見出し画像

コロナ総括❷なぜ欧米は惨状を極めたのか

何となく、コロナ対策では、欧米の対策が早くて日本は後手に回った印象が強い。ところが序盤の対応を見ると、日本の素早さに対して、欧米は恐ろしいほど迷走を繰り返している。その準備不足と泥縄対応を「名言」と「気前良さ」で、忘れさせていただけなのだ。

■欧米の災禍は政策ミスから始まった

 5月、日本国民が悲しくなる記事が新聞やネットをにぎわせた。

「日本は最下位、中国が首位 コロナ対策の満足度調査」(朝日新聞、5月21日)
「絶望…コロナ対応国民評価ランキング、安倍晋三がダントツ世界最下位に」(PRESIDENT Online、5月19日)
「日本の指導者、国民評価で最下位 コロナ対策の国際比較」(JIJI.com、5月8日)

 この調査は、シンガポールのブラックボックス・リサーチとフランスのトルーナが共同で実施。政治、経済、地域社会、メディアの4分野で23カ国・地域の指導者の評価を指数化した。日本は全4分野のいずれも最下位で、総合指数も最低だったのだ。

 たしかに、日本は助成金や給付金などのスキーム作りに時間がかかりすぎ、また、それらの支給にさらに時間がかかるなど、コロナ禍に対する経済対策面では、国民の不興を買ったことは否めない。がしかし、それにしてもだ。他国はそんなに誇れるのだろうか?
 日本が緊急事態宣言を解除した時点、5月25日時点での23カ国・地域の感染者数を見てみよう。


アメリカの166万人をトップに、イギリス、イタリア、フランス、ドイツ、インド、イランと7カ国が10万人を超え、1万7000人の日本は14位となる。各国人口規模が異なるから、今度は10万人当たりの感染者数で見てみると、やはりトップはイランの1684名で、シンガポール、アメリカ、イギリス、イタリア、アラブ首長国連邦、フランス、ドイツまでが200名を超える。
 一方日本は6月10日時点で、13人で、23カ国中少ない方から数えて7番目だ。
「感染者数だと、日本はPCR検査の数を絞っているから、同列で比べるのはおかしい」という声が聞こえそうだが、よく考えてほしい。
 人口当たりの感染者数で見た場合、8位のドイツは日本の約17倍にもなり、フランスは20倍、アメリカやシンガポールは40倍にもなる。
 いくら何でも日本はここまで検査数を絞っていないのだから、正当に見て日本の感染者は少ないと言えるだろう。
 つまり、だ。
 どの指標で見ても明らかに感染者数の少ない台湾やベトナム、タイ、ニュージーランドなどアジア・オセアニア圏のいくつかの国々を除いた多くの欧米諸国は、明らかに感染症対策で大きな過ちを犯している。
 それを、経済対策と巧みな弁舌で、印象操作に成功しているだけなのだ。
 防疫面について、欧米諸国の失敗、そして日本の健闘をつまびらかにしていきたい。

■日本国民は頑張った。が、理由はそれだけか?

 5月25日、日本では新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき発せられた緊急事態宣言が、全国的に解除された。発表当日の「新型コロナウイルス(COVID-19)新規感染者数」は全国で20名。横並びで先進7カ国(G7)各国のCOVID-19新規感染者数を示すと、フランス358名、ドイツ272名、イタリア300名、カナダ1078名、イギリス625名、アメリカ2万229名だった。
 主要先進国と比較して新規感染者数の抑え込みが、とりわけうまくいっている状況に対して、◎月◎日、世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長は「対策が成功した」と評価し、今後も感染経路の特定などに注力する姿勢に対して称賛した。
 こうした状況に対して、欧米メディアは称賛と皮肉の入り交じる反応を示している。
 英紙ガーディアンは、
「韓国や台湾などに続く成功例になったと日本は主張できそうだ」
 と論評しつつも、
「東京五輪を控えていた日本は当初、新型コロナを過小評価していると疑われた」
 などと経緯を説明。
 フランスのAFP通信は、
「日本は新型コロナ流行の最悪の事態を回避したが、単一の明快な理由があるわけではないようだ」
 と指摘。
 米紙ワシントン・ポスト(電子版)は、
「政府の指示よりも、要請・合意・社会的圧力に基づく、日本独特の封じ込め手法が奏功した」
「飲食店の客が向かい合わず隣り合わせで座るよう勧められている」
 など、政府よりも国民の行動を称賛。同時に、
「決して過剰な感情表現をしない(日本)社会が、さらに少し静かで、よそよそしくなるかもしれない」
 と冷やかすことも忘れなかった。加えて、
「安倍晋三首相の初期の対応に不手際があった」
 と、ガーディアン同様、初期対応への疑問を投げかけている。
 こうした声を整理して欧米からの評価を端的に表せば、以下のような言葉になるだろう。

「日本は、当初、COVID-19対策で大きな過ちを犯したが、その後、真面目で協調性の強い国民性に助けられ、いつの間にかコロナ禍を脱した」(ロイター共同)

 たしかに、日本の緊急事態宣言とそれに伴う各都道府県知事の行動制限指令は、罰則規定がなく、自粛に頼るものだ。
 しかも、当初は休業に対する補償さえなかった。
 にもかかわらず、多くの事業者と個人が要請に応じて自粛を貫いたことは、日本のすごさとして特筆に値する。
 だが、本当にそれだけが勝因だったのか?
 見落とされ続けた「欧米と日本の感染蔓延期対応の違い」について振り返っておこう。

■感染者186名でプロスポーツ中止、      学校一斉休校、イベントも自粛

 日本が本格的な「自粛要請」を首相自ら行ったのは、2月26日となる。同日開かれた第14回新型コロナウイルス感染症対策本部(以下、対策本部)の議論を踏まえ「全国的なスポーツ、文化イベント等については、大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止、延期または規模縮小等」を要請している。その前日にすでに開催延期を決めていたサッカーJリーグに続き、プロ野球もオープン戦を無観客試合化することを決定している。同日時点でのCOVID-19感染者数は186名にすぎない。
 この自粛要請に伴い、芸能関係のイベントも続々と中止が決定。
 こうした風潮に逆らい、2月29日と3月1日に開催を決行したバンド、東京事変に対しては、SNSなどで一般人だけでなく、YOSHIKI(よしき)などの先輩ミュージシャンも厳しい反応を示した。
 この件ではさらに実業家の堀江貴文氏が、YOSHIKIに対して「圧力ってやつですかねこれ」と再批判を行ったことで論争が巻き起こったため、世間の関心を呼び、以降、事実上、大規模な文化イベントは開催ができなくなっていく。
 2月27日になると今度は第15回対策本部において、安倍首相が公立小中高校に3月4日から春休みいっぱいまでの休校を要請する。
 この首相要請は、所管の文部科学官僚さえも知らなかったといわれるほど唐突なもので、現場には混乱を生み、また、小中学生を抱える保護者や、彼・彼女らを雇用する事業者からも大いに不興を買った。
 ともあれ、この休校要請にこたえて3月2日より全国公立小中高校の98・7%が休校することとなった。この時点で日本全国の感染者数は268名。

■感染者780名でジム・カラオケ自粛要請、  「断密」もこの時点で言明

 3月1日に厚労省が新たな指針を発表する。
 そこで語られた概念が「3密」の始まりだ。
 日本のCOVID-19の条件別に見た基礎再生産数(一人の感染者が何人に伝染するかという数字。以下「生産数」)を調べたところ、一つの特色がわかった。
 全般的には1を割る「低い」ものだが、以下の3つの条件がそろうと生産数は一気に高まるのだ。

・換気が悪い場所
・人が密に集まって過ごすような空間
・不特定多数の人が接触するおそれが高い場所


■自粛疲れの反動も早期に経験。         以降、自粛の本気度合いが増強


 日本の場合、第一弾要請の期限(3月14日)が来る前に、「3月19日までの延期」が再要請されたために、自粛疲れも早々に発生した。
 3月10日前後には、早くも「経済を殺すな」論が広がり、社会テーマを広く扱うテレビ番組などでも、「今後注意しながら(イベントを)開催するっていう道も考えていかないといけない」(3月8日TBS系「サンデージャポン」での太田光氏)といった発言が多々見られている。
 こうしたことから、3月19日の専門家会議では、「感染状況が収束に向かい始めている地域、感染が確認されていない地域」においては、休校措置の解除やスポーツ・文化イベントの開催再開をにおわせるような発言が出ている。
 こうした風潮に対して、厳しい行動制限を訴え続け後に「8割おじさん」と呼ばれる西浦博委員(北海道大学大学院教授)が、終了後の会見にて、「(緩和の結果)メガクラスターが発生したらおしまいだ」と苦々しい表情で語っている。
 これ以降、自粛疲れの反動による気のゆるみから3月3連休の花見混雑などを経て、感染速度の上昇が起きる。ちょうど同時期に、有名人のコロナウイルス感染が重なった。
 とりわけ、プロ野球、阪神の藤浪晋太郎投手とコメディアンの志村けんさんの感染は記憶に残るところだろう。
 藤浪選手は複数のプロ野球選手と友人女性たちとのパーティー、志村けんさんは銀座のクラブ、いずれも夜の街が感染源だといううわさが流れた。こうした報道があった直後に、志村さんは容体が悪化し、帰らぬ人となった。COVID-19の恐ろしさをまざまざと見せつけられる一件だった。
 これらの事件の後、3月30日に都庁で行われた小池百合子都知事の記者会見で、いわゆる「夜の街」という感染源が提示される。この場には前出の8割おじさんこと西浦教授も陪席したため、一層、深刻さは増した。こうして「夜の街クラスター」新たな自粛軸が、またまた加わることになる。
 このころから小池百合子都知事や吉村洋文大阪府知事など、地方主導の「引き締め」が始まり、それが4月7日の政府による緊急事態宣言へとつながっていく。
振り返ってまとめるならば、日本は感染早期より、次々と自粛軸を増やしながら国民の行動変容を促してきた。
 途中、気のゆるみによるしっぺ返しを経験することにより、さらに気を引き締めて自粛をする、という流れもでき、全国的な引き締めに当たる緊急事態宣言の前に、国民のマインドセットは整っていたのだ。

欧米は当初コロナ禍など他人事
東京五輪を英で代替する議論までも


 一方、欧米諸国は、日本が自粛モードを強化し始めた2月末においてはまったく我、関せずという状況だった。当時の様子を麻生太郎副総理は、以下のように振り返っている。
「2月の終わりにサウジアラビアのリヤドでG20の財務大臣・中央銀行総裁会議が始まった時にこの(新型コロナウイルスの)話は出たんですが、もう全く反応ありませんから。『だって俺のところ、感染者いねえから』みたいな。ヨーロッパはそうだったんですよ、あのころは。それが1週間したらいきなりG7の財務大臣会合の電話会談をやろうと申し込んできましたので、何考えてんだって。(中略)つい1週間前、隣の席で『何の関係もない』って、『あれは黄色人種の病気で俺たちの病気じゃない』って」(3月24日、参議院財政金融委員会)。
 たしかにイギリスでは2月下旬に「東京オリンピックが中止になるならロンドンで開催を」という発言が有名政治家からなされている。現職のロンドン市長であるサディク・カーン氏と、次期ロンドン市長選の対立候補ショーン・ベイリー氏の二人だ。
「ロンドンは20年に五輪を開催できる。われわれには施設や経験がある。世界がわれわれに(準備の)加速を求められるかもしれない」(ベイリー氏のツイッター、2月19日)
「万が一開催を求められれば、ロンドンは本気で取り組む」(カーン氏、地元紙シティー・エーエム、2月20日)
 その後、イギリスは日本の比ではないほどのCOVID-19感染者・死亡者を出すことなどは神ならぬ二人は知る由もないだろうが、発言当時、国内感染者数は80名程度だった日本に対して、ロンドンを代替開催地に上げる傲岸不遜さは、まさに他人事と考えていた証といえる。

党員集会でおしくら饅頭
スーパー火曜(チューズデー)でお祭り騒ぎ

ここから先は

9,679字 / 1画像
この記事のみ ¥ 100

サポートどうもありがとうございます。今後も頑張ります。