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マンドラゴラは歌いたい

“彼”に意識が芽生えたのはいつからか。
マンドラゴラを引き抜くときに死の叫び声を上げることは周知の事実だが、長い時間をかけて成長すると歩き回る程になるということは、魔を生業とする一部の人間しか知らないことである。

彼が成長しあるとき自我を持った。最初に覚えたのはドライアドの声だった。めぐり流れる心地よい音。時々近くの木に現れては、楽しげに声を出していた。ある時彼女は彼に微笑みさえし、彼は喜びに包まれた。そう、彼女から楽しさや喜び、そして美しさというものを知った。

ついに土から這い出し自らの身体を知ったとき、彼は愕然とし、悲しさと悔しさを知った。ドライアドと比べなんと醜い体だろう、と。

大いなるマンドラゴラとして地に立ち上がり、そして暗澹とした気分でいたとき、見知らぬ生き物と不意に目が合った。あとですぐに知ることになるが、それは人間だった。
女の叫び声が響く。耳を傾けていては自分が倒れてしまいそうだ。

【続く】

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