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静かなる遠吠え

全てではないが、芸術家の大半は薬や酒に溺れ理性を失い自ら命を絶つ。

生と死、これは未だに解明されていない芸術における永遠の課題ともいえる。

この二つに共通した芸術家といえば、真っ先にチェット・ベイカーを連想させる。

最近観たチェット・ベイカーの名曲をタイトルにした作品が「マイ・フーリッシュ・ハート」である。

以前にチェット・ベイカーを演じたイーサン・ホークが演じた作品、

「ブルーに生まれついて」で紹介した事がある↑

以前、紹介した作品は若き日のチェット・ベイカーを綴る内容であった。
今回紹介する作品は晩年のチェット・ベイカーである。

ご存知の方もおられるだろう、チェット・ベイカーは58歳という若さでオランダのアムステルダムのホテルの窓から飛び降り自殺を図る。

「マイ・フーリッシュ・ハート」は晩年のチェット・ベイカーが死に至るまでの過程を、事実とは異なる異色の作風となっている。
やや判り難いが、平たくいうとフィクションである。

そもそも、なぜ自ら死を選んだのか…?!
そこに焦点を当てチェット・ベイカーとは無関係である現職警官の苦悩を交差する空想劇として仕上げている。

この作品ではチェット・ベイカーの恋人であるサラに対し精一杯の情熱を捧げるが、突如別人格となり暴力を振るう。
それでもサラは我慢を強いられ悩み続けていたが、ある時を境にサラはチェットの元を去る。

これが原因でチェットは苦悩を味わう。
元々チェット自身弱い人間だったこともあり、苦悩を和らげるため薬に頼っていた。

前回紹介した「ブルーに生まれついて」でも語られた通り、チェットは昔から薬に溺れ借金取りから追われる生活を送っていた。
晩年のチェットも例外ではなく、借金返済のために演奏を繰り返していたようなものだった。

また別の場所で、チェットの事故を担当した刑事のルーカスも同様、恋人に対し暴力を繰り返していた。
それが原因で恋人はルーカスの元を去る。
いざ冷静になったルーカスは恋人に対し帰ってきて欲しいと頼むのだが、恋人はルーカスが勤める警察署へ出向き虐待されたと訴えるのだ。

一方のチェットは全てを失ったと余計に無力となる。
そして決断した答えが身を投げることとなる。

チェットが宿泊していたホテルの部屋へルーカスは誘われるかのように中へ入る。

テーブルの上に置かれた有り金と喫煙具が散らかり、窓の近くには鈍く光るトランペットが転がっていた。
この光景を眺めていたルーカスは知るはずのないチェットの苦悩を痛いほど感じ取り、窓から下を覗くと遺体の横に立つ自身の残像と重なる。

個人的な感想を述べると、率直にこの作品は万人受けはしないだろう。
そして前回紹介した「ブルーに生まれついて」の方が判りやすく、物語としても完成度が高い内容となっている。
それでは何故、この作品を紹介したのか。
個人的にチェット・ベイカーが好きだということもあるが、晩年のチェットがどうして異国の地であるオランダで自ら死を選んだのか?
こういった有耶無耶な部分に着目した監督を担当したロルフ・ヴァン・アイク氏は3年間に及ぶチェットに関するリサーチを重ね、自身が考えるチェット像を描いた部分に共感を覚えたからだ。

何よりチェットを演じたスティーヴ・ウォールの演技力にも脱帽だ。

特に「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」を歌うシーンは、マイクを口につけながら哀愁漂い甘い声で語るように奏でる部分は見どころの一つだろう。

チェット・ベイカーに限らず、ジャズを愛する人であれば退屈しない映画でもある。
そういった方々には是非ともお勧めしたい映画でもある♪


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