堂島米市の図-1

【一人当たりのGDP世界一】江戸の経済・金融システム、その1

江戸の町の人口が急激に増加した点については過去の記事に纏めました。

今日はその人口増加、都市の成長がどのように経済を発展させたか、また米を中心とした金融システムを発展させたのかを見ていきたいと思います。


江戸の物流インフラ

都市の成長は、江戸時代の日本にいくつかの大きな経済的影響をもたらしました。一つは都市の住民に物資を供給するための、また何百人もの家臣を従えた大名行列が江戸と国許を行き来するのを可能にするための、交通と通信のインフラが整備されたことです。

陸上の輸送と移動は、広範囲に広がる道路網によって支えられました。江戸から京都、さらには大阪までは海沿いの東海道と、日本の中央部の山岳地帯を通る中仙道の2本の幹線道路によって結ばれました。

他の幹線道路も江戸から北、南、西に向けて放射線状に伸びており、これらの道路を旅する旅人を泊めるための宿屋のネットワークも出現しました。

18世紀末までに旅行が非常に一般化した結果、地図、旅行記、さらには現代の旅行ガイドブックに相当するような旅行案内書などを出す出版業が栄えるほどになりました。

人だけでなくモノの移動も盛んでした。物資の輸送を目的に出現した、荷馬を用いる輸送業は多忙を極め、何千もの馬子たちが街道を徒歩でゆく旅人たちを押しのけるようにして物資を運んだと言われています。


江戸の物流量

江戸から京都に向かう内陸ルートである中仙道沿いにある主要な輸送センターとして機能したのが飯田の町でしたが、ある平均的な年にこの宿場町から近在で作られた品々を満載にして遠くの市場に向けて出発した荷馬は合計2万1,000頭に登ったと言われています。

1日当たり60頭分の物資が毎日欠かさず出荷された計算になります。馬子が働くのは昼間だけだったと仮定すると、1時間当たり5頭の荷馬が飯田を出発したことになります。しかもこの数字は飯田初の出荷量だけを集計したものであると言われており、実際に飯田を通過していった荷馬はこの5倍から10倍にのぼったと推定されるそうです。


米本位制による金融システムの誕生

沿岸近くをゆく海上輸送は内陸輸送に比べて経済的・効率的であったため、船による輸送も栄えました。これだけ人とモノの往来が盛んになったので、江戸の住人たちが必要とする現金は膨大だったと言われています。

全国各地の大名は江戸屋敷を切り盛りし、江戸勤めの家臣たちの生計を支えるために、年貢米を市場に運んで換金し江戸に送金しなければなりませんでした。(当時は参勤交代が義務化されており、各大名は江戸の町内に家族や家臣たちを住まわせる義務を負っていました。詳しくは別の記事で触れる予定です。)

中部以西の大名たちは、換金のために蔵米を回漕する仕向地として大坂の港を利用していました。18世紀初頭には大坂の中心地を流れる淀川は行き交う船で賑わい、両岸には米問屋の堂々とした米倉が立ち並んでいたそうです。当時の商取引のまさに中枢を占めた米問屋たちは、大名たちへの融資もおこなって巨万の富を築いたそうです。

経済が複雑化するに伴い、人とモノ以外にも現金だけにとどまらない貨幣の流通が増えました。大坂で蔵米を売却した大名たちが受け取った現金を使う場所は江戸だったため、米問屋が江戸にも支店を開くようになりました。つまり大名から大坂で蔵米を受け取るのと引き換えに、江戸の支店が大名たちに代金を支払う、という仕組みが生まれました。

問屋たちはまた、米の収穫前に米代金を前貸しすることも始めた。要するに、米の先物市場が開設されたのです。この市場で資金を調達する大名たちは米問屋兼金融業者宛に、年貢米が入ったら引き渡す旨を約束した約束手形を発行するのと引き換えに米代金を前借りしました。そしてその約束手形は次第に売買が可能になり、売買の価格は米の作柄予想と予測される米価に応じて変動したそうです。

米価

このように経済がますます複雑化し生産力を伸ばしてゆく中で、都市は商業活動を引きつける磁場としての機能を、町と街道と海路は、経済生活の結節点および動脈としての機能を担うようになりました。一方で村々は消費用あるいは加工用の原材料の大半を供給する役割を担うようになりました。


今後このテーマで深掘りしていく点

世界市場で本格的な商品先物取引が成立したのは19世紀半ば以降です。それより1世紀以上も前に日本には先物取引があり、しかも、高水準の相場取引が行われていたことが予想されます。

また江戸時代の買い物は世界でも珍しい掛売り方式が基本でした。日常の飲食などを除いては買い物のたびに帳面に記録し、盆と暮れ年二回の決済で支払う仕組みになっていた。つまり当時から今のクレジット機能に似た信用システムがありました。

これら、米本位制を中心とした金融市場の誕生や発展、信用システム周りを今後掘り下げていけたらなと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?