プラチナの患者さん
内科勤務していた頃、
化学療法をする患者さんがいました。
シスプラチンという抗がん剤を使う予定でした。
強い嘔気や嘔吐、腎障害などの副作用をもたらす薬剤です。
治療への理解は良好、いわゆる手のかからない患者さん。
でも不安が強く、初めての化学療法で、とにかく緊張していました。
それもそのはず。
身体侵襲の大きな治療をする際は
なぜかいつも直前になって発熱したり、
検査データの値が今ひとつで、
治療を延期することが多かったからです。
でも、その患者さんはやると決めたらやる人。
苦痛を強いられる治療でも、治療が延期になっても、
そういう時こそ弱音を吐かない患者さんでした。
そんなやる気を無駄にしたくなくて、
何かしたかった私。
気休めになるかなと思って、こんな話をしました。
「○○さん、ご存知でした?
シスプラチンって薬は、プラチナからできたんですよ。
アクセサリーに使うようなものから薬を作るなんて、
すごい発想ですよね。
○○さんには効いてほしいなって思ってます。
効くぞって思ってると、薬もやる気出してくれますよ。」
人によっては「ばかにすんな」と言われるような話だったかもしれません。
でも、無責任に「大丈夫」なんて言いたくありませんでした。
薬理学の授業でたまたま覚えていた知識だったのですが、
「へぇ、じゃあ効いてくれるように頑張ります」と
患者さんは笑ってくれました。
その日の休憩時間、同僚から聞きました。
「○○さんがね、
『こだまさん、プラチナから薬が作れる話をしてくれて、
面白いんですね』
って言ってましたよ」
自己満足かもしれませんが、とっても嬉しかったです。
少しでも不安な時間が短くなってよかった。
翌日、吐き気の症状は出たものの、
無事に初回の化学療法は終了しました。
学生時代の薬理学の授業は、課題付けでハードでしたが、
就職してから薬理学の知識には本当に助けられました。
たとえ、患者さんの生命に直結するような知識でなくても。
精神科看護への興味・関心を与えてくださった
プラチナの患者さんには今も感謝しています。
読んでくださりありがとうございました。