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映画「シン・ウルトラマン」の後には漫画とドラマで「アオイホノオ」を!


・はじめに


遅ればせながらやっと「シン・ウルトラマン」を見てきた。怪獣や侵略宇宙人と戦う光の巨人。シルバーと赤の無駄のない、いつものカラーリングになってもその胸にはウルトラマンの象徴が無かった。

カラータイマー。それはウルトラマンのデザイナー成田亨氏が最初に生み出した姿には無かった演出上の小道具。だけど、いつしか頭部をマネする運動会用の紅白帽と共に、僕らがウルトラマンに変身するアイテムになっていた……。

・シン・ウルトラマン


「日本に現れるようになった『禍威獣』。巨大な姿と特殊な能力を持つそれの対策として防災庁、その中にスペシャリストを配置した禍威獣特設対策室、通称『禍特対』が作られた。対策立案と自衛隊や警察を始めとした各機関への指揮権も有する専門チームである。

数度の禍威獣から日本を守った禍特対、しかし新たに現れた禍威獣に打つ手のない中、謎の飛翔体が日本に迫って来た……。」

日本人の大多数が知るウルトラマンシリーズ。その第一作である「空想特撮シリーズ ウルトラマン」をベースに、庵野秀明氏・樋口真嗣氏の「シン・ゴジラ」コンビによって制作されたのがシン・ウルトラマンである。

ウルトラマンシリーズは近々もTVシリーズとして制作されており、TVシリーズを紡いだ映画も多々作られている。そちらも熱いスタッフたちの特撮魂によるケレン味溢れる素晴らしい作品である。

※ 話題となったウルトラマンZ、その特撮映像は熱さとケレン味と、それを引きだすカメラワークによって古のウルトラマンファンたちの魂を震えさせた。シン・ウルトラマンに引けを取らない画を作り出していた。

でもエヴァンゲリオンという、ウルトラマンからインスピレーションを受けまくったアニメシリーズで名声を受け、シン・ゴジラで特撮映画製作の力を存分に見せ、各作で興行収益の結果も出した庵野氏の映画のウルトラマンを観たかった人は多かっただろう。多分東宝を主とする制作側もだ。もちろん自分も。

庵野氏による脚本。ウルトラマンの始祖ともいえるウルトラQの怪獣をベースとした『禍威獣』との戦いから始まるシン・ウルトラマン。初代ウルトラマンをベースにして今時のウルトラマンのエッセンスも香るような素敵な話だった。初代ウルトラマンのエピソードを繋ぐために、一本の映画としてはやや骨の細い感じもあったが、その分、古のファンたちには心に伝わる肉が内包されていた。

特撮に関しても庵野氏・樋口氏のタッグはオタク(古のファンとカッコつけててもしょうがない。我々は堂々とオタクなのだ)の魂にくる映像を随所に差し込んでいる。ウルトラマンならではのあの人形や、当時のスクリーンプロセス(合成方法のひとつ)を彷彿とさせる絵作りなどなど止まらない。

ドラマ部分はやや今どき風に、特撮部分は現代CGとレトロロマン。後半のややゲーム的な展開とCGにはちょっぴり残念と感じる部分もあったが、でもウルトラマンとして納得の仕上がりの作品だった。

・アオイホノオ


「アオイホノオ」は熱い、熱すぎるマンガ家、島本和彦先生の作品。

「この物語はフィクションである」と前置きしているが、大半が実話としか思えない自叙伝といえるマンガである。過去にプロマンガ家になってからの自叙伝マンガ「燃えよペン」「吼えろペン」「新吼えろペン」が発売されており、大作家芸術大学入学からプロ編までを描いているのが現在ゲッサンで連載されているアオイホノオである。

特色としては当時のマンガ・アニメ、それに関わる製作者と、大学時代の友人の一部が実名で登場するコトである(島本和彦先生は焔燃<ホノオモユル>という名で自分を出しているのに)。そしてその大作家芸術大学(ドラマでは包み隠さず大阪芸術大学)の映像計画学科にいた同期、実名で登場する友人かつライバルとして庵野秀明がいたのだ(マンガのキャラだからココから敬称略)。

その他、後に庵野秀明とGAINAXを興した赤井孝美・山賀博之、アニメ制作会社ボンズを興した南雅彦も映像計画学科の同期。なぜこんなに集まっていたか不思議だが、この奇跡の邂逅をマンガにしているのだから面白くないワケがない。

※ 別の科の同期にアップルシードや攻殻機動隊を描いた士郎正宗先生もいたようだが残念ながら登場しない。

島本和彦先生にはマンガ家としての欠点がひとつある。ファンなら皆が納得するその欠点、それは「マンガも面白いが、本人がそれを超える程に面白い」。北海道のラジオや全国区のTV番組にも現れる、その熱すぎるキャラを超えるのはなかなか難しい。

ならばその本人が主役ならば欠点は……。そして、その周りを囲むのは庵野氏を筆頭とするプロになった当時のオタク達、そんなキャラたちが当時の傑作マンガ・傑作アニメ・傑作特撮の解説を交えてプロを目指して進む物語。これが面白くないワケがない!

そんなアオイホノオの1巻には大学の制作物であるショートムービーでの焔燃vs庵野秀明な話がある。ポンコツな焔燃の作品と争う、庵野秀明が出したムービーこそは総監督庵野秀明の手によるウルトラマン!

実際のウルトラマンのBGM・効果音を使い、ウインドブレーカーにカラータイマーを付けただけの姿をウルトラマンとしてスクリーンの中で戦う庵野秀明。焔燃(≒島本和彦)は言う「カラータイマーをつければウルトラマン!俺はそこに気が付かなかった!」

後に福田雄一監督の手で制作された、マンガの実写化成功作として名高いドラマ版の「アオイホノオ」では焔燃(≒島本和彦)役の柳楽優弥氏がキレッキレの演技を見せるこのシーン。庵野秀明の撮った最初のウルトラマンもほぼ当時と同じ映像を再現して見せている。庵野秀明役は我が北海道の誇るTEAM NACSの変態……いや天才、安田顕。これまた素晴らしい怪演だ。

そして、カラータイマーをつけた庵野秀明だけでなく、縦回転などシン・ウルトラマンの姿にもつながる映像が……。

必見である。もちろんマンガもドラマもだ。庵野秀明というキャラクターを差し引いてもマンガ家マンガとして、歴戦のオタクの物語として面白い。

・おわりに


シン・ウルトラマンでも実際のウルトラマンのBGM・効果音は使われる。文字どおり効果的にだ。映画ではシン・ウルトラマンのオリジナルのBGMの比率が上がっていくが、やはり「実際のウルトラマン」の音は強い。

だが、はじめに記したように、シン・ウルトラマンにカラータイマーは出てこない。もちろん主の理由は成田亨氏の生み出した最初の姿にはなかったコトなのだろうが、アオイホノオを読むともう一つの理由を庵野秀明が叫ぶ姿を空想せずにはいられない。


「ホノオ(≒島本)!ついに俺はカラータイマーの力を借りずにウルトラマンになったのだ!!」


ゲッサンに連載中、既刊26巻。ついに週刊少年サンデーの連載が始まった焔 燃≒島本和彦は大学の仲間たちと別れ、ひとり東京でプロとして戦う。

役者たちの怪演、原作にハマった福田節、作内マンガを描いた一本木蛮先生。そして最終話、とある男の怪演で漫画とドラマと現実が繋がる!

天然色の新たな世界を作り出した原点。感動は薄れない。懸命に作られた素晴らしい映像とドラマだから。有価だけどシリーズはPrime Videoでも見られるね。

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