見出し画像

Let it flow

数年前、出張に行った雨の福岡でのこと。
待っていると、小刻みなエンジン音が聞こえ、VW Type3バリアントが私たちの目の前に停まりました。丸みを帯びたクラシカルなフォルム。自分で作った和紙の帽子を斜めに被った浅岡陽子さんが運転席に座っています。
シフトチェンジのたびに、後部座席にも伝わるトルクの振動。スピードメーターもハンドルのデザインも味わい深い。ぎこちないワイパーの動きで視界が曇ることにも慣れたもの。陽子さんは旧車トラブルで息子さんと二人立ち往生した話をにこやかにしています。バックミラー越しに向ける大きな目は優しく、かつ何か強い意思を放っていました。

7月2日(土)からYAA!!(TERCEIRO)の展示が始まります。
YAA!!のデザイナー浅岡陽子さんにお話をうかがいました。

アパートの一室から

浅岡さんは30代中ごろに、元々友人が住んでいた福岡市南区の古いアパートの一室で雑貨店をされていました。当時は3人の子育て真っ只中。

『なんで大変な子育ての時期にお店をしようと思ったのですか?』

A(浅岡):人生観というと大げさかもしれないですけど、私は思った時にそうしています。用意周到にタイミングを見計らうよりも、環境、状況は自分がなんとかすればクリアできる。その反面「何かしよう」というインスピレーションは思っていても思い付かない。心が動くことに理由はないんです。そういうことを常々繰り返していると思います。

『思い立ったらやらないと気がすまないということ?』

A:んー、ちょっとニュアンスが違うかも。
気をすませたいとか、やってる自分を納得させたいとかではなく、気持ちの流れに自分が沿って行動がただそれについてきてるだけ。ある意味流れに逆らわないということです。

『できそうでできないことですよね』

A:だから周りから見ると子供3人も抱えて何やってんの、ってことになるんですよ(笑)親にも止められたし、、

心の動くままに

『今のテルセイロへどうやって変わっていくんですか?』

A:お店をやり始めた後半あたりから、自分がやりたいこと、空気感とか表現したいことが、その場所では考えられなくなったんです。
私は「場所」が元々持ってる雰囲気とか、そのものを生かして空間を作っていきたかった。頭の中には今のテルセイロのイメージが膨らんでいました。
でも、お客さまは今のお店がいいと思っていて、「私はそっちを向いていないんだけど」となることに違和感があったんです。

それと、子育てをしながらの生活のこともリアルに感じていた時期でした。自分がやりたいことを制限していたこともありました。
けれど、子供たちを育てていく中で、あなたたちのために我慢してたのよ、じゃないけどそういうことにはなりたくなかった。私は100%子供たちと向き合っていたいと思うし、生き方ってそういうもんじゃないかなと思ったから、子供が成長するまでどうこうではなく、子供たちに対しても、お客さまに対しても、今しかできない自分の仕事としての違和感があるなら、心の動くとおりにしようと思い、お店を閉めることにしたんです。

YAA!!の服

それから新たな場所でひっそりとTERCEIROは始まりました。
今年で10年目。YAA!!は前のお店からなのでもう少し長いそうです。

『前から服を作りたいと思ってたのですか?』

A:単純に服が好きだし、でもずっと服飾をやりたいとかではなく、帽子作るのも服作るのも何も知らないところからスタートして、常に興味を持って同じテンションでやってます。

服に関しては縫製力もないし、きっかけは友人でもある縫い子さんと出会えたことです。それがなかったらYAA!!は生まれてなかった。数を多く作る必要もないし、自分のお店なので自由に作ってみようかなと。YAA!!の服が、それがTERCEIROに向かうきっかけでもあったんです。

『ワンサイズというのは最初からですか?』

A:アパレルとして考えるならサイズ展開は必要だと思うけど、ワンサイズの服というのは、人によって工夫することが生まれると思っています。

例えばYAA!!のパンツって、一本ウエストゴムのフリーサイズのゆるパンというのではなくて、ウエストに幅をつけてることで、ウエストの位置なのか、腰の位置なのかを変えることができます。幅があることで腰で履くことができる。すると性別も体型も身長もその人のスタイリングによって、腰で履けばレングス長めでボリュームを変えれるし、ハイウエストで履けば、丈感とかをスタイリングしたり、シャツインしたり、パンツひとつにしても色々と考えますよね。それが服を楽しむことにつながっていて、履き方、着方みたいなことがその人で変わったりすることで服が楽しいものになると思っています。
(サイズを)選べるって自由なようで、それに当てはめてしまう不自由さもあるような気もします。ワンサイズは色んな意味でその不自由さが逆に自由度を高めることもあると思っています。自分で考えて似合う着方を探したり、似合うポジションを見つけることを楽しめるように、全アイテム考えながら作っています。

『シーズンごとにテーマとかあるんですか?』

A:テーマはないです。その時にいいなと気持ちが動いたものです。

『これから先のビジョンとか何かあるんですか?』

A:先々の野望はなく、野望はないです(笑)
常に自由でいたいので、自分で自分を決めつけないようにしています。
自分がいつでも動けるように。

『陽子さんは昔から古い車が好きなんですか?』

A:古けりゃいいっていうわけではないですけど(前出1967年式)。旧車てのは可愛いですよ、おじいちゃんみたいな感じで。作りはシンプルでご機嫌によって調子が変わったりとか。かつて新車で買った誰かから私が何台めのオーナーなのか、古い時代を超えて乗り継いできている人たちがいることを想像するとワクワクします。
『エアコンは?』
後付けのエアコンつけてます。
『バッテリーは大丈夫?』
色んな大丈夫じゃないことが起こりますよ(笑)

『(数年前から宣言していた)サーフィンになぜ夢中になってるんですか?』

サーフィンのことー(笑)海が好きなんです。海に限らず大地だったり自然からはエネルギーをもらえるし、海か山だったら私は海だったかな。波乗りをチャレンジするのは楽しいし、海に浸かっているだけでも楽しいし、ロングボードをやっている大人も増えていますよ。
憧れはハワイのおばぁちゃんやおじぃちゃんみたいに、ライフスタイルの一環で楽しめるように続けられたらと思っています。

—-

最近、EDANEの周りでは「FLOW」というワードをよく耳にしたり、見たりしています。流されるのではなく、流れていく。「今」の自分の思い、流れに逆らわないという陽子さんの人生観に共感を覚えています。
「Let it flow - 流れるように生きる」そんな風に生きれる陽子さん、友人たち、作家の人たちを私たちは尊敬しています。

—-

YAA!! 
NEW COLLECTION
+archive
+TONDO

2日(土)よりYAA!!の展示が始まります。
EDANEでの夏の ” YAA!! “ は初めて。
パンツ、ブラウス、サロペット、ワンピース、コート、ジャケットなど。

TERCEIROオリジナルのTONDOの照明も届いています。
素材は錆止加工されたプレート鉄(black 吹付け /silver 磨き)で、大中小と空間に合わせてお選びいただけます。

水筒を持ってぜひお立ち寄りください。
浅岡陽子さんは3日在廊します。

Cool New Collection “ YAA!! “

—-

YAA!! New Collection
2022年7月2日(土)〜10日(日)
お休み4日(月)、7日(木)
Open 12〜17:00
デザイナー在廊日:3日(日)

EDANE / TOPOLOGY
大阪市住之江区浜口西1-2-8住吉グリーンハイツB-210
Mail:edane@me.com

—-

浅岡陽子さんのお店
TERCEIRO (テルセイロ)
福岡市中央区港2-4-1-2F

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?