインターンシップとして参画。現在はPRを担当。多くの日本語教師へ取材する傍ら、日本語教育を取り巻く環境を改善すべく活動中。

学生の日本に対するイメージ

—中国人の先生が基礎を担当

私は1週間に1〜2回同じクラスに教えていて、他の授業は中国人の先生が担当しています。毎日同じ学生に教えているわけではありません。中国人の先生が文法、単語、知識など基礎の部分を担当しています。それを踏まえて、どのようにしたら能力を活かすことが出来るのかという部分を私が担当しています。

—授業と現実の差

日本語は勉強しているけれど、日本に興味がない”や“日本の若者の考えにマッチしていない”ような授業が多いです。例えば、日本で有名な芸能人を知らないなどです。その状態で日本に留学したり、日本人と交流したりしようとしても問題が出てきてしまいます。

アニメが好きだからといって、アニメの話ばかりしていても日本人とは付き合えません。それで、日本人は冷たいと言われてしまってもこちらが困ってしまいます。そこをいかに押さえていくか、興味を持たせていくのかが重要になってきています。会話や発音よりもマインドの部分が大切なのではないだろうかと感じています。

—イメージのギャップがまだある

外国で日本のことを知ると、日本=アニメ、漫画など一部のイメージで固められてしまうことが多くあります。日本の中でもさらにたくさんの文化があり、アニメだけを見ている人は少ないですよね。
よくある質問が、学生に「日本人は毎日お寿司を食べるんですか?」と聞かれることです。「海鮮食べられない人もいます。」と答えると「え!何でですか?」と驚かれました。アレルギーやそもそも嫌いな人もいることが考えにないみたいです。反対に、私が初めて中国を訪れた時は、中国人は毎日烏龍茶を飲んでいると思っていましたが、実際はそうではありませんでした。

知識として1つや2つ、その場所に根付いたものを持っているだけで会話がはじまります。お互いに認識の差を少しずつ減らしていければより交流が深まるのではないかと考えています。

—常に新しい情報を取り入れることが必要

大学には日本語教師として働く日本人は1〜2人ほどになります。そのため、考えが閉塞的になってしまいます。いかに外との交流を持ちながら、吸収して新しいものを取り入れて行かなければいけないと思っています。

—授業内容も教師に委ねられている

大学でどのように教えるのかは教師の自由です。教え方の教科書はありませんし、他の先生がどのように教えているのかもわかりません。また、1週間に数回の授業であるため、成功したのか、あるいは他の方法にするべきなのかすぐに答えを出すこともできません。どうすればよりよく学生に学んで貰えるのかというのが、面白い点であり、難しい問題です。

学び始める理由は人それぞれ

—大学内では他の学部生も授業に参加することも

日本語学部以外の学生が趣味として学んでいる人と日本文化が好きで日本語を始めた人は似ているなと感じています。法律学部で「嵐」が好きなので、日本語の授業をとっている学生の方が上手なんてことも珍しくありません。

—触れる時間が語学力にもあらわれる

日本語学部の学生に比べ、1日のうち、日本語に触れている時間が多いのです。学部生が授業以外では日本語に触れないと仮定した場合、どうしても時間が足らないと考えます。プライベートの時間で中国のドラマを見ている時、「嵐」のファンは、彼らの音楽を聞くことや、SNSを見たりすることで、日本語に触れているのです。

空いている時間、自分の時間、自習の時間に日本語を勉強してもらえるような仕組み作りこそが、授業で日本語を教えるよりも大事なのではないかと思うのも事実です。

—中国で日本語を教えること

中国にいるため、中国に特化した考えや中国人に対する思いが日本にいる先生に比べて強いと思います。やはり、様々な面で日本を超えた国で教えている関係上、日本との対比が浮き彫りになってきます。日本と中国の違いを感じることは生活している上で両国の違いを感じることもあります。そこに焦点を置きながら、どのように教えて行くべきか考えることに教師としてやりがいを感じます。

—今後の日本語教師のあり方

中国でも日本語を勉強するという点ではすごく熱心な人は大勢います。進学・就職・趣味と目的は様々ですが、国内の視野だけでは気が付かないこともたくさんあると思います。自分がどう教えるのかでは無く、学生の自主性を見守ることができれば、自ら勉強して、それぞれの目的を達成させてあげることが出来るのではないかと思います。

記者から一言

日本語学部の学生よりも他学部の学生の方が上手なことがあるというのは、なるほどと感じてしまいました。確かに自分の意思を持って、時間をわざわざ割いて学ぶ人の方が、語学力が伸びるのは当然かもしれません。仮に入学当初は希望でなくても、4年間で前向きに日本語と向き合い、将来に活かすことができる進路に進めるようにするには、日本語教育だけではなく、周りの社会環境から重要になってくるのだと考えます。幅広い視野から日本語を学ぶことを見つめ、今後も発展していくことを期待したいです。
インタビュー:Tatsuya Horikoshi
文:Jun Sakashima

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