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話せばわかる(わからない)

 ぜんたい、子供向けアクションアニメのクライマックスでは、強大な敵に対して「本当のあなたを取り戻して!」などという「話せばわかる」形式のやり取りがある。

 そこに至るまでに、正義のヒーロー側は散々雑魚敵キャラを切っては捨て、切っては捨て、しかも一対多で、必殺技連打で、力による現状変更をしまくっているのに、ラスボスが強大すぎるとなった途端「よーし、ちょっと待った。話し合おう」と言い出すのは都合が良すぎやしませんか、と思うのだが、それはそれでおいておいて。

 この「話せばわかる」方式は奇跡頼みのところがあって(「話せばわかる」をやってる間に、味方が究極必殺技を突然使えるようになりがち)、元々私の気に食わなかった。大人の世界で、いや子供の世界でも、「話せばわかる」なんて幻想なのに、こんなストーリーばかり見させられるのは果たしていい事なんだろうか、他の国のアクション系アニメもこんな感じなんだろうか、日本だけが、こういうお花畑的展開なのではないだろうかと思っていたのであった。

 例の侵攻で、現実世界で「話せばわかる」は力による現状変更への強い意志の前にはほとんど無力であるということが明るみになったのだけれど、これからもアクション系アニメは「話せばわかる」西側諸国方式を続けていくのだろうか。

 先日、「モービルランドのカーくん」という、車を擬人化したミニアニメが最終回? を迎えた。最終回前の数回は、普段人畜無害だったキャラが、実は誤って掘り起こされた、サビ(車には大敵!)を作る封印されし伝説のワルで、そいつが思いかけず覚醒してしまうという緊迫な展開だった。覚醒したそいつはどんどん街を飲み込んで巨大化してしまった。

 どうなるんだろう……えっ、このアニメ、人畜無害アニメだったのに突然シリアス展開? と思っていたら、普段そのキャラの保護者役を務めていた車が、そのワルがまともだった頃によく踊っていた「サビサンバ」を歌い踊り出し、それを聞いたワルは、ハッと我に返って元の赤ちゃんみたいな姿に戻ったのだった(このあたり、天岩戸の話の系譜である)。

 えっ、「伝説のワル」って設定どこ行った? そいつのアイデンティティーがワルなら、話が通じないのではないの? とか思ったんですが。

 

 現実世界で「話せばわかる」が通用しなくても、子供には「話せばわかる」世界を見せてあげたい気持ちは分からないでもない。ヨーロッパの幼児向けアニメも「話せばわかる」方式が多かったとして、これから作られるアニメは少し路線が変わってくるなんてことあるのかなあ。でも大人だって、清濁併せのんで敵と味方が細かく停戦交渉して、敵は死なないエンドよりも、スカッと勧善懲悪・(正義側の)力による現状変更エンドを好むよね。「話せばわかる」も、結局こっちの言うことを聞かせるという、勧善懲悪だし。いや、例の侵攻で相手にも一理あると言いたいわけじゃないんですが、「話せばわかる」はいいことのように見えて、実際はこっちの言い分を受け入れろということであって、話すつもりはあまりないよな、と思うのである。

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