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新潟県の和尚が退治した猫の妖怪・火車

火車(かしゃ)とは、葬式などで人の死体を奪って去る妖怪である。

遺体を棺に入れて運ぶ野辺送りをしている際に、突然それまでの天気が嘘のように真っ黒な雲が立ち込めて、嵐となり、雷雨や突風が吹き荒れる。
しばらくすると、嵐は止むが、棺桶の中に入っていた遺体がいつの間にかなくなっていた。
これが妖怪・火車の仕業である。

奪われる死体の多くは、生前に悪事を犯した者の亡骸である。
そのため、火車が出たら、死者が悪人であることが世間に分かってしまうので、「火車が出たのは家の恥や秘密」と考えられたともいう。

遺体を奪い去る妖怪の正体は、猫の妖怪とされることが多く、猫又(股)が正体ともいわれている。

「新潟県に残されている猫の妖怪・猫又の逸話」
https://note.com/echigosado/n/n97a23cbd7208 

猫は愛玩動物として人間に好まれてきたが、その一方で、猫は死体に近づく習性があると考えられたため、人々に恐れられた。
いくつかの地域では「猫が棺桶の上をまたぐと、中の死体が起き上がる」、「猫は葬式を襲って死体を奪う」といった言い伝えがあった。
昔の人々は、猫と死者を結び付けて考えていた。

火車は新潟県だけでなく全国的にも出没した妖怪であり、地域によって様々な呼び名がある。
「マドウクシャ」「キモトリ(肝取り)」「クハシャ」「キャシャ」といった火車の呼び名がある。

火車とよく似た妖怪として「火の車」という妖怪がいる。
火の車は、地獄に落ちる人を連れて運んでいくために、鬼が使う燃え盛る火の車である。
現代においても家計が苦しいことを「火の車」というが、この火の車または火車がその由来である。
ちなみに、著名な小説家の宮部みゆき氏の作品に『火車』という小説があるが、火の車も火車どちらもそれに関係した話ではない。

新潟県では、火車を退治した話が残っている。
江戸時代の新潟県(越後国)の雪の生活を描いた『北越雪譜』にその話が掲載されている。

戦国時代に越後国の塩沢(現・南魚沼市)で行われた葬式で、火の玉に乗った大きな猫が葬列を襲い、人々に牙を向けて死体を奪おうとした。
猫のしっぽは2つあり、その正体は猫又だったとされる。
人々は驚き、一目散に逃げだした。
しかし、塩沢の名刹・雲洞庵(うんとうあん)の北高(ほっこう)和尚がそのとき、呪文を唱えて、如意棒で火車を撃退した。
その際に、火車の血が北高和尚の袈裟に飛び散ったとされる。
その現在も南魚沼市の雲洞庵に「火車落としの袈裟」として実物が残されている。

現代においては、ペットとして愛されている猫ではあるが、昔の人々が猫に対して恐れていた一面を知れることは、現代にない感覚を知れることでもある。
猫と死者の結びつきといった昔の人々の感覚や心理を現代にも残しているという点においても、火車と猫又は貴重な妖怪であるように思える。

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