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抱きしめないキスなんて

長引くコロナ禍で、ハグもキスもままならないご時世ですが、いかがお過ごしでしょうか?
祇園祭の山鉾が立たず巡行もない静かな京都より、自家製ピクルス、京漬物とワインを楽しみながら、椿れもんが “オトナのひと時” をお送りいたします。

私がお漬物の魅力に目覚めるまで

大人になるにつれて覚えたのが、お漬物の魅力です。
子供の頃は、法事などの席で出される会席料理の何が良いのか、さっぱりわかりませんでした。焼き魚も天ぷらも、お餅の入った椀物も大嫌い。
酢の物や白和え、茶わん蒸しをつついたら、ジ・エンド。

大人たちは、やれビールだ日本酒だと、顔を真っ赤にして大きな声で騒ぎながら、いつまでもダラダラと食事をしているけれど、子供にとってはこの上なく迷惑な話です。
おかずだけが、それも一度に全部ではなく何回もに分けて順番に少しずつ出され、ご飯は最後まで出てこないのは退屈そのもの。
おかずがなくなってからお漬物でご飯を食べるというのは、苦痛でしかありませんでした。

それが、大学生になった頃からだったでしょうか。
会席料理の最後に出てくる、ご飯とお漬物と赤出汁の3点セット。
この美味しさに、私は目覚めたのです。
最後にお漬物でご飯をいただくことが、こんなにも美味しいものだとは知りませんでした。
私もこれで大人になったのだと、妙に嬉しかったことを今でもよく覚えています。

「お漬物のない会席料理なんて、印籠を出さない水戸黄門のようなもの」

年恰好だけでなく味覚も幼かった子供時代の私に、こう言って聞かせたいですね。

まぁ要するに、「締まらない」ということです。
この感覚、大人の読者の皆さんにはわかっていただけますよね?

フランス人にとってのチーズは日本人にとってのお漬物

お漬物の魅力に目覚めた私は、30代半ばにして新たな発見をすることになります。
私は10年ほど前、とあるカルチャースクールで、月1回「チーズ講座」という講座を受講していました。
講師の先生が毎回用意して下さるチーズ数種と、それに合うワインとのマリアージュを学ぶという内容で、習い事というよりは「大人のグルメな癒しタイム」。
予習・復習が必要な習い事は続かない私にとって、仕事帰りに手ぶらで参加できて、飲んで食べて、あーだこうだと感想をシェアしあうのは、最高に楽しい時間でした。

ある日の講座で、熟成された味わい深いチーズのことを、「たくあん」みたいだと先生は表現されました。そして、フランス人にとってのチーズは、日本人にとってのお漬物のようなものだともおっしゃったのです。
その話は、お漬物はご飯のお供だとしか思っていなかった私の既成概念を、根本から覆すものでした。
確かに、チーズもお漬物もどちらも発酵食品。言われてみれば納得です。

以来、私はいろいろなお漬物とワインとのマリアージュを、自分なりに少しずつ試すようになりました。
またひとつ、大人の階段を上った気がしたものです。

京の三大漬物

京都にはたくさんの有名な漬物店があり、京漬物はおみやげ物としても人気があります。
そして、数ある京漬物の中でも、「京の三大漬物」として知られているのが、

「千枚漬」「すぐき」「しば漬」

この3種。
ちなみに、「すぐき」は私が住んでいる京都の上賀茂地域の名産品です。
深みのある味わいと独特の酸味が特徴で、「すぐき」には数多くの乳酸菌が含まれています。その中でも近年特に注目されるようになったのが、「ラブレ菌」と呼ばれる乳酸菌。
免疫力のアップや整腸作用などの効果があるそうです。

京漬物パーティー

「三大漬物」以外にも、京都には季節ごとにたくさんの魅力的なお漬物があります。
そんな京漬物の数々を、オリジナルワインやお茶と共に、何と無料で楽しめる「秘密のパーティ」があることをご存じでしょうか?

京都駅から徒歩約10分。
地元京都ではもちろん、全国的にも知名度が高く、海外にもファンが増えている老舗漬物店「西利」本店の2階にある特別なスペース。
ここで楽しめる「京漬物パーティ」は、本店限定の企画で、3日前までに予約すれば誰でも利用できます。(※ 2020年3月以降、新型コロナウイルス感染拡大に伴う予防策として、当面の間は中止されています)

京都人でも知らない人が多いですが、お正月、G.W. 、お盆といった時期でも、1階の店舗の混雑とは関係なく、早めに予約さえすればゆったりと楽しめる、超穴場スポットです。
旬の京漬物の盛り合わせと、西利オリジナルの白ワイン、お茶を出された後は、心ゆくまで存分に楽しむことができます。他のグループと相席することもありません。

店員さんは最初にひと通り、盛り合わせのお漬物の説明をされますが、すぐに1階の店頭へ戻られます。参加者の傍にぴったりとついて、特定の商品をゴリ押しされるようなことは一切ありません。
無料でこんなに自由に寛がせてもらって、本当に良いのだろうかと申し訳なくなるくらい、食べ終わって1階に降りるまでの間、良い意味で構わずに放っておいてもらえます。この気楽さが最高です。

もちろん、皆さん良識ある大人なので、何も買わずに食い逃げをするような人はいないと思いますが、本当に美味しいのであれもこれもと自然に買いたくなるはず。
出されるお漬物の種類は季節ごとに変わるので、何度訪れても新しい発見があり、飽きることがありません。

京都人の私が自信を持って友人をお連れできる、とっておきのスポットのひとつです。
予約が取りにくくなると困るので、あまり人に教えたくないのが本音。
この記事を読まれた方は、どうか安易に言いふらすことだけは控えてくださいね。
本当に大切な方2~3人だけに、そっと教えてお連れする。そのくらいでお願いしたいと思います。

チーズのない食卓は、抱きしめないキスのようなもの

フランスには、

「チーズのない食卓は、抱きしめないキスのようなもの」

という諺があるそうです。
フランス人にとってのチーズが、日本人にとってのお漬物と同じであるならば、お漬物のない食卓がいかに味気ないものか、想像しただけでぞっとします。

「京都に美味しいお漬物があって良かった」

今、私は心からそう思っています。

他県からの京都観光もしづらい状況が続きますが、こんな時だからこそ美味しい京漬物をお取り寄せして、自宅でお気に入りのワインと共に、お漬物パーティーを楽しんでみてはいかがでしょうか?

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