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vol.2 子どもの「作る・遊ぶ」活動に寄り添うための、6つのヒント

「親はついつい口出ししそうだから...」と言って、お家での造形遊びに不安を抱える人にお伝えしたい、いくつかのことがあります。
前回の記事にも書いたように、相性の良いアートクラスを利用することも1つの方法です。しかし、親子でゆっくり造形遊びの時間をお家で過ごすメリットは、たくさんあります。費用面はさることながら、見知らぬ場所に出かけずともすぐに始められるし、何より子どもの成長を近くで知ることができるのは、親としては大きな喜びではないでしょうか。

今回は、制作中から完成後のやりとりまで、大人として、親として、どうやって子どもの造形活動に関わり、見守れば良いのか、私が実際に受けた質問や不安など、現場の声からまとめました。
親子で関わることを想定して書きましたが、子どもと関わるお仕事をされる全ての人に、頭の隅っこに、少しでも置いていただけるといいなと思っています。初めて子どもと造形遊びをしてみようと思っている人も、保育園や子ども園、幼稚園で働く人も、アートクラスなどの講師をすることになった人も、対象がどんな年齢の子どもでも。心構えというか、立ち返る所というか、基礎にもなれることではないかと、私は思います。
子どもの造形活動と関わるとき、少しでも迷ったり悩んだりしたら、ヒントにしてください。

1, 大人が前のめりでOK

「大人が楽しんじゃいました…苦笑」
ワークショップ参加者から、そんな反省のような感想を残されることがしばしばありますが、むしろその言葉を聞いて「あ、今回は成功できたようだな」と、企画と講師を務めた私は嬉しくなります。

大人ができる技術を見せてあげることも、子どもにとって大事な経験です。
つい出してしまう手を、おそれないで良いと私は思うのです。
大人、特に親が楽しそうにしていると、子どもは「なになに?何するの?」とわくわくします。そして、自分もやってみたくなる。
楽しいは伝染します。
大人が本気で楽しかったと言えることは、つまり子どもも楽しかったという証なのです。
ぜひ、大人が楽しんでください。

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「やきいもさん、やけましたか〜?」と
ちぎった紙で子どもをつつんであやす保育者。
大人が楽しんでいると、子どもも楽しくなってくる。
この日は保育者たちから次々と新しい遊びが引き出せた。

2, 子どもの言葉を、動きを、聴く

子どもが何をしようとしているのかを聴く。
「傾聴する」時間を持ってください。
そこに大人が関わるヒントがあります。
しばらく、一生懸命格闘する小さな指先の動きを、見てあげて下さい。
癇癪を起こしていたら、何が苛立ちの理由なのかを聞いて、解決を手伝ってください。
紙を抑えてほしそうだったら、アシスタントをしてあげてください。

まだできないこと、遂にできるようになったことが、成長ポイントの発見に繋がります。
また子どもたちのおしゃべりが、最後に作品を読み解く時のヒントにもなります。
出したい口をちょっと飲み込んで、まず目を、耳を、傾けてください。
次に出す口が、変わるはずです。

3, 大人の都合は子どもに相談する

子どもの都合ばかりを優先させることはありません。大人の都合も相談するべきです。

 「これからお客さんが来るから、もうそろそろ片付けさせて。」
 「ご飯にしたいから、終わりにしよう。」
 「今日は忙しいから、少し簡単な材料の遊びにしてもいい?」

子どもも1人の人間、大人も1人の人間。持ちつ持たれつ、です。
そうでないと、大人の心が疲れます。
相手の都合を知り、自分の都合をすり合わせ、折り合いをつける練習は、社会性を育てることでもあります。
案外この交渉を続けていると、子どもは大人の都合を理解してくれるようになります。そんな時は彼らの成長に感心し、大いに心を込めて「ありがとう」と伝えますし、「次は子どもの都合をもっと聞いてあげよう」とも、強く思います。
1番の難しさは、Noを言う時の大人自身が「これは大人の都合」か、「子どもの安全のため」なのかを、都度都度、見極めることなのかもしれない
と、自戒を込めて...。

4, プロセスのインタビューをとる

我が子の作品らしき制作物を見て「これは...一体...?」とコメントに詰まることは、誰もが経験する「あるある」です。
でも、”プロセス”がその絵の中に在ることを知っていれば、スムーズに「これは何を描いたの?なんでこれを描いたの?」の問いかけが出るようになり、返される子どもの言葉が楽しみになるのではないかと思います。

ここで、子どもたちの頭の中で何が起きているのかを、すこし紐解いて説明します。
彼らが何かを描いたり作ったりしている時、人によっては、いろんな記憶が瞬時に、複数呼び起こされることがあるようです。そうした過去の印象的だった記憶と、今描いているもの、今の感情などがミックスされ、次々と連想が飛び火して行きます。
だから、物語の最後の一幕(完成された絵)だけを見ても、大人には一体それが何だか、理解が追いつかないのです。
子どもの記憶は連続性が短く、それゆえに自由です。これは記憶が長期的に連続して残すことができる大人には成せない技であることを、尊重して欲しいと思います。

本項目は、「2、言葉を、動きを、ヒアリングする」の延長にあるものです。
ぜひ、彼らのプロセスを、リアルタイムで追って下さい。
それこそ、お家での造形遊びでしかできない、大きなメリットです。

また、もしプロセスをリアルタイムで追えなくても、完成後に、丁寧に制作物のインタビューをとると、面白いエピソードが絵に込められていることを教えてもらえます。

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色んな連想ゲームが合わさって
最終的に青線で描かれたものは「鯨」に見立てられた。
描いた枚数も多く、おしゃべりも活発な時間だった。
3歳の作品。

5, 感動したら、伝えよう

「『上手』という言葉はダメなんですよね。」
と質問されることがあります。
小学校以上の教育者たちを対象にした指導研究では、確かにそうしたポイントが指摘されているようです。しかし、彼らの解説をしっかり読んでいただければわかることですが、褒めるときは必ず、同時にその理由を具体的に示すことを、呼びかけています。「何が良いと思ったのか」を明確にして伝えなくては、褒められた人は訳がわかりません。これは大人同士のコミュニケーションでも思い当たることではないでしょうか。決して、「上手」と言う褒め言葉がダメなわけではないのです。
学校教育者たちが褒め言葉に慎重になるのには、理由があります。あくまでも彼らが行うことは、教育であり、授業です。図工は、技術の器用さを得ることが、学びの目的ではありません。反射的な反応で、曖昧に口をついてでた褒め言葉は、教師が何に対して褒めたのか、作者が何を考えていたのか、作者が何を大切にしていたのか、教師がどんな「学び」大切にして欲しかったのかといった情報が不足したまま言葉だけが上滑りしていき、生徒は自分の評価を適切に受け取ることができません。
また先生1人で30人程度の子どもたちと同時に接しなくてはならない授業では、全員を褒めてあげたくても、それは不可能です。したがって、数人だけが曖昧な言葉で褒められると、褒められなかった人や先生とお話が十分にできなかった人までもが、理由もよく分からないまま自分の評価が低くなったと勘違いします。なんと、全員が救われないのです。

それに対して、私が開く場は授業ではありません。私は子どもたちより先輩の美術家としてこの場にやって来ていて、子どもたちもまた作り手(作家)であり、私は子どもたちに優劣をつけない、評価をしない、対等な立場であること伝えるために、4〜5人の子どもたちと彼らの作品の鑑賞会を行うときは、自分の発言が個人的な好みでしかないことを前提として伝えるよう、注意してします。

「この作品の色使いがいいね、私は好きだな。」
「この形は面白いね、不思議だね。どうやったらこんな風に作れるの?すごい!」
「これは怖そうだね、不気味だな〜、作者さんは狙ったの?かっこいいね。」

下手くそだもん、と自信なさげにしている子には
「上手いよ!丁寧に描いてるし、よく観察していることも分かるし、こんな描き方は私にはできない、あなたにしか描けないよ!」

と言うこともあります。
こうした雰囲気を作って育てていくと、今度は子どもたち同士で、良いところを見つけて伝え合うようになります。
「これがかっこいい、なんか分かんないけど。」
「これが好き、小さくて可愛いから。」
「これが可愛い。」
褒めると言うより、それぞれの「ここが良いな」を伝え合う感じです。
私たちの環境下においては、理由がわからなくても、なんか良い、があっても良いのです。感想が具体的にできれば良いこともあるけど、うまく言葉にできないから美術という表現が存在するのです。そして、そこに対話の余地も生まれます。
遅筆な人も、早描きな人も、悩む時間が長い人も、感覚的にすいすい進む人も、それぞれに、それぞれにしか描けない世界観があります。その違いを尊重するように、私自身も努めています。

さて、お家で、家族間で伝える場合。
信頼がすでにできている関係性において、言葉に詰まるくらいなら、多少の”親バカ”を発揮して、素直にガンガン褒めてあげれば良いのにと、個人的には思います。
「折り紙が上手に折れるんだね」
「上手に描くことができるんだね」
他者と比較することなく、1人1人の「できた!」ことを認めてあげることは、大事なことです。子どもたちは、自分の作ったものに興味を持ってもらえるだけで、自分が認めてもらったと安心します。

また「なにを描いたのか分からないな〜...」と思って言葉に詰まったら、無理して褒めないでください。それよりも「これ、なあに?」と子どもにインタビューを取りながら、一緒に絵を見てみてください。その中から、大人目線で感じた素直な共感や、感動を伝えてあげると、子どもたちは、自分を理解してもらった安心感に包まれます。

6, 筆跡、指跡をたどる

これは、子どもの作品に限らず、多くの美術作品の鑑賞法としても、おすすめできる方法です。
出来上がった作品から「最初に何から作り始めたのだろう」と跡を辿るようにして見ることで、作者の思考の跡が少しずつ見えてきます。鑑賞は推理することに少し似ています。
もしシンプルな作品だったら、直接インタビューするほうが共感理解が早いですので、うまく使い分けてください。複雑で跡が追えないような作品は、それだけ複雑なプロセスがそこにあることになり、作者の執着心、粘り強さや、多くの手間や労力が伺えます。

画家たちの勉強方法に「模写」というものがあります。模写は手本とする作品の筆跡を辿ることです。ダイナミックな筆さばきと思いきや、実際に描いてみると、大変な集中力と繊細な配慮が必要なことは大いにあります。簡単に引いて見えた線も、描いてみたら身体を工夫して使う必要があることがわかることもあります。そうやって、先輩画家たちのことを一層深く理解し、リスペクトし、真似て自分の技法に取り入れることもあります。

もし、子どもたちからコメントを求められ、咄嗟ことに言葉が詰まったら、「あとで絶対じっくり見ておくから、お話聞かせて。約束ね。」と言って時間を空けることも、ひとつの方法です。ぜひじっくり、子どもたちの描く姿を想像しながら、跡を辿るようにして観てみてください。


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作る遊びが大好きで、次の行動への切り替えが苦手な2歳。
この日も「お昼ご飯だよ、食べに行こうよ」と声をかけても
「まだ遊ぶ」「ご飯食べない」と
場所から離れられない。
担任が3回ほど迎えに来たとき
彼女の作ったところを質問して、丁寧に聞いてあげると
満足したようで、ご機嫌のままお昼ご飯に向かうことができた。

私は彼女のこうした場面に初めて出会った。
これまでだったら最後には泣き出してしまって
抱きかかえて連れていかれていたのだ。
「聴く時間を持つ」ことの大事さを感じた場面。



最後に...

1, 楽しむ 
2, 聴く
3, 相談する
4, インタビュー
5, 伝える
6, たどる

書いてみて、私は一番長くやっているアートクラスの先生としても、上の6つを基本にしているように自分で思いました。
いろんな考え方の先生がいらっしゃいますが、私はそれ以上のことも、それ以下のことも、特にしているつもりはありません。(デッサンの時間は別ですが...)

子どもたちの造形物は、彼らの成長を記録する最高のドキュメンテーションです。筆跡から、指跡から、破り跡から、いろんな成長を読み解くことができます。何より、その成長を具体的に保存することができ、ここまでダイナミックに人に伝えることができるメディアを、私は他に思いつきません。

子どもたちの作ったものに「?」で終わってしまうのは、とてもさみしいものです。作られたものを通して交わされるコミュニケーションは、子どもだけでなく、大人にとっても学びの多い時間が築けるのではないかと、お仕事を通していつも感じています。
なぜなら、子どもは大人の小さな社会を表しているから....(これでまた一本書けそうな話...)






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