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コロナ総括❶ファクターX~コロナ禍で科学者が見落としたもの~

ファクターXとは、ノーベル医学・生理学賞学者の山中伸哉教授が今回のコロナ禍で提示した概念だ。
山中氏は、日本は欧米に比べて新型コロナウイルス(以下、COVID19)の被害が少なく済んだ理由について、まだ判明していない「未知の要因」があるとして、それをFactorXと名付けた。

COVID19が世界中に流行している。このとても厄介な敵を倒す戦いに国境も学際をも超えて、著名な研究者が参戦している。日本では山中教授や本庶佑教授と二人のノーベル賞学者も加わり、盛んにマスコミで鋭い指摘をし続けてきた。
 しかし、世界レベルの知慧と目されるお二人をしても、なぜ日本がCOVID19の災厄を、スムーズに乗り越えられたかの結論はいまだに出ていない。
 この問題には小林慶一郎氏(東京財団政策研究所研究主幹)や小黒一正氏(法政大学教授)など、経済学の世界からアプローチを試みる人たちもいる。しかし、それでもしっくりくる解=Xは見つからない。
 なぜだろう?
 理由は簡単だと私は考える。
彼らサイエンティストは、高邁な理論の世界に視座を置きすぎている気がしてならない。
 生物学的・民俗学的特徴や集団的行動・思考などから、日本特有の因子を見つけようとしている。
結局、本当の答えは、そんなスパッと割り切れる要因ではなく、行政が行った支援策や、偶然起きたアクシデント、一見無駄に見えた規制、そして国民性などが絡まり合って、日本は比較的軽症で難を逃れられたのではないか。
 ともすれば、演繹(えんえき)か帰納かという一直線な思考になりがちな科学的アプ ローチではなく、この半年で起きた雑多な情報を平易に見比べて、どこに明暗のわかれ道があったかを検証してみた。そうした 社会的要因こそが真の「ファクターX」なのだと、考えている。
 安心してほしい。
この連載には化学式も高等数学もまったく出てこない。
 皆さんがよく知る「この半年に起きたこと」や「有名人の言説」などが頻出する。「ああ、そんなこともあったなぁ」と気楽に読み進められるだろう。
そして、「あれっ?・・・そうか、あのときが『X』だったのだ」とご共感いただければ、と思っている。

以下、連載目次となる。

はじめに ファクターX~コロナ禍で科学者が見落としたもの~

Factor1 逸機 ~なぜ欧米は惨状を極めたのか~
何となく、コロナ対策では、欧米の対策が早くて日本は後手に回った印象が強い。ところが序盤の対応を見ると、日本の素早さに対して、欧米は恐ろしいほど迷走を繰り返している。その準備不足と泥縄対応を「名言」と「気前良さ」で、忘れさせていただけなのだ。

Factor2 禍福 ~初期の災厄・瑕疵はむしろプラスに働いた~
感染が始まった当初、日本はいくつかの不運に見舞われ、瑕疵を起こした。そうした初動のまずさから、えてして「日本はダメだ」というイメージが国内外に広まってしまった。ところが、通り過ぎて振り返ると、不運は後々プラスとなり、瑕疵は大した被害を出していなかったことに気付づく。
§1.ダイヤモンド・プリンセス号は 厄介な福音だった
§2.「中国からの全面入国禁止」はしなくて正解
§3.科学的に無意味な一斉休校が,社会的に大成果を上げた

Factor3 横溢 ~日本で失業も倒産も起こらなかった当然の理由~
このコロナ禍の中でも、日本は倒産も失業も他国に比べて低い水準で抑え続けている。その理由は何か?実は、日本は世界的に見てもかなり大きな経済対策・支援をしているのだ。いやむしろ、それは国の台所事情と不釣り合いな「やり過ぎ」ともいえる。
§1.本当に世界一だった日本の経済支援策
§2.なぜ日本政府は国民から低評価なのか?

Factor 4 小過 ~なぜPCR検査不足は致命傷にならなかったのか~
日本は明らかにPCR検査インフラが先進他国よりも劣る状況が続いた。そのことで、見えない市中感染者が多々いるといわれ、そこから「政府は感染者を隠している」などという噂も実しやかにささやかれた。ところが実際には感染爆発は起きず流行はじきに収束していく。ここには何があったのか?
§1.PCR検査の拡充ではコロナは決して防げない
§2.なぜPCR検査は増やせなかったのか
§3.PCR検査不足と「隠れコロナ」騒動


Factor5 宿痾 ~「国の形」とコロナ対策の解~
コロナ禍では、随所で「私権の制限」という問題に直面した。たとえばそれは「企業活動の停止」「外出禁止」など個人や企業の自由を奪うことを政府ができるかという話であり、また、感染者や濃厚接触者の追跡では個人情報管理に踏み込む場面もあった。感染症対策には欠かせない「私権の制限と国家権力」といういうファクターをこの章では考えてみる。 
§1.私権の制限、罰則、補償、そして憲法
§2.コロナ撃退に成功した中国・韓国に真似るべきまねるべき点はあるのか?

おわりに また感染症はやってくる。あの暗い日には戻らないための教訓。
§1.「経済を殺すな」という声が、逆に経済を殺している皮肉
§2.どう転んでもGOTOキャンペーンはうまく行かない
§3.経済と感染症対策、二兎追うならCOCO割
§4.お盆には地獄絵図。「重症が少ない」「インフルと同じ」は戯言だ
§5.夜の街に法的取締り強化、ムチだけでなく、アメも用意を
§6.Withコロナ体制を作るため、今すぐ「攻め」の緊急事態宣言を
§7.東京の重症者が少ない理由と、正しい「若者は可哀そう論」
§8.「第二波は来ない」という上久保説にこれだけの疑問

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新型コロナウイルス感染症(COVID19)が世界中に蔓延している。日本では欧米諸国に比べてこの感染症の被害が比較的軽微にすんだ。その理由に…

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