記事一覧
息を深く吸いなさい。
家具が好きだ。太々しくどっしりした色合いのアンティークなもの。焼き菓子の装飾のようなひねりを柱に彫り込んであったり、ブナやフジなどの植物と相談しながら形取ったり。簡単な作りの古い飾り棚でも一枚板が使用されていたり。それだけで趣がある。最近流行りの青や黄色の高い彩度で一面を塗る北欧のものも良い。装飾を最小限に抑え、簡素さを美しさに変換している。「物」はどれも美しい。
そういったものを見たくて、S
「日記」と数ヶ月のまとめ。
年季の入ったリビングテーブルに、おかずがこんもりした大皿を並べる。今日の献立は、菜の花と豚肉の柚子胡椒塩胡椒炒め、ねぎがたっぷり入った卯の花、豆腐入りのひじき煮、生野菜サラダ、合わせのお味噌汁、それに昨日の残り物が2品。私好みのラインナップだ。弟がひじき煮を山盛り取り皿にのせて、どんどん口へ運ぶ。「豆腐がいい仕事をしている。」と、「うまっ、うまっ。」と鳥のように鳴きながら。
その豆腐は、下茹で
「確かなもの」と10月のまとめ。
伸縮棒ネットの口を広げると15、6個の栗がごろごろと転がり落ちた。恰幅がよいスモーキーな赤茶色。まさに栗色だなぁ、と静かに思う。
半袖のTシャツにさまざまなカーディガンを着て緩やかに下がっていく気温に対抗していたが、今日は箪笥の奥からトレーナーを引っ張り出した。クリーム色の袖から今度は私が腕を出す。埃っぽさにひとつの秋を感じながら産直へ向かった。久しぶりの店内はどっさりと秋が敷き詰められている
「秋雨」と9月まとめ。
私の後ろにぶら下がるモダンなシャンデリアの光が窓ガラスに映っている。葉を順番に赤く染めている桜の樹がちょうどそこにいて、真鍮のベルを飾られているようだ。今日は風がない。植物たちはおとなしく、時々雨の滴りに頷くだけだ。私もそういう大人になりたかった。と、今週のうまくいかなかったことを思い出す。ついでに先週のも。あれも、これも。それも、どれも。ため息でちょっとだけ自分が小さくなるのを感じる。赤ちゃん
もっとみるかりねこスペース一覧
借りてきた猫ズ スペース一覧表
個人的なものですので何卒。
2022年群像の夜「スワロウ」
20220722
群像の夜「形のない骨」
20220827
企画「第3回ラーメンズで死ぬ日」
20220903
かりねこラジオ「オツキミ」
20220910
かりねこラジオ「第2回ラジオ配信ごっこ」
20220914
群像の夜「リリーのすべて」
20220917
かりねこラジオ「第
「循環する営み」と8月のまとめ。
はたちを過ぎた頃までは出かける際に必ずiPodとイヤホンを持っていた。自転車で砂利道を、二両編成の赤い電車で街へ、免許を取ってすぐには夜通し高速を走ってどこまでも100キロも500キロも1000キロも先へ。自分のだいすきを詰め込んだ小さなアルミニウムがあればあっという間だった。それ以外にも、芸術、花、絵、お菓子、そこにしかない何か、など、あれや、これや。名前のつかない小さな粒のような私のすきが溢
もっとみる日記と7月のまとめ。
▷spoon朗読
「優に救われてるの、ほんとうに。」
「朝起きて、今日も無事生きてるなと思う。」
「普通がいちばん。そう思うようになったわ。」
太陽に手を伸ばす木々を横目に、助手席で祖母がぽつりぽつりと言う。
災害級の暑さをキャスターたちが警告する日々。うだるような暑さ。茹で上がるという意味もそうだが、音が、この日本の夏の暑さを表すのにぴったりの言葉だといつも思う。この1週間、雑草たちが灼熱の
「みそひともじ」と6月のまとめ。
無彩色の薄いカーペットが吸収する足音。天井に届きそうな本棚の所々で生じる木板を摺る音。筆記具が机を滑る音。紙と紙が優しくこすれる音。それをめくる音。控えめな言葉の交差。弦を張るような少しの緊張に身を任せ、私はここにいる。通い慣れているはずなのに、不思議と浮ついた自分を見つけるのだ。しかし彼は対照的にこの空間の一部となっていた。例えば、ここは学校の図書室で、彼はそこに置かれた「分厚い本を捲る男子生
もっとみるフィクション「敵」と5月まとめ。
ここで明らかな私と彼の分岐点が生じる。私のグラスで不安定に重なっていた氷が身を挺して時間の経過を告げるも、その声に耳を傾けたのは私だけだったのだ。氷は有能で、彼は無能だ。そう思いながら、私はプラスチック製の細いストローを指先で摘み、グラスの底のアイスティーと氷だったものを一撫でした。氷はもう一度時間について声を上げた。彼の気の抜けたジンジャエールがグラスに汗をかいて足元を濡らしている。私の視線を
もっとみる逃げたけど、楽はしなかったんだ。
夜の高速道路を走り抜ける帰り道。君は2ヶ月先の話をし出した。今日が終わる寂しさから次の予定の提案をしようとしてるのだろう。これはおそらく、私の真似だ。君が私の内側の輪郭を触れ始めた頃、私は車を車線変更しひたすらに走り出した。フロントガラスとサイドミラー、そしてバックミラーに視線を動かすことで、立体的な景色を脳内に組み立てた。運転に集中していることを言い訳に、耳を塞いだのだ。君の声は少し遠くに聞こ
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