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餓老妖精奇譚

妖精は今回の試練に興味津々だった。これまで来た者といえば、尊大な貴族や英雄気取りの騎士ばかり。
今回来たのは老人、しかも年齢にそぐわぬ引き締まった体。試練を失敗すればそれまでだが、きっとやりおおせるという予感があった。

これは暇を持て余した湖の妖精の気まぐれであった。
適当にでっち上げた試練を成し遂げれば、自分の愛以外であれば、金銀財宝でも死者蘇生でも願いを叶えるといって送り出す。忠告を与えたのにも関わらず愛を求めた男どもの、命を奪うのを楽しんでいた。

ついに老人が鬼の首を持ってやってきた。やはり成し遂げたのだ。
見た目以上に男の願いは風変わりだった。

「儂の言う五ヶ所に稲妻を落とせ」

興味の尽きぬ願いであるが、理由を聞いても詮無きこと。
一つ二つと落とし、最後の雷を落とす時、僅かな違和感があった。

男は礼も言わず去っていく。
これは暫く振りに人間の里へ出る時かも知れない。人間の夫に裏切られて以来ぶりに。

【続く】

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