サンタさんのプレゼント

さんたさん、さんたさん、海にはサンタさんが住んでいる。ある港町で突如子どもたちに歌が流行した。大人には聞こえない、モスキート音みたいにして、子どもたちにはどうもそれは聞こえているらしかった。

海の、彼方から。

空のサンタさんはみんな知ってるけど海のさんたさんはプレゼントをくれないの。プレゼントをあげなきゃいけないの。海のさんたさんは怒りっぽいから、すぐに逃げなきゃ殺されちゃう!

なんとも物騒な歌だった。

いつしか誰か、漁師のうちの誰かが、言った。

アレはセイレーンの歌だ。船乗りを歌で海に沈めて殺しちまう、セイレーンの子守唄だ。あるいはセイレーンの恨み節、呪いの詩なんだ、と。

セイレーンがどこかでサンタさんを知ったとき、おそらく彼の女は怒ったのだ。海から海産物や仲間を奪っていく人間の、能天気ぶりに。

「こりゃ、海がしけるわ」

「くわばらくわばら。荒れ狂うわ」

「海つうもんはどうしてあんなに危険なんだろな」

それは、人間がずっとずっと、海から奪うばかりでサンタさんみたいなプレゼントなんかゴミとか汚水とか、ろくでもないものばかりだから、ですよ?

セイレーンは、遥か彼方の海の果てから、答えた。モスキート音のようなか細い声で。

彼の女はぽつぽつと呪いを贈る。

「ニンゲンて、ほんとうに自分勝手だわ♪」

サンタさんなんて、都合のいいものは海にはいなかった。

まぁ魔女ならいるけれど。人魚姫を人間に変えたり、セイレーンに変えたり、邪悪なやつならいるけれど。

プレゼントなんて、そんなものをセイレーンは知らない。人間が垂れ流すゴミと排水はよく知っていた。とても、よく。


END.

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