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人の生み出す顧客体験が、入念に設計された無人ロボットにコテンパンにやられる世界

何の気なしに立ち寄ると、驚きの情報が見えてしまった。

ブルーボトルコーヒーが閉店している。清澄白河に1号店をオープンし、地域の価値向上に大いに貢献していたイメージがあったので、連戦連勝かと思っていた。

改めて飲食の厳しさを感じた事実だった。潰れたお店は大抵の場合すぐに新しいテナントが入り、定点観測をしていないと過去にそこにいたお店には気づけない。

ここは橋の内部を丸ごとお洒落なテナントで埋めた商業施設だ。秋葉原で多いサブカルチャーとはまた違った角度で、趣味性の高いお店が軒を連ねる。

ブルーボトルコーヒーなんて、思いっきりコンセプトに合っていそうだが、なぜダメだったのだろうか。

一方、同じ施設内にコーヒー屋さんが別にあったので入ってみた。

説明書きを読んで唖然としてしまった。お店は完全に無人で、アプリを登録して注文すると、自販機のような棚にコーヒーが入る。

入れ終わるとアプリで通知が来て、3タッチほどの操作でボックスが開き、コーヒーが取り出せる。

定価は450円だったが、支払いに貯まっていたPayPayポイントが使えたので、ほとんどタダ同然。受け取った後は、その場にある椅子に腰掛けて入れたての熱々コーヒーを飲むことができる。

初めて体験する私でもほとんど迷わずにここまでやれてしまった。顧客に負担をかけず、望ましい行動をとってもらう、まさに「エフォートレス」を体現したようなサービスだ。

人と接するのが苦手な人間であれば、店員さんの目線を何も気にせずに全てセルフでできるこの仕組みは好む人間もいるかも知れない。(その点で、コンビニともちゃんと差別化できている)

普段から顧客の事務フローを考えている立場であるが故に、この練りに練られたサービス設計には感服してしまった。これでお洒落カフェの半分の値段になるのであれば、選ぶ人間がいてもおかしくはない。

有人のカフェが撤退し、無人のコーヒー提供マシンが生き残っているこの空間を見て、私は頭を抱えてしまった。

私が喜んでお金を払っていたカフェでの体験が、見事に設計された自動化システムに敗北している。

しかも、人件費や教育費がかからない分、用意されているコーヒーの種類が豊富で、コーヒー豆にお金をかけることができているのが素人目にも分かってしまう。その部分では人がサーブする店舗に勝ってしまっているのである。

私たちは顧客体験の充実を単価を上げる手段として無批判に提示しがちだが、それは本当に対価に見合っているのかを自問自答し続けなければいけないのだ。

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