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旅人と村人が共鳴し合う「吉田村まつり」 岡田雅代

EDIT LOCAL LABORATORYが毎月会員向けに配信しているメールマガジンより、会員リレーコラムのご紹介です。全国で活動するメンバーがそれぞれの現場での実践やEDIT LOCAL LABORATORYに参加した理由など、ご寄稿いただいております。みなさまもぜひ覗いてみてくださいね。

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新米の収穫も終わりを告げる秋の一日、「吉田村」の中心部にある大谷石倉庫群の前にある小さな広場の「はざ掛け」を設えたステージからアイリッシュ音楽の演奏と共に吉田村まつりは始まる。会場には栃木近郊の人気のカフェやレストラン、物販やワークショップのテントが軒を連ねる。地元若手農家によるマルシェは葉付き人参や鮮やかな野菜や果物が並ぶ。 私と吉田村まつりとの出会いは、2015年1月に創刊し市内に全戸配布されている下野市自治基本条例情報誌「らいさま」(下野市 自治基本条例情報紙「らいさま」が創刊されました )で記事として取り上げたことによる。市民編集委員らが「面白いことを始めようとしている若者達がいる」との情報を持ち寄り、まだ右に出るか左に出るかわからなかったがまずは取材してみようと2014年10月の第1回吉田村まつりにお客(旅人)の一人として参加した後、3年前にUターンしたばかりの主催者の一人を取材した。彼は家業のいちご農園だけでなく、2011年3月の道の駅しもつけの開業と同時に道の駅のショップで食材にこだわったジェラートの販売を開始。その3年後の2014年5月には元JAの大谷石倉庫群の一角にイタリアンレストランを開業するなど食に関する事業を始めたばかりだった。 吉田村と言っても昭和30年代初期の昭和の合併時にすでに吉田という村はなくなり、時と共に町の中心部も移り開発からも取り残され、かつての賑わいは次第に無くなっていた。吉田村まつりに関わる人の数だけ思いはあるだろうが、東京から家族を連れてUターンするにあたり、そんな故郷を放って置けなかったのだ。旧道に沿った集落の中心部にあった元JAの事務所をリノベーションしたイタリアンレストランに灯りが灯り、冒頭で紹介したアイリッシュ音楽の演奏をレストラン内の企画で終わらせずに、隣の広場(駐車場スペースとしている空き地)で仲間と吉田村まつりを始めたのも、コミュニティの拠点となるような場にしたかったからなのである。それに共鳴した若手農家も新しい農業を学び都内のマルシェに出店するなど試行錯誤していた経験を活かし、近郊の選りすぐりの若手生産者に呼びかけ、地元でマルシェを実践する場となったのである。 中学時代からの繋がりや、農業を始めとする仕事や子育てを通じて出会った協力者が吉田村まつりに年を経るに従い集まってきた。地域の子供と父母が運営するゲームコーナーや、和製ハロウィンのように子供達が藁で作った「ぼうじぼ」で地面を叩きながら歌い各家庭を回る郷土の祭事の「ぼうじぼ」ワークショップなども開催されている。講師は吉田村まつりを運営する主要メンバーの親世代のベテラン達だ。地域内のオートキャンプ場のある公園で開催された2019年10月の第6回吉田村まつりでは、地元の農産物を加工する女性グループも特産の干瓢汁を販売。おしゃれなカフェと並びブースの一角を占めた。 吉田村まつりは初期の段階からデザインにこだわりSNSを通じて発信されたため、遠方からの来場者やボランティアなど地域外からの参加者も多い。一方で、少しずつ地元の住民(村人)も関わりを持ち始め、一見寂れた地元のコミュニティに刺激を少なからず与えている。2020年5月(予定)にはこれまで吉田村まつりの絵になる背景であった大谷石倉庫群そのものを宿泊施設やショップとして活用し、さらに近隣の農家の協力を得ながらアグリツーリズム事業も始まろうとしている。 「らいさま」は2019年8月で通算10号となったが、創刊号だけでなく吉田村の若手農業者の取り組みや、吉田村にある希少植物のNPO・自治会・高校生・小学生らによる保全の取り組みなど、継続的に取材し見守っている。初めて取材した2014年の翌年から実行委員会としても加わりミイラ取りがミイラとなっている次第である。 「らいさま」の編集を通じて「出来事を編集するまちづくりのデザイン」の可能性について考えるも答えが出せずにいたが、その時々の地域の課題や旬のまちづくりに加え、忘れられている地域資源や地道な市民活動などの現場に出向き、当事者と対話型の取材を行い編集する。役割はそこまでで良いのだと、EDIT LOCAL LABORATORY が掲げる「まちを編集する」に共感するこの頃である。(2019年12月メルマガ掲載)
 
Profile
栃木県在住。多摩地域や世田谷区など東京西部を中心に市民の視点に立ったまちづくり・風景づくりの支援、調査研究を行い、NPOなどの市民活動や協働のまちづくりのアウトリーチの媒体として、ニューズレターやメルマガの編集・発行に参画してきた。並行して学会誌編集委員として企画編集に関わる。一方で,自治体内シンクタンクにて調査研究・政策提言も行った(2007年~2009年)。自治基本条例の検討委員会をきっかけに2014年より下野市自治基本条例情報誌「らいさま」編集委員長となり現在に至る(2019年)。東日本大震災後、福島県南相馬市を中心に市民による復興まちづくりを見守る中で 地元郷土史家らと出会い、常磐線と沿線地域の歴史や地域資源を掘り起こし語り合う 「ふっこうステーション」を事務局として運営。常磐線が東京の日暮里駅から宮城の岩沼駅まで全通する2020年度まで継続の予定。

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