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ちょっと踊ったりすぐに駆け出す

洗濯物を干していると、朝食を食べている娘にお母さん来てといわれ、何さと聞けば食パンにクリームチーズがうまくぬれないのだという。

塊がパンにめり込んでしまっていたのでナイフで全体にぬりひろげた。

子どもと応対していると、こういった、できないからやってと頼まれるコミュニケーションが多い。できないのレベルが大人より低いので簡単に「やってあげる」ことができる。

大人だったら「できないからやって」のレベルがもっと高いと思うのだ。高度で専門的なこととか、センスが要されることとか。だからわたしはあまり人にしてあげられることがない。

子どもにはクリームチーズをぬるくらいのことで「すごい、きれいにぬれた、ありがとう! 」「えっへん、どういたしまして」がカジュアルに発生する。うれしい。

子どもらは学校へ行き、私は始業前に娘が図書館から借りた本を返しにでかけた。

返却ボックスに投函してすぐ帰ろうと、自転車でのりつけて差し出し口を開けたところ、あっ! 中に人がいる。目が合った。そうか、開館する前の回収作業をしているんだ。

慌てて自転車をとめ裏に回って本を渡す。大きな返却ボックスで、中にエプロンをつけたスタッフさんが2人いた。「こんな風に作業なさってるんですね!」というと「そうなんです」と笑い返してくれた。長いこと世話になっている図書館だけど、返却ボックスの中を見たのは初めて。ラッキー。

仕事にかかり、昼休みに母が用事のついでにとおりがかったからと煮豆を持ってやってきてくれた。お茶だけ飲んで帰っていったが、どうも小学生の姪っ子は勉強ができるようだと話しており、いわゆる親ばか的な眼鏡をかけてみてのこととは思うが私も伯母として興奮する。

本人も母親である妹も中学受験には興味がないんだそうだ。私は令和の世にあってなお昭和的な教育思想を捨てられず偏差値へのあこがれをたぎらせているから「もったいない!」と吠えた。私が塾代を出そうかなどとうかつなことを言いそうになったがこらえた。

鳥が鳴いた。ここいらではあまり聞かない鳴き声だった。

母が去り午後も仕事をすすめ終えるころ、娘が「玄関の前に柿が置いてあった」と帰ってきた。

友人が柿をくれると言っていたが、置いていってくれたんだ。家にいたのに申し訳ない。大きくて立派な柿で、これはよほどの高級品なんじゃないか。

お礼のLINEを送ると、実はそのとおりそこそこの品で、でも食べきれないので遠慮なくもらってほしいということだった。人生のよろこびよ。

4つももらって、娘が冷蔵庫に入れた。

「4つ、冷蔵庫のあっちこっちに入れたから探してね!」という。

柿を冷蔵庫にしまう、それくらいのことでも、ちょっと隠して「探してね!」とお楽しみコーナーにする、娘はそうやってずっと遊んで暮らしているから感心する。

部屋で放っておくとちょっと踊ったり、外を歩いているとすぐに駆け出す。

夜は半端な食材を煮たり焼いたり汁にしたりしてしのいだ。

子どもたちが寝て、冷蔵庫の4つの柿を探した。

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