ブラックホール恋心

吸い込んで、何処かの知らない虚無に運んでしまう。ブラックホールは宇宙の穴とも呼ばれるけれど、セイレーンたちの恋もまた、似たような構造美をそなえていた。

恋はしている。
けれど、恋はすると同時に終わらせる。

歌声でやってきたモノにセイレーンは恋をする。恋心は嵐を呼び、海にはうずまきを呼び起こし、セイレーンの目の前で愛するひとは海に呑まれて消えてしまうのだ。

セイレーンの恋は、こうして、あっという間に終わる。
叶わぬ恋を嘆き、また歌う。
また何者かが訪れる。そうして一目で恋におちて一瞬で海に溺死させて、恋だけがちゅうぶらりん、セイレーンは失礼するのである。

海なのに、なんて不毛地帯。
なんて不毛。

なにも実らない。
しかし、それがセイレーンの性質であって、セイレーンに定められた生き方であった。これを否定することはセイレーンにすらできなかった。

セイレーンはまた歌う。
神よ、どうか、泡になってもかまわないから、私達にちがう恋愛を教えてよ。人魚姫のような童話にさせて。美しいものがたりを、与えて。

セイレーンの歌声は切実なる想いがたっぷり詰まっているから、また、誰かが、惹き寄せられては、溺死した。


END.

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