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日本人がまだ知らない、ベンチャーキャピタル・トラストの世界

株式投資型クラウドファンディングのプラットフォームを運営しているイークラウド代表の波多江です。

ベンチャーキャピタル・トラスト(Venture Capital Trust:略称VCT)をご存知でしょうか。新興企業や成長が見込まれる事業に投資を行うベンチャーキャピタルについては日本でも認知度が高まっているように感じますが、ベンチャーキャピタル・トラストの存在は、日本では証券取引所やシンクタンクなど、一部の専門家が研究している状況です。

ベンチャーキャピタル・トラストとは、英国で制度設計された枠組みで、主に新興企業や成長が見込まれる中小企業に投資を行うことを目的とした上場投資信託の一種で、最大の特徴は個人投資家に対する税制優遇です。

個人投資家向けにスタートアップへの投資機会を提供しているイークラウドとして、ベンチャーキャピタル・トラストには以前より注目しており、日本でも今後利活用が議論される可能性があると考え、今回情報をまとめてみました。

1.ベンチャーキャピタルとベンチャーキャピタル・トラストの違い

まず、資金調達ニーズがある企業からみた場合には、ベンチャーキャピタルもベンチャーキャピタル・トラストも、投資家という側面では同一の役割を果たします。また、特定のスタートアップに対して投資判断や売却判断についてファンドマネージャーに委ねることになる点が共通しています。

最大の違いはその資金源の性格です。ベンチャーキャピタルは、適格機関投資家や上場会社、富裕層向けに設計されています。他方、ベンチャーキャピタル・トラストは個人投資家向けに制度が設計されています。

日本のベンチャーキャピタルについてもう少し詳しく解説します。ベンチャーキャピタルは日本では一般的に、金融商品取引法上の適格機関投資家等特例業務といわれる枠組みで運用されています。適格機関投資家等特例業務は、適格機関投資家1名以上と49名以下の特例業務対象投資家(上場会社、資産管理会社等)から資金を集めるという制限があるため、現行制度では広く公募されることはありません。また、仮にベンチャーキャピタルに個人的なつながりがある方でも、個人として出資することができるのは1億円以上の投資性金融資産を保有していることなどの条件が法令で定められており、参加できる方は一部に限られています。

2.英国での歴史、目的、制度

英国のベンチャーキャピタル・トラストは、1995年に制度設計され、資金流入が現在も続いています。近年では、年間1,122万ポンド(約1,907億円以下、1ポンド170円換算:2023年5月16日レート)規模の資金がベンチャーキャピタル・トラストに集まり、英国内の投資資金として還流しています。

英国でも数年に一度、法改正で枠組みが整えられており、現時点の主な枠組みは以下のとおりです。

・投資先は英国籍の非上場企業(原則、設立7年以内)に限定される(投資先はファンドマネージャーが選定)
・投資額の30%が所得税還付される(新規発行が対象、セカンダリーでの取得は対象外)
・所得税還付を受けるためには5年以上の保有が必要となる
(5年未満で売却した場合には還付金の返納が必要になる)
・売却益や配当は非課税
・少額でも参加可能、1,000ポンド(約17万円)未満の出資者も全数の7%程度(2019年時点)
・20万ポンド(約3,400万円)が税制優遇の対象となる出資金額の上限

https://www.gov.uk/government/statistics/venture-capital-trusts-statistics-introductory-note/venture-capital-trusts-introduction-to-national-and-official-statistics

英国のベンチャーキャピタル・トラストに拠出された資金は、ファンドマネージャーが目利きした英国籍の非上場企業に分散投資され、5年間は売却しないことを条件に所得税還付を受けられることが大きな魅力になっています。

3.主なベンチャーキャピタル・トラストとその実績

最大級の資金を運用しているのはOctopus Investments社だと言われています。Octopus Investments社はいくつかのベンチャーキャピタル・トラストを運用していますが、その中で最大規模となるOctopus Titan VCTでは11億ポンド1,870億円規模(2022年末時点)の資金が運用されています。
(出所:FINANCIAL TIMESOctopus Titan VCT

Octopus Titan VCTは年率5%の配当を目指して運用されています。年30社程度に新規投資を行い、投資先に対しては役員を指名するなど、ベンチャーキャピタルと同じようなハンズオン型の成長支援をしているケースもあります。

4.株式投資型クラウドファンディングとの違い

ベンチャーキャピタル・トラストと株式投資型クラウドファンディングとでは、投資対象を誰が選定するかという点に違いがあります。株式投資型クラウドファンディングの場合には個人投資家が個別銘柄に対して投資判断をしますが、ベンチャーキャピタル・トラストの場合にはファンドマネージャーが投資や売却の判断をすることになります。

日本の株式投資型クラウドファンディングは資金調達をする企業側から見た場合に、調達することができる金額は1億円未満という上限が定められています。そのため、活用シーンはシード・アーリー期と言われるリスクが比較的大きい創業期が中心で、事業が成長しIPOが近づいてきている会社では、資金調達方法としては調達できる金額に不足感があると言われています。

一方で、ベンチャーキャピタル・トラストの場合には億円単位の出資も可能であり、事業が成長しIPOが近づいてきている会社においても利用が広がることが考えられます。

5.今後日本で導入される可能性、課題

日本ではスタートアップ育成に向けた取り組みが盛んになってきています。ベンチャーキャピタル・トラスト、株式投資型クラウドファンディングともに、スタートアップの資金調達手段を多様化する目的で、官民が関連施策の推進を検討しています。

株式投資型クラウドファンディングについては、政府の「スタートアップ育成5か年計画」、経団連の「スタートアップ躍進ビジョン」、新経連の「規制改革推進会議」などでも更なる利便性向上に向けた方針や提言が発表されています。

2023年5月13日に自民党の「新しい資本主義実行本部スタートアップ政策に関する小委員会」からの提言として具体的な数字についても言及があり、資金調達をする企業の1年間の調達上限について現在の1億円未満という上限を5億円まで緩和することなどの提言がなされています。

また、日本版ベンチャーキャピタル・トラストについても、「個人からVCへの投資促進」という文脈で提言がなされており、岸田総理も「6月に取りまとめる骨太方針や、『新しい資本主義実行計画2023』の中にしっかりと反映させていきたい」との意向が示されています。

イークラウドとしては、今後も個人投資家が、魅力的なスタートアップに対して投資する機会をご提供できるよう、株式投資型クラウドファンディングの更なる利便性向上に加え、ベンチャーキャピタル・トラストにも注目しながら活動していきたいと考えています。

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