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私がnoteをはじめた理由

「何者かになりたい」という漠然とした願望を、自分の内に明確に認識したきっかけは、広告代理店に入社したことだった。

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昨年4月に総合広告代理店に入社した。
詳細な志望動機は省くとして、幼少期から何か楽しいできごとに出会う度、それを消費する側の人間ではなく作り出したり仕掛けたりする側の人間になりたいと思っていたことが所謂マスコミ業を志した表向きの理由なんだと思う。

だが、私は面接では語らなかったもう一つの理由の方をより渇望していた。

変な私を受け入れてくれる場所が欲しい。

物心のついた頃から、「変わった子」だと言われることが多かった。
思春期には「普通になりたい。普通になりたい。」と呪文のように唱え、必死で周囲に合わそうとしていたが、高校生あたりから所謂「変人」の魅力に気づきはじめた。
そして、大学に入る頃には大衆化を極端に怖れ、周囲が右に走れば全力で左に走るようなひねくれ者になっていた。
そんな中、就職先を考えるにあたって、独創的で鋭い視点を求められる広告代理店は私のような「変人」の価値を評価してくれる場所だという期待が膨らんだのである。

そして、念願の広告代理店に入社して気がついた。

私はド凡人だった。

一度足を踏み入れると、そこは魔境だった。

・セミを食う女
・元ネカマ
・旧帝院卒の酒乱モデル
・ロン毛にパーマをあてて「陰毛」とのたまう男
・西成のあいりん地区を庭の如く闊歩する女
・個展を開いた奴
・雑誌「ブレーン」に名前が載っている奴
・アイデアコンペの華々しい受賞歴を持つ人たち

同期入社のはずの彼らの多くが、既に何者かになった本物の変人だった。

凄まじくキャラの濃い同期の中で完全に埋没した私はすっかり萎縮してしまい、配属されてからも先輩社員からキャラが立っていないと言われ、30も年上の大先輩からは「この会社は変な人が多いし、普通ってすごく魅力的だよ」と言われてしまった。

こんなはずではなかった。

私の変な部分を魅力に思ってくれる人と巡り合いたかった。変人であるがゆえの独創性で世の中に面白いものを仕掛けられると信じていた。
だが、誰も私の変人性に気づかない。
気付かないのか、ただ魅力的でないのかはわからないが、私の変人性は社内ではなかったことになっているらしかった。

セミを食えば何者かになれるのか?
だったら迷わずセミを食う。
でも、今更セミを食べたところで二番煎じだ…じゃあ何を食べれば面白い?

23にもなって「変人としてのアイデンティティの喪失」に悩みはじめた私は、この集団の中で自分に発揮できる個性とはなんだろうと1年弱本気で頭を抱えてきた。

そもそも広告代理店で活躍する人材は大きく以下の4タイプに分けられると考えている。
(実際は複数タイプの掛け合わせがほとんど)

①自ら大衆の代表として流行に飛びつき、周囲をそれらに巻き込んでいくミーハータイプ

②大衆心理を知るために話題のコンテンツを一通り押さえるものの、より俯瞰的視点から経済や社会の動きを観察し、自らも動かす側として参画する支配者タイプ

③ある分野に特化し、アーリーアダプターとして最先端の情報を取りに行き、周囲に共有する専門家タイプ

④高い志を持ち自らの能力を信じて斬新なアイデアを次々生み出すアーティストタイプ

当たり前のことだが、「流行」「話題」「最先端」という時代のムーブメントのボリュームゾーン以前に己を置くことが求められる業種で、
樽の中のディオゲネスよろしく流行といった外的刺激を遮断した状態で思考に耽る大学生活を過ごしていた私の個性など魅力的に映るはずもなかった。

でも、もしかしたら、代理店の人が面白いと感じていないだけで、
私が真面目に文系大学生をやって培った思考体系って私の面白味の根源的な部分なんじゃないか?
ここがぐらつくと自分もぐらつくんじゃないか…ということに気がついた。

というか、経済的・社会的に意味のある活動が評価される社会人(よりによってそれを活性化する仕掛け人である広告屋)になってなお、大学生の延長的思索を続けるというのはかなり変わっていて面白いかもしれない。
自分がずっと大切にしてきた変さとはここにあるのではないか?
そんなことを思いついた。

個性とは無駄の中にある。 

そう思って、自分の思考と言語化の訓練のために、もともと好きだった美術や本・演劇・映画のレビューを始めた。
代理店に勤めるようになり、流行に乗ることも重要だと考えを改めたので、話題の作品を優先して取り扱うこともマイルールにした。

私の個性は代理店の中では全く見出されていない。でも、外の世界なら…その可能性を試してみたい。
そんな気持ちでnoteを発信している。

その延長で何者かになれることを夢見ながら。

***

今は本・映画・演劇・展覧会のレビューばかり書いているけれど、
もっと日常的なエッセイとかも書いていいのかもな。と思ったり、
旅行記とか振り返るのもいいかもな。と思ったり、
代理店あるあるみたいなのも面白いのかな。と思ったり。

noteのスタイルはまだまだ模索が要りそうだけれど、ここで自分のスタンスのようなものが見つかればいいな。

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