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ぽち×干菓子対談

・ぽち

暖かい夜景好きなイラストレーター。
人の暮らしの暖かさを感じる絵を目指して、ひたすら街に明かりを灯し続けています。

・干菓子

イラストユニットmoffmachiを中心に活動するイラストレーター。作家さんとの対談記事をあげたりもします。


■「生活の暖かさ」っていうのを表現できるようにひたすら灯りを灯している

干菓子
今回、ぽちさんからお声がけを頂きまして、久しぶりに対談をすることになりました。よろしくお願いします。

ぽち
はい。よろしくお願いします。

干菓子
ぽちさんは背景描きのイメージで、あと本当に写真をガチでやられてる方だと(笑)

ぽち
そうですね、基本的には写真と、風景を描いてます。

干菓子
写真と風景どちらから先に始められたんですか?

ぽち
絵の方が圧倒的に早いですね。もう、物心ついた時には描いてたらしいので…

干菓子
それは最初から風景ですか?

ぽち
もうバリバリ風景ですね。小さい頃大阪にいたんですけど、幼稚園ぐらいですかね、阪神高速のインターチェンジとかを立体で描いてたらしくて…お城とか、都会とか、そういうのをチラシの裏にガシャガシャと描いてたらしいです。

干菓子
ひえ〜…何がそんなに駆り立てたのか(笑)

ぽち
わかんないんですよ〜。街灯の曲線とかにこだわりがあったりして…幼稚園の頃から相当な変人だったんでしょうね(笑)

干菓子
僕は風景なんてなかなか小さい頃に見るイメージないですね…。土地柄かもしれませんが、小さい頃って本当に世界が狭いので、手元のものしかなかなか目に入らないイメージ…すごいですね。

ぽち
電車に乗って大阪市内に行くのが昔からすごく楽しみで。「電車に乗るとひたすら窓の外を眺めてるからお前は手がかからなかった」って親から言われたんですけど(笑)とにかく外眺めるのが好きだったんですよ。幼稚園児のまま大人になってしまった。

干菓子
今となっては車窓眺める魅力めっちゃわかりますけどね。大好きです。だいたい描かれてるものって夜景ですよね?

ぽち
そうですね、結果的に夜景が多くなりましたね。元々は鉛筆とかシャーペンで描いてたんで白黒だったんですよ。

干菓子
白黒!

ぽち
はい。それから中学校からは部活で吹奏楽やって端で絵は全然描いてなかったんですけど。大学入って、また色々あって絵の世界に入ってきまして。どうせやるならとpixivの絵とか見てたらカラーの絵に感動して。そこでちょっとカラーに手を出し始めた感じですかね。

干菓子
もう僕ら世代は絵を見るといえばpixivみたいな感じでしたもんね。

ぽち
そうですね。風景界隈でも有名な方がいらっしゃったりして。まぁそういう人にご多分に漏れず憧れて、描くようになったという感じですね。

干菓子
なるほど〜。夜景は結果的にって言われてましたけど趣味というか好み的な感じなんですか?

ぽち
もともと、カラーに挑戦した絵が温泉の絵なんですよね。まぁちょっと心の病を患ってたときがあって(笑)その時に温泉にずっと行ってたんですけど、暖かい光の温泉をずっと見ながら入ったりしてて。こういう暖かいものを表現したいな〜って思って初めて描いた絵が「夜景」だったと。そこで自分の思ったように描けて、色々声もかけていただけるようになって、じゃあ世界一の灯り系絵師を目指してやる的な感じで(笑)そっちの方に傾倒していったという。

干菓子
夜景…というか街の光のライティングって僕全然わからないんですけど、何か意識されてることとかあります?僕の絵はもうライティング自体強く意識しないで描いてるんですけど…。ぽちさんの絵はリアルなライティング追求してるんですかね?

ぽち
元々はリアルを追求する方でしたね。最近はもうだいぶ独自路線になっちゃってるんですけど。

干菓子
イラスト的に映えるようにするってことですかね?

ぽち
何でしょう…自分の描いてる夜景って、「廃坑の街」っていう一つの創作の中の街を舞台にしてるんですけど。さっき言ったようにとにかく暖かい灯りが描きたいっていう意識があって。「生活の暖かさ」っていうのを表現できるようにひたすら灯りを灯しているので、白熱電球の色を多用してるんですよね。蛍光灯だとちょっと冷たくなってしまうので。なので暖色系の灯りで統一して描いていて、これなんかはかなり演出に近いところかなとは思います。

干菓子
そうですよね、ぽちさん描かれてるものって全部架空のものですもんね。

ぽち
蛍光灯も入るんですけど、蛍光灯もちょっと暖かみのある色にあえてして載せたり…

干菓子
じゃあもう描きながら「ここは白熱電球で」「ここは蛍光灯で」っていう風に決めながら描いている感じなんですか。

ぽち
そうそう、基本全部白熱電球で、看板とかにたまに蛍光灯が使われるくらい。

干菓子
街の設定ってどこまで作ってあるんだろうって気になっていて。これイラストって全部一緒の世界観なんですか?

ぽち
世界は全部一緒です!「廃坑の街」という世界のどこかにある街。なので一応共通設定とかはいっぱいあって。一番初めに描き始めたのが2010年くらいですかね。大学ノートの落書きから始まって、最初は白黒だったんですけど、そこから2枚3枚と描くなかで設定をどんどん追い込んでいって。今は…どこまで言えばいいんだろう?(笑)語り出すと3時間でも4時間でも語れちゃうんですけど(笑)

干菓子
全然構いませんが(笑)

ぽち
元々、鉱山好きなんですよ。鉱山とか炭鉱とか。特に炭鉱って戦後の日本の復活をエネルギー源として支え続けた産業で、貧しい人たちが多かったんだけれども、豊かになろうっていう意思もあったという話を聞いていて。でもそれが今は負の遺産となって朽ちていっている…もう炭鉱って日本にはほとんどないんで。それがちょっと寂しいなって思って。そこに別の目線から灯りをつけてあげたいって思ったのが「廃坑の街」のルーツでして。

干菓子
は〜〜〜〜〜〜〜なるほど。

ぽち
みたいなね。固い話になっちゃうんですけど(笑)まぁそこができたらあとはバーーーッと妄想回路が回り始めて。じゃあ炭鉱の施設ってどんなのかっていうと「立体」になるんですよね。坑道だったら地下だったりとか、斜面に炭鉱の施設に作られることが多いんで。そこの複雑なところにグジャグジャグジャっといろんな街を重ねていったら、生活感とか、大きな遺構に寄り添って暮らす人たちみたいなのが表現できるんじゃないかなって思って。そんな、思いがこもってます、一応(笑)

干菓子
いや〜すごいいい話が聞けました。今の話なんかでもそうですけど、結構街の出で立ち的な所ちゃんと意識されてる感じじゃないですか。単純にぽちさんの趣味だと思ってるんですけど(笑)

ぽち
もう100%趣味です(笑)

干菓子
例えば旅先の街がどういう出で立ちでこういう建物が残っていて…とか考えるの好きなタイプじゃないですか。

ぽち
堪らんです(笑)

干菓子
それはどっちが先なんですか?絵が先なのか、その趣味から絵に派生したのか。

ぽち
どっちだろう……元々設定厨なんですよ。昔描いてた線画の絵とかも芸術作品として描くんじゃなくて、「僕の考えた最強の街」を形にしたいっていう欲望のままに描いて、それが今に繋がってるので。それを考えていくと絵が先なんですかね。それでやっぱり旅先とかで面白い建物を見ると、とりあえず写真に撮って、バーッとその場で調べて。調べて歴史とかがわかってくるとまた写真の撮り方とかも変わってくるので。で、旅に行ったらいつまで経っても先に進めないっていう(笑)

干菓子
ふふふ(笑)写真家あるあるですね。全く進みませんからね(笑)


■大阪が「廃坑の街」の原風景。

干菓子
好きな街とかあるんですか?今まで行った中で。めちゃくちゃあると思うんですけど…1番を、No.1を教えてください。

ぽち
No.1ですか…………え、3つ駄目ですか?

干菓子
では3つで(笑)

ぽち
一つは尾道。

干菓子
尾道、いいですね。

ぽち
もうみんな大好き尾道。もう私の絵を見たら何も言わないでも尾道好きやろコイツって感じだと思うんですけど(笑)あの斜面によくここまで街を作ったなぁっていう。惚れますね。

干菓子
坂の多い街はいいですよね。

ぽち
もう一つが鎌倉。すごい商店街とかがちゃんと生きてて、観光地なのにその地の生活がすごく感じられる、ちゃんと歴史も残ってる、空気がいい街だなと思って。なのでそこで撮った写真は今でもよく参考にしていますね。

干菓子
鎌倉行きたいんですけど行ったことないんですよー。行きたいなー。

ぽち
是非。定期的に行きたくて仕方ないです僕は。

干菓子
絶妙に行きにくいんですよね。

ぽち
干菓子さん関西ですもんね。自分も新横浜まで行ってUターンするような感じで…

干菓子
だいたい行きたい場所って得てしてそういう場所にあったりするんですよね。

ぽち
そうですよね、わかります(笑)で、3つ目は生まれ故郷の大阪かなと。大阪が「廃坑の街」の原風景。

干菓子
へぇ、モデルは大阪なんですか。

ぽち
そうですね、物理的な形はそこまでモデルではないんですが、街に対するイメージとか描きたくなるモチーフとかは大阪にいた頃の景色から連なってきているところがあって。

干菓子
大阪というよりは、「ぽちさんの大阪」っていう感じですかね。

ぽち
そうですね、記憶の中の大阪ですかね。

干菓子
開発の進んでる街なので風景はコロコロ変わっているとは思いますし…

ぽち
いやでも、あそこカオスで。自分私鉄沿線に住んでたんですけど、高架橋を電車で大阪市内に向かっていくと…大阪って過密都市じゃないですか、その過密都市の3階建ての家がダーッとひたすら広がっていて。その下に灯りが縦横無尽に走っていて。その灯りの下に人の営みがすごく感じられて。かと思えばいきなり巨大な駅ビルが立ってその中に電車が吸い込まれて行く、あの感じが多分「廃坑の街」のモチーフの元になってますね。

干菓子
ここまで実在のモチーフとか聞いてきましたけど、作品から影響受けたものってありますか?

ぽち
世界観に関してはK,Kanehiraさん…この壮大な世界観、スケールの大きさっていうのに心を射抜かれて…あとは帝国少年さん、この二人に「世界観を創る」楽しさを教えて頂いた感じですね。

干菓子
なるほど。

ぽち
あと単純に風景イラストの素晴らしさ、絵柄的な面でいうと、コーラさん、草壁さん、瀬尾さん…やっぱりコーラさんは強く影響を受けている感じはしますね。

干菓子
コーラさん夜景のイメージがめっちゃ強いですね。もう星描かせたら…

ぽち
右に出るものはいないようなイメージありますね(笑)あとは灯りでいうとキツネさん…東方の方なんですけれど。この方がカノヨっていう和風世界を描かれていて、その灯りが本当にすごくて、見たら一瞬で影響受けてるとわかると思います。

干菓子
ああ、確かにそんな感じしますね。こういうファンタジックな絵描かれてる方って、ゲームなんかからの影響も強いのかなって気がするんですけど…ぽちさんはそんなイメージじゃないですね。全然されてるイメージも無くて。

ぽち
そうなんですよ…。私ゲームはダメなんです。いわゆるこういう方々がやっているようなコンシューマーのゲームとかってほとんどやったことが無くて。基本的にシミュレーションゲームが多かったんですよね、シムシティとか。ただ、イメージ的には…FF7、あれは小学校の時にはどハマりして、世界を創る面白さなんかはあれで知ったのかなって気もしますね。ミッドガルが好きで好きで仕方がなくて。

干菓子
ミッドガル好きなのは超わかりますね(笑)

ぽち
あれで自分に構造物萌えがあることを認識したんですよ(笑)あとはICOってご存知ですか。

干菓子
大好きです(笑)

ぽち
ICOとワンダと。廃墟の中でもストーリーのこもっている廃墟がとにかく好きなので、そういう意味でもICOもワンダも堪らなかったなぁ。

干菓子
ICOもワンダも廃墟の背景ががっつりある感じですからね。

ぽち
ゲームとかやってたであろう中高生の時期でもひたすら吹奏楽やってたんで、今思えばしまったなぁ〜って思うんですけど。皆さんの話題についていけないので…(笑)

干菓子
僕はゲームなんかはリアルタッチよりはデフォルメの強いものの方がよく触っていて。

ぽち
ゲームでキャラクター描きになるのか造形絵描きになるのか、そういうところで別れますよね。

干菓子
周りの絵描きさんとか見ててもそんな感じしますね。別れると思います。

ぽち
キャラ絵描きの人たちは、「あの服どうやって作ってんだ」みたいな話をオフ会で話されていたりして、逆に風景界隈はもう完全に造形美の話で。そう考えると面白いですね。

■灯り一つ描くにしてもその下の生活を想像するだけで楽しくなるんですよね。

ぽち
基本的に風景や背景に萌えを感じる人は風景描きになるべきだと思っていて。逆に背景描くのが苦痛で堪らない人は大変なのかなって感じることはよくあって。

干菓子
僕はそのタイプですね。結構苦痛なタイプなので。

ぽち
干菓子さんは風景を描くというよりは小物をすごくセンス良く描かれて、それが女の子とかシロクマとかキャラクターと合っていて。主役脇役じゃない感じがするんですよ。

干菓子
小物は好きですね(笑)でもやっぱり背景がかけると表現の幅が広がりますし、キャラクターにも説得力が出るので。

ぽち
よく「どうやったらそんなに細かいの描けるんですか?」って聞かれるんですけど、聞かれたらもう「萌えと愛情だよ」としか(笑)いかに作業を楽しくするかが、やっぱり風景を描く上では大事かなって思います。

干菓子
好きなものしかなかなか描けないですよね。やっぱり描いてて楽しくないと筆も進まないので。

ぽち
そうなんですよね。僕は灯り一つ描くにしてもその下の生活を想像するだけで楽しくなるんですよね。窓の中を書き込む時も「ここは中学生くらいの女の子の部屋にしよう」だからここに本棚を置いてここに机を置いたらいいんじゃないか、みたいな。そうやって描きながらどんどん楽しくなっていくと苦痛じゃない。時間はかかるんだけど、その時間を楽しく楽しく次のステップへ進めていくっていうのが風景を描くコツの一つなのかなと。

干菓子
一つの窓にもストーリーがこもっているの良いですね。すごい。

ぽち
それがあれば見る方も何か感じてくれる。ただ暖かいだけの絵だったらエフェクト使えばいくらでも描けるんですけど、あえてそれ以上のものを描きたい時は何か想いを込めて描けばいいんじゃないかなと。ぶっちゃけた話、pixivやTwitterに上げるとほとんど潰れちゃうんですけど、自分はやっぱり紙媒体とかに出力されたものを目指してるので、同人誌や展示会のパネルで見たときにいつまで経っても見て飽きない絵を目指してるんです。絵ってどうしても音楽とかと違って長く見られても5秒10秒なので。

干菓子
そうなんですよね。Twitterとか最たるものですよね。絵の消化の速さがどんどん進んでいく。

ぽち
もっと見てくれよ、もっとこだわりあるんだよ〜みたいなところがあるんで(笑)それこそウォーリーを探せじゃないですけど、入り込んでしまうような絵を描けばいいじゃないっていう感じで、あえて細かい絵を描いてるっていうのが自分のスタンスですね。


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