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『東洋の魔女』にハラスメントはあったのか?不滅の世帯視聴率記録66.8%の向こう側で起きたこと

映画『東洋の魔女』を見てきました。日紡貝塚の女子バレーボールチームを振り返るドキュメンタリー。フランス人監督によるフランス映画です。

『東洋の魔女』と呼ばれた日紡貝塚の女子バレーボールチームは、1959年から66年まで258連勝した伝説のチームです。対戦相手には、各国の代表チームが多く含まれています。連勝途中で迎えた1964年の東京オリンピックでは、このチームが、そのまま日本代表チームとなり金メダルを獲得しました。
決勝戦のソ連代表戦は世帯視聴率記録66.8%。これは、これまでの日本のスポーツ中継で最も高い視聴率。全ての番組トータルでも、この試合を上回る世帯視聴率記録は第14回NHK紅白歌合戦(1963年)しかありません。

過去と現在、さらにはアニメを組み合わせた不思議な作品

この映画は、主に3つの素材の組み合わせで構成されています。
1.新規撮影したインタビューとセンチュリーハイアット京都での元選手昼食シーン
2.テレビアニメ番組『アタックNo. 1』
3.記録短編映画『挑戦』

さらに、高度成長期の産業を記録したニュース映像や試合の映像等が加わります。
そのエッセンスは、フランス版の予告編に強く表れています。

ストーリーは日本語版の予告編で感じ取ることができます。

素材の多くを占める記録短編映画『挑戦』は、東京オリンピックの前年1963年に完成した35ミリの30分作品です。 企画・製作は大阪電通、電通映画社。脚本・監督・編集は渋谷昶子さん。ナレーターは宇野重吉さんです。映画『東洋の魔女』が捉えたのは、日紡貝塚の女子バレーボールチームの練習シーンです。厳しく、激しい練習です。
記録短編映画『挑戦』の冒頭には、このような文章が表示されます。258連勝した試合が死闘なのはもちろんですが、日紡貝塚の女子バレーボールチームにとって練習が死斗であったというのです。その凄まじさは、映画を見れば説明不要です。
「この映画は、ニチボー貝塚バレーボールチームの死斗の練習を記録し、その中から人間のもつ、はかり知れない力を見つけ出そうとしたものです。」
この作品は1964年カンヌ映画祭短編部門に出品されグランプリを受賞します。

ハラスメントにシビアな時代に、この映画で何をハラスメントと感じるか?

近年、ハラスメントに対して厳しい目が向かられています。スポーツ界でも、湘南ベルマーレを指揮した曹貴裁監督(当時)の行為、サガン鳥栖を指揮した金明輝監督(当時)の行為はハラスメントであると認定され、その後のクラブの姿勢も含めて、当事者は厳しい批判にさらされています。
『東洋の魔女』を率いた大松博文監督は「鬼の大松」の名で日本中に知られました。練習は長時間にわたり、深夜にまで及びました。倒れた選手に、遠慮なくボールは投げつけられました。
「鬼の大松」の指導は「しごき」の成功例として知られています。女子サッカーを含む女子スポーツの旧来のモデルとして、今も、厳しい練習手法の一部は引き継がれています。

「鬼の大松」に「しごき」にハラスメントはあったのか?

では、この映画に映し出された「鬼の大松」の「しごき」にハラスメントはあったのでしょうか。実は、この映画の裏に隠された重要なテーマだったような気がします。
その答えは、新規撮影したインタビューとセンチュリーハイアット京都での昼食シーンで、サラリと出てきます。また、他の媒体の過去のインタビューでは「肉体的なしんどさは休憩すれば戻るけど、精神的なしんどさは自分で解決できない。でも、大松先生が私たちを萎縮させることはなかったと思う」という『東洋の魔女』元選手たちの発言が掲載されていました。また、この時代では珍しく「鬼の大松」は練習中の選手に水分を補給させる時間を設けていたといいます。

友情、努力、そして秘密兵器

「しごき」とハラスメントは、全く別のものであることを私は確信しました。そして1965年の東宝映画『俺についてこい!』で「鬼の大松」を演じたのがハナ肇さんであることに納得がいかず、2019年の大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』では徳井義実さんであったことに、改めて納得したのでした。


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