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Long music is good music. 演奏をする時にいつも頭にある師匠の言葉

こんにちは、ファゴット奏者の蛯澤亮です。楽器を吹いたり、youtubeやnoteで情報を共有したり、コンサートの企画運営をしています。

さて、今日は師匠の名言。

私には3人のファゴットの師匠がいます。日本で学んだ馬込勇先生、ウィーンで学んだミヒャエル ヴェルバ、スイスのバーゼルで学んだセルジオ アッツォリーニ。

最近、ウィーンの師匠であるヴェルバがウィーンフィル を引退したという話題が続きました。私の音楽家としての基礎を作ってくれた人であり、私がプロというラインにかろうじて立っているのは彼の教えのおかげです。

今回紹介するのは私がスイスのバーゼル音大で短い間学んだアッツォリーニという師匠です。


管楽八重奏のCDでホレた私のアイドル

なんと言ってもアッツォリーニは私のアイドルでした。大学一年の時にザビーネマイヤー アンサンブルという管楽八重奏、そう、ハルモニームジークのグループのCDを見つけたのです。

管楽八重奏とはこういう編成↓

で、ザビーネマイヤー アンサンブルの中で一際個性的なファゴットがいたわけです。モーツァルトのセレナーデ第11番の冒頭で

「なんだこのファゴット??」

と衝撃を受けました。

メンバーを見ると1番ファゴットはSergio Azzoliniと書いてある。写真を見ると天パで見た目から個性的な人物。

当時の師匠、馬込先生に「この人ご存知ですか?」と聞くと、「アッツォリーニね。トゥーネマン門下だよ」と教えてくれました。高校時代はトゥーネマンの演奏をよく聞いていたのでなんとなく納得しましたが、うーん、トゥーネマンともまた違うよなぁ。

その後、いろいろなファゴット奏者の演奏を生やCDで聴きましたが、アッツォリーニほどの衝撃は受けたことがありません。


師事したのは実は半年ほど

その後、私は長い時を経て師事する事ができました。

出会ったのは28の時で彼も既に私のことを「プロのレベル」と評価してくれました。

「君の音楽人生で私の音楽が必要だと思ったら来なさい。来るなら私は受け入れる。でも、自分で判断しなさい。」

そんな言葉をかけられ、私は即答で習いたいと言いました。

実はアッツォリー二に師事したと言っても、実際に習ったのは半年ほどです。大学の席が空かない問題、私のアメリカのオケへの入団などいろいろな事情が重なりましたが、結局、予定より遅かったですがバーゼル音大の別科に入ることになりました。本当は一年の予定でしたが、当時彼の腱鞘炎が悪化していたことから、半年休養期間を置いたことで、私の習う期間も半年後ろ倒しになったのですが、帰国して日本での仕事を始めた期間も重なり、半年のみの生徒となりました。

そんな半年だけ習った生徒ですが、彼はとてもよくしてくれ、「お前は普通の人が4,5年で習うことを半年で吸収した」と言ってくれました。その後も日本に来た時には飲みに行ったり、お茶をしながらお互いの近況報告といろいろな相談事などを話しています。

昨年は地元の茨城交響楽団とのモーツァルトの協奏曲の前に会うことができたのでカデンツァの添削をしてもらいました。おかげでより魅力的なカデンツァで本番をすることができました。

プライベートなことや仕事のこと、音楽のことなど幅広く話します。ヴェルバはウィーンの父だと書きましたが、アッツォリーニは兄貴ですね。年が15歳ほどしか離れていないので師匠であり、兄貴って感じ。彼も私のことを友人であり同僚と言っていろいろな話をしてくれます。学生時代の憧れのアイドルからそう言われることは本当に嬉しいことです。

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↑四年前にアッツォリーニと飲んだ時
磯丸水産の蟹味噌がお気に入りw


彼の音楽作りの一端が見えるレッスン動画

さて、今日紹介するのはレッスン動画。

彼の1番の魅力はファゴットに囚われない音楽作りです。何よりもその音楽性が素晴らしい。そしてそれをファゴットで実現できてしまうところがまたすごいのですが、最初の想像力がなければただ上手いファゴット奏者で終わってしまいます。

Long music is good music.

これはこの動画で楽しそうに言っている言葉ですが、よく言います。この文は何回聞いたことか。マスタークラスなどでも聞いたことがある人は多いでしょう。

演奏する時になんとなく吹いているとちょっとしたことでフレーズや音楽の流れが途切れてしまいます。それをなるべく長く、長い流れを作ることが大事だと教えられました。一つ一つは歌っているけど、途切れ途切れになったり、全体のつながりがなかったり、せっかく歌っているのに効果がない人も実は多かったりします。私も様々な場面でそんなことに陥ります。そんな時、この言葉を思い出します。

簡単な文ですがとても基礎的で深い言葉です。


長く続く流れを作ることで聴衆は飽きずに演奏を聴く事ができます。そこにはまず長い流れを持続すると言う意志が必要です。その基礎がなくてはいくら音が繋がっていても音楽は途切れてしまいます。この基礎的な意志やエネルギーというものはヴェルバにも散々教えられた事ですが、アッツォリーニの演奏はそれをわかりやす過ぎるほどに見せてくれます。

最近、やはり自分のファゴット演奏もちゃんとしないといけないと考え直し、師匠たちのことも思い出して、自分の楽器を吹く感覚を取り戻しつつあります。師匠たちの顔に泥を塗らないように演奏の質を保っていきたいと思います。


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