おとまち

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虚無の夜

彼には友達がいなかった。だから、休みの日に外に出たところで、会う人もなければ行く当てもなかった。部屋にこもり、暗い女性ボーカルの音楽を流しながら、彼はただ虚無の夜が過ぎ去るのを待っていた。 その日も眠るまでそうしていようと考えていたのだが、午前0時を過ぎたころ、彼はふと近所にカラオケ屋のできたことを思い出した。特に歌いたい歌もなかったが、気まぐれにまかせて行ってみようかと思った。 彼は玄関に向かい、ドアを開けた。生ぬるい空気が彼を包む。盆をとうに過ぎていたが、一向に暑さが和ら

    • ほこりの舞う夕方に

      幼い頃の記憶。私は居間の窓際に座っている。薄緑色のカーテンの隙間から、夕暮れのオレンジ色の光が部屋に差している。ゆったりとした時間の中で、私の心も凪いだ海のように穏やかで、満たされている。 何も考えなくていい。いや、考えるということさえ意識しない。世間をまだ知らぬ私の世界は、今ここに在り、感じ取れるものが全てなのだから。 台所では、母の包丁で野菜を切る音がして、だしの良い匂いが漂っていただろうか。もうすぐ仕事から帰る父の姿を、私は書斎の窓から見るだろうか。そして、あの菓子屋の

      • みんな同じじゃん

         結局みんな1日8時間・週5日の労働をして、余った時間を趣味という名の自己満足で埋めている。自己満足だから、当然のごとくお金にはならないし、誰も見ていないし、誰からも愛されない。一人の部屋で、愛の対極にある場所から生産性のない行為を生配信する。みんなある種のVTuberであり、ある意味においてはHIKAKINである。  人間は頭でっかちになり、同じであるということに耐えられなくなった。このクソ暑い中、外に出て少し歩いてみれば、動物などどこにもいないけれども、私の中のイマジナリ