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アンドロイドは電気羊の夢を見るか? #1

カーボンニュートラル(CN)について、環境省は2015年に採択されたパリ協定を基に、以下のように説明している。

温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します
2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。
「排出を全体としてゼロ」というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」※ から、植林、森林管理などによる「吸収量」※ を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。
※人為的なもの

環境省 脱炭素ポータル より

上記説明の下に、以下画像が載せられている。

環境省 脱炭素ポータル より

画像2050側には、太陽光、風力発電、バッテリー電池と並んで描かれている車の絵から、コンセントが伸びている。
EV車がCN実現の要の一つである、と印象付けているわけだ。

ちょっと情報が古くなるが、EVDAYSという東電関連のwebの、2021年9月28日の記事によると、EV車の普及率(自動車全体の普及に対する割合)は、
アメリカが約1.8%、EU約5.6%、中国約4.4%だという。
日本は約0.6%だそうだ。

さほど普及が進んでいない背景には、EV車が高額である事、充電のインフラが整っていない事などがある。
その他にも、各国固有の事情があったりする。

アメリカは、テスラ社がシェアの8割を占めている、という”一強”状態から他のメーカーがどれだけシェアを伸ばせるかが、普及率アップの要因の一つとなっているようだ。

EV車に本気で取り組み始めたGM、フォードなどガソリン車の雄達がどこまで追撃できるか。

2019年の約1.9%から約5.6%へ、大幅に普及率を上げたEUは、2020年1月1日に始まった「CAFE(企業平均燃費)規制」によってここまで伸ばした普及率をさらに伸ばすとみられる。

CAFE規制とは、メーカーが販売する新車の平均CO2排出量を「走行距離1kmにつき95g以下にする」というもので、細かい事は省くが、この数字、ガソリン車だけを販売するメーカーでは達成が難しいもので、走行中のCO2排出がゼロであるEVを販売しなければおよそ達成できない数字、だという。

このCO2排出量削減率は年々増加するよう定められており、2035年には2021年比で100%、つまり実質ガソリン車、ディーゼル車は販売禁止となる。

ちなみにノルウェーの普及率は約54%
自動車メーカーがないのでガソリン車からEVへの移行がしやすく、人口が少ないので国民の理解を得やすい、といった背景があるようだ。

中国は「NEV規制」というものを実施している。
電動化車両をNEV(New Energy Vehicle=新エネルギー車)と呼び、自動車メーカーに販売台数の一定割合をNEVにすることを義務付けている。

割合目標は、2020年:10%、2021年:12%、2022年:14%、2023年16%
となっている。

目標を達成できなかったメーカーは、他メーカーから超過分のクレジットを購入しなければならない決まりとなっており、少なくないメーカーが購入を余儀なくされていて、またまた情報が古くて申し訳ないが、日経ビジネスによると日系メーカーの2020年の負担額は1200億円相当であるという。

日本は「2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現する」という方針が定められているが、ここで言う“電動車”には、HV(ハイブリットカー)やPHV(プラグインハイブリットカー/外部電源からの充電が可能なHV)、FCV(燃料電池自動車/水素と酸素の化学反応から電力を取り出す発電機構→燃料電池で、エンジンを使用しないのでCO2排出量はゼロ)も含まれており、すべての車をEVにする、というわけではない。

この方針は、経済産業省が2020年12月に関係省庁との連携で策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」によるもので、2021年6月に改訂版が発表された。

この政策の中では、「2030年までに急速充電器を今の4倍となる3万基を設置すること」などのインフラ整備を始めとして、税制優遇や研究分野への支援、国際連携などに触れられており、その内容は自動車分野に限らず、エネルギー関連産業や半導体・情報通信産業などにも及ぶ。

都道府県などの自治体ごとでも、例えば東京都では「ZEV」を掲げ(何でなんでもかんでも英語3文字にしたがるかね?)、2050年の脱炭素社会実現に向けて、車から排出されるCO2の実質ゼロを目指し、充電インフラへの支援や、EVへの補助金などでEV普及を推進している。

※ZEV=Zero Emission Vehicle(ゼロエミッションビークル)。
 走行時にCO2等の排出ガスを出さない、EVやPHV、FCVのこと。

CO2ゼロでえぇやん・・・

こうした世界の動きやマスコミなどで謳われる環境関連の言葉などからも、時代の潮流は一気にEV車へ流れていく印象を持つが、その流れは所々で逆流したり、随分と緩やかなものに私には感じられる。

逆流の一つは、EV車の製造-廃棄までのCO2総排出量が、ガソリン車やハイブリッド車と比べて大幅に大きいとされている事だ。

特にバッテリーの製造時のCO2排出が課題となっていて、製造・廃棄時のCO2排出量まで含めた「ライフサイクル」全体では電気自動車よりハイブリッド車の方がCO2排出量が少ないとする意見が日本の自動車業界では主流だという。(新電力比較サイト 2021年12月15日記事 より)

走行時のCO2排出量は確かに、EV車が最も少ない。

新電力比較サイト 2021年12月15日記事 より

それでも”ゼロ”ではないのだ・・・。

先にEV車の普及がさほど進んでいない、と書いたが、その理由の一つとして充電のインフラが整っていない事をあげた。

それは単に、充電設備数が十分でない(日本国内で言えば全国の充電スポット数は1万8270カ所<20年3月末時点>、ガソリンスタンドの約6割)、という事の他にもう一つある。

EV車のCO2排出量が「多い」か「少ない」かは、充電に使用する電力のCO2排出量に依存するところが大きいという事だ。

つまり、それは国内の電力を何で賄っていますか?まさかグリーン成長戦略とかZEVとか高らかに謳い上げながら、CO2排出量が多い資源使って電力作って、それでEV車充電しろ、とか言ってないですよね?
という事になる。

資源エネルギー庁によれば、2019年度発電量の割合は、
天然ガス37.1%、石炭31.9%、石油等6.8%、水力7.8%、
水力以外の再生可能エネルギー10.3%。
再生可能エネルギーの内訳は
太陽光6.7%、バイオ2.6%、風力0.7%、地熱0.3%。

要するに火力発電が75.8%を占めていると。

あれ?ところで節電しろとかほざいてなかったっけ?
火力発電分の量が足りないからって。
なんだ(笑)グリーン成長戦略とかZEVとかギャグで言ってただけなのか、そうだったんだ・・・はは・・・。

話を先に進める。

2022年6月11日のITmediaビジネスONLiNE記事で、トヨタ社長の豊田章男氏に記者が会見でこういう直球の質問をした、とある。

「世界はなぜEV一択なのか」

これに対する豊田章男氏の回答が以下である。

カーボンニュートラルを達成するための敵は炭素
内燃機関ではない
炭素を減らすことがCN実現の近道。
エネルギーを作る、運ぶ、使うという点でBEV(バッテリー式電気自動車)だけということに、投資を誘発させたい希望を持つ一部の方々が積極的に発言されているのだと思う。

”内燃機関ではない”という一言に、”技術立国”という命題を背負っているという自負とプライドを感じる。

ちなみに内燃機関とはWikipediaによると・・・

内燃機関(ないねんきかん)とは、
シリンダなど機関内においてガソリンなどの燃料を燃焼させ、それによって発生した燃焼ガスを用いて直接に機械仕事を得る原動機をいう。
内燃機関では燃焼ガスを直接作動流体として用いて、その熱エネルギーによって仕事をする。
これに対して、蒸気タービンのように燃焼ガスと作動流体がまったく異なる原動機を外燃機関という。

内燃機関はインターナル・コンバスチョン・エンジン(internal combustion engine, ICE) の訳語であり、内部(インターナル)で燃料を燃焼(コンバスチョン)させて動力を取り出す機関(エンジン)である。
「機関」も「エンジン」も、複雑な機構を持つ装置という意味を持つが、ここでは発動機という意味である。

この内燃機関である複雑な機構を持ったエンジン含め、1台のガソリン車を作る為に必要な部品点数は約3万点にのぼるという。

それら部品製造から組み立てまでと、デザインからも含めた一連の工程に携わる36万人の従業員と、関連会社3万8663社(2019年帝国データバンク調べ)とその雇用者100から200万人を守る事と、環境問題の両方に取り組む豊田氏は、続いて同記事でこう述べている。

我々のビジネスはBtoCなので市場と顧客により多くの選択肢を提供したい。選択肢は市場とお客様にあるということにこだわりを持ってやっている。
そういう意味では、多様化した社会には多様化した選択肢・解決策があるのではないか。
そのための1つの選択肢として、われわれは水素エンジンを開発している。

ITmediaビジネスONLiNE 2022年6月11日の記事より

前の記事で私は、”お茶を濁している”と表現したが、もしかすると水素エンジンが全てをひっくり返す事があるかも知れない。
(可能性は限りなく低いと思うが)

一方、アメリカのテスラ社は、価格と充電インフラの両面を改善していく事で、現状のEV普及率を一気に上げようとしているように見える。

価格についてはまだまだ高いのだが、新車である「モデルY」が619万円、徐々に下がってはいて、販売台数がもっと伸びれば庶民に手が届く価格帯にまではいきそうに思える。

が、テスラ社の肝はそこではない。
この会社は自動車を販売する会社ではないのだ。

文字数が4000を超えた事だし詳しくは稿を次回に改めさせて頂きたいのだが、テスラ社は元来、バッテリーを作っていて、バッテリーの過充電制御の技術をもっている。

その技術を基に、電力供給のマネジメントを行うのが本業ではないか、と思える。

テスラは、自宅や事業所向けに蓄電用バッテリーの販売も行っているが、例えば、電気代が夜安くなるのは夜間は電力消費量が全体的に少なくなるからだが、その電気代が安くなる時間帯をEV車の充電に当てれば安く充電できるし、何なら蓄電用バッテリーにも充電しておけば、一般家庭であれば一日の電力を賄えるし、災害時なんかにも安心ですよ、どうです?うちのEV車とバッテリー、セットでお安くしときますよ?

という事で車とバッテリーが売れに売れたりしたら、もはやテスラは次の段階として、電力のサプライヤーになってしまうのでないか?
と思えてしまう。
(GMとフォードが本格的に追い上げ始めた今、まさかそんな事には、とも思うが)

先のITmediaビジネスONLiNEの記事に、こんな一文があった。

電力需要のひっ迫を理由に、企業や国民にエアコンの設定温度を28度にするよう求めるなど節電を要求するような国で、EVがどの程度普及するのか。

ITmediaビジネスONLiNE 2022年6月11日の記事より

一向に普及率が上がらないこの国に、もしテスラ社のEV車が同社のバッテリーとこみで本格的な攻勢をかけてきたら、いつの間にか東京電力も名前だけ残して、全国の配電盤にあの”T”のマーク(モーターの断面を表しているらしいが)が付いてたりする事になるかも知れない。

2022年4月20日、第1四半期報告でアメリカ・テスラ社は、報告書の中にこんな一文を記載している。

「バッテリーの使用材料の多様化は中長期的な成長にとって重要だ。
それは我々の生産を最適化するためであり、サプライヤー(取引先)を拡大していく。
このような理由から、第1四半期に生産されたテスラ車のクルマの半数近くにはニッケルやコバルトを含まないリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーが搭載されている」

日経XTECH 2022年5月13日の記事より

この一文を見てもテスラが自動車を販売するだけの会社ではないとわかる。

これまで、技術的課題のある脱ニッケルと脱コバルトを果たしたLFPバッテリーを活用すると宣言してきたイーロン・マスク氏は、この報告書で”実績”として報告した。

誰もがこれほど早くLFP実装が実現されるとは思っていなかったであろう、この辺りから、次回。

それにしても・・・
世界中のエネルギーが電力一辺倒というのはどうなんだろう?
そこは本当に明るい未来なんだろうか?

旧約聖書では、ヤハウェや王が羊飼いに、ユダヤの民は羊の群れに例えられているという。
電力は、羊の群れをどんな未来へと導くのだろう?

ヤハウェや王であれとは思わないが、願わくはイーロン・マスク氏がアンドロイドでない事を願う。

祈りに行くならこの神社に行きたいが、生憎金も時間も無い。


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