#150_大本営参謀の情報戦記(続き)④

本日も書籍「大本営参謀の情報戦記」の感想その④を共有します
(p158~104)。

■1. 飛び石作戦を活用した米軍と、大艦巨砲主義・歩兵主兵主義の日本軍

日本が占領していたニューギニア島(現:パプアニューギニアとインドネシア)に、米軍が攻め入る際に取った作戦は、飛び石作戦と呼ばれるものであった

飛び石作戦とは、「庭に置いてある踏み石の上を飛んで進んでいくような戦法で、必要なところだけをカエルが跳ぶように占領していく方式」とのこと

それまでの「ローラーで一面に押してくるやり方」ではないそう

米国が「飛び石作戦」を取った理由として、以下を挙げている

・1. 陸の孤島

日本が占領していたニューギニアは、一面のジャングルに覆われた前人未到の地で、軍隊が歩行することは困難であった

ニューギニアの各都市はあたかも陸の孤島のようで、陸続きとして米軍は見ていなかったそう

結果として、ホランジャ、アイタペ、ワクデ、サルミといった都市を、「点」として占領していったそう

一方で日本の大本営は、ニューギニアを地図通り「陸地」と誤認し、ブナからポートモレスビーまでを徒歩で移動するよう、指令を出したそう

この間には、道なきジャングルや3,000m級のスタンレー山脈を越えねばならず、飢餓と疲労と寒気と疫病で、ぼろぼろになって後退を余儀なくされたとのこと

・2. 飛行場の確保

米軍は、点で占領していった都市の「飛行場」を確保することを目的としていた

それによって、米軍は「制空権」を手に入れることができたとのこと

具体的には当時、戦闘機の航行可能距離は約1,000kmであったとのことなので、占領した飛行場を中心とした半径1,000kmの同心円上が米軍の占領空域となったそう

つまり

1,000km x 1,000 km x 3.14 = 3,140,000㎢

が米軍の占領空域となったとのこと(これはサイパン等の26,000倍の広さ)

これによって、日本の輸送船一隻、軍艦一隻も航行させないようにしたそう

一方で、日本の大本営は、飛行場はあくまで米軍の艦隊(=船)が出現した時に、空母代わりに爆撃機や雷撃機を進出させるための機能として利用した、とのこと

米軍のように制空権を取るためではなかったそう

これによって、一方は空域を推進し、もう一方は玉砕を推し進め、日米戦争の勝敗を分けてしまった、とのこと

・3. フィリピン島の占領が目的で、他の島々はあくまで手段

当時日本軍が支配していた太平洋の島の数は、25島あったそうだが、米軍が上陸して占領した島は、わずか8島にすぎなったそう

つまり、残る17島はほったらかしにされたのだが、その理由は、あくまで目的はフィリピン島へ向かうことであり、その為の2つの矢として、1つはニューギニアを経由するもの、もう1つは太平洋を経由するものであったそう

ほったらかしにされた17島は放っておいても、補給のない孤島で日本軍が餓死するので、米軍としては知らん顔であったとのこと

戦後の資料によると、

・25島に配置された日本の陸海軍部隊は27万6千人で、

 ・うち8島で米軍に攻撃され玉砕したのが11万6千人、

 ・孤島に取り残されたのが16万人

  ・うち生きて帰った人数が12万人強

  ・残る4万人
  →米軍と戦うことなく、飢えと栄養失調と、熱帯病で死んでいった

とのこと

大本営作戦当事者は、こんな極限状態になることを予想すらつかぬまま、作戦を指導していた、とのこと

■2. 補給が最大の関心である米軍と、着た切り雀の日本軍

米軍は補給を最大の関心ごととしていたそう

例えば衣服(上着)について、

・兵士1名につき、

 ・フランス国内に1着の予備

 ・米国内に1着の予備

 ・常時輸送途中に1着の予備

が、
 ・現在着ている1着

の他に存在したそう

その為、200万人の兵士に対し、4倍の800万着を用意していた

加えて3カ月に一度上着を交換する規定になっており、200万人分の200万着を3カ月毎に一度新しく調達していたそう

これに対し日本軍は、一度与えられて戦地に向かった部隊は、これを修理して着用する、というのが原則となっていたそう

新品の服は第一線から要求があった時に追送することになっていたが、海上輸送を断たれてしまったため、着た切り雀にさせられていたとのこと

大本営はこのように、米軍の最大の関心が「補給」であったことを研究していなかったとのこと


■3. 弾幕による米軍の攻撃と、白兵戦による日本の攻撃

米軍は自動小銃を使い、向かってくる日本軍を右から左、左から右と銃口を振り回して掃射したそう

これは明らかに「弾幕」である

当時の自動小銃の射撃速度は、1分間で約350発であったそうで、一挺(ちょう)あたりの掃射可能幅が約30mであったとのこと

1個連隊が162挺の自動小銃を持っていたそうで、これらを30m間隔で隙間なく配備すると、逃げ場がない「弾幕」が日本軍を襲うことになったそう

また、当時の米軍の発表や外国通信によると、米軍がサイパン島に打ち込んだ艦砲射撃(船からの攻撃)は14,000トン、爆撃(飛行機からの攻撃)は6,000トンで、合計20,000トンであったそう

これを米国が上陸した正面10kmにぶち込んだため、1メートル辺り2トンの砲撃弾が撃ち込まれた計算となる

まさに、ネズミ一匹も生存させない集中攻撃であった

この鉄量もさることながら、天地を割くような轟音だけで、地獄に追いやられた気持ちであったそう

これに対し、日本軍の大本営は白兵戦を挑み、大部隊より小部隊の方が良い、という判断をし、玉砕をしてしまった

満州事変以来、二流三流の軍隊と戦って、強引にやれば抜けた経験も、米軍追撃砲のネズミ一匹も生存させない集中攻撃には、いかんともすることができなかったそう


■本日の学び

・1. 飛び石作戦で制空権を取り、目的のフィリピン以外は放っておく

→米国は目的を達成する為に、10年以上も前から現地を調査し、どのようにすれば日本軍を倒せるか戦略を立てた上で、徹底的に実践した

その上で、主目的であるフィリピンへの侵攻に関連しない島々は放っておいた

一方で日本は地形を調査するという準備を怠り、防壁を築く為の時間をかけず、米軍の戦力・戦略に対する情報収集もおろそかであった

また開戦後も米国がニューギニアのポートモレスビーを最高司令拠点としたのと異なり、大本営は東京から指示をするだけで、現地の情報収集を十分にしていなかった

堀氏曰く、大本営は敵の戦法に関する情報も知らず、密林の孤島に点化された認識もなく、増援隊はもちろん、握り飯一個も送り届けないで、一歩たりとも後退させない、という非情さを見せていた、と述べている

大本営は机上で二流三流軍に対するのと同様の期待を込めた作戦を立てており、上官の命令は天皇の命令と勅諭に示されていたから、退却は大罪とされていた、とのこと

防御する方が攻撃するより困難である、米国により通信手段が遮断された、という事実はあるにせよ、これを差し引いたとしても、あまりにも情報のギャップがありすぎる

現代においても、守りを固める為には、

・事前準備がしっかり必要で、

・それには「時間」という重要な要素を費やす必要があり、

・更に攻めてくる相手の作戦も、これまでの経緯を踏まえて研究しておき、

・いざ攻められてもどのように対処するかをシナリオを作っておき、

・都度臨機応変に対応しておく必要がある

と考える

そこには不必要な期待や、邪魔になるプライドは一旦横に置いておいて、命を守る為の行動を、しっかりすべきであると考える

そうしないと命を落としてしまい、復活することができなくなってしまう

まずは生き延び、立て直してから、次の作戦を練る、という順番であろう


・2. 補給が最大の関心毎

→補給がなくなると、飢餓が起き、戦わずして自滅する

距離が伸びると、道中にも補給の物資を置く必要があるため、それだけ補給のための資源が多くなる

これを踏まえた上で、戦線を拡大すべきであり、言い換えれば補給ができないのであれば、無理に戦線を拡大しない方が、自分の首を絞めずに済む

もし攻め手側に回るとするならば、相手の補給路を断つことで、戦わずして勝つこともできるのであろう


・3. 弾幕による米軍の攻撃

これも事前に相手の動きを研究していたからこそ、取れた作戦である

もちろん資源の有無や、実現するための人員の有無など、前提となる条件が異なるのは致し方ないとして、この作戦をとった理由が、かつての日本軍の強さを知っていたが為、これを封じるためにどうすべきかと米軍が研究した結果、この案が挙がったのであろう

もちろん、米軍としては結果としてうまくいった為に、この方法を継続したわけだが、もし日本軍が何かしら対応策を講じていたら、別の作戦を実施していたかもしれない

または、日本軍が個々の島々からは撤退して、兵力をフィリピンに集めたり、同じように制空権を奪取するための行動をしたり、それでもダメなら兵士を玉砕させる前に停戦に持ち込み、再起を図る、ということもできたかもしれない

現代においても、市場や顧客、サプライヤー、ビジネスパートナー、競争相手の研究は重要なのは言うまでもないが、うまくいかなかった時に、死なずに撤退することは重要だと感じた

この戦争において、圧倒的な鉄量を見せつけられた時点で、勇気ある撤退をすべきであったのだろうと考えるし、そうすれば道は開ける、と感じざるを得なかった

以上となります

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