働き方改革

古典で学ぶ働き方改革②(荀子が語る問題解決の基礎)

弊社は間もなく創業60年を迎えますが、事業がないが年続くと何かと固まってしまっている部分があります。そんな環境で働き方改革に取組む場合、その様な様々な思い込みが改革の壁になる場合が多くあります。特に厄介なのは、「今のやり方では問題ないから今のやり方を変える必要はない」といった変化への抵抗感や、「そんなこと出来るわけがない」といった諦めによって、その先を考えることを放棄してしまう思考停止状態です。なぜ厄介かというと、上記のような考え方をしている人達にとって差し迫った問題は起きていない場合が多いことです。しかし、実際には周辺の事態が変わっていて、いよいよ雲行きが怪しく成ってから気が付いた時は、手遅れになっています。

自社の生産性を高めてこれから訪れる空前つ後の人手不足の中でこれからも事業継続できる組織にしていくためには、思い切った働き方改革が必要になるわけですが、そんな時に自分自身が上記の様な思考停止に陥っていたらどうでしょう。自社の問題の本質が見えず的外れな施策に取組んだり、重要な問題を見落としたりして、意味のある改革はできないでしょう。

この記事では、そういった状況にならたいために、現状を的確に把握し判断するための格言をまとめたいと思います。

荀子の思想は現実主義

孟子の思想を紹介した記事で荀子(紀元前313?~紀元前238年以降)についても軽く触れました。性善説を主張した孟子と対照的に性悪説を唱えて荀子は、物事のリスクも含めて捉える現実主義だと思います。

人の性は悪、その善なるは偽なり。

「その善なるは偽なり」とは強烈ですね。しかし、ここでいう”悪”とは弱さであり、”偽”とは人為(教育)ということです。

「人は元々弱い生き物だから、人が善であるのは教育の結果である。」というのが性悪説が説いている本質です。荀子は孔子や孟子が説いている天命を批判しています。人が正しくあろうとすれば天に任せるのではなくちゃんと教育すべし、というのが性悪説です。

さて、私たちも仕事の中ですべきこと、すべきでないことを的確に見極めるためには、自分自身に教育を施し見識を高めていかなければなりません。変化のスピードがはない時代はなおさら、常に自分自身をアップデートする努力が必要です。それを怠ってしまうと”悪”に陥る、つまり、現状維持から抜け出せない思考停止状態に陥ってしまいます。

まずは、荀子の格言の中でも、そういった思考停止に陥らず問題解決に取組むための格言から紹介します。

新を信ずるは信なり、疑を疑うも信なり。

信じるに足ることをを信じることは真実に近づきます。疑わしいことを疑うことも真実に近づきます。言い換えるとすれば、「常識を疑え」ということでしょうか。

自身の考えが枠に囚われていることは中々気が付きにくいので、「疑え」といわれてもなぁって思われるかもしれません。ただ、固定観念にとらわれているサインはあります。下図の左側の様なことを口にしているときは、右側の問いかけを何度か行ってみましょう。


およそ人の患(うれ)いは、一曲に蔽(おお)われて大理に闇(くら)きにあり。

一般的に人の弱いところは、物事の一面だけを見て、全体を把握できないところにある。組織においても部分最適ばかりが進むということはよくある話です。問題の本質を理解するには全体を把握する目線が重要になります。

全体感を見るというのは下図のように抽象度を上のレベルにあげながら見ていくことです。

抽象度を上げていくには、上のレベルの役割や期待している成果を明確に定義づけしておかなければなりません。そして、下のレベルを1つに括って考えるためには、下のレベル同士の横の関係でのコンフリクトを上のレベルの役割や期待成果と照らし合わせて解消しなければなりません。

全体最適とは、高いレベルから役割・期待成果をブレイクダウンして下のレベルに当てはめるとともに、横のレベルのコンフリクトを目標・期待成果に合わせて調整するということです。


前車すでに覆る、後いまだ更(あらた)むるを知らず、何ぞ覚(さと)ときあらん。

前を走る車がひっくり返っているのに、後ろに続く人間は性懲りもなく同じ失敗を繰り返してきた、学習効果があがってない。

働き方改革に限らず新しいことに取組むときには、分野で成功している事例をまずは真似てみるというのが早道です。所謂「ベストプラクティス」ですね。全てにおいてベストプラクティスが存在するわけではないのですが、ベストプラクティスがあるにも関わらず我流でやってみて失敗するというのは学習が足りないと言わざるを得ません。新しいことに取組むときは、まずは、幅広く成功事例を集めてから、よい事例があれば真似をすることから入りましょう。世阿弥の「守破離(しゅはり)」という言葉がありますが、まずは徹底的に真似をしてみてから、それがしっかり身についた後にオリジナルを作っていきましょう。

そして、次の格言はベストプラクティスを導入するときに気に留めておくべき格言です。


その利を見てその害を顧みざることなかれ。

有利な面だけを見て、不利な面から目を背けてはならない。例えば、最先端の成功事例を見て、何位も考えずに真似してみたらかえって状況が悪くなるというのはよくある話です。例えば、Googleやfacebookがどのようにして成果を上げる組織をつくっているのか話を聞いて「我社もOKR(Objectives and Key Results)を導入しよう!」なんて考えてみて導入しても、OKRが向いていない会社の場合はパフォーマンスがむしろ下がることも考えられます。


勝に急にして敗を忘るなかれ。

勝とうとするあまり、破れるときもあることを忘れてはならない。新しいことに取組むときは、「その害」を全て把握できるとは限りません。「よくわからないからチャレンジしません」と言っていては何事もできないので、「まずはやってみる」という姿勢は大切です。そんなときは、上記の格言は心に留めておいて下さい。やってみて失敗だった場合、撤退の決断も早い方が傷口も小さくてすみます。厄介なのはうまくいかないとわかってきたにも関わらず問題を直視できず傷口を広げる人達です。その典型的な例が戦時中の大本営だと思います。彼らは敗北に目を背けて敗北に目を向けず戦争を長引かせて国を荒廃させてしまいました。「その害を顧みざること」が国さえも滅ぼすことがあることを知っておいて欲しいと思います。

この様なケースの場合、恐らくうまくいかないことに気が付いている人が少なからずいるものです。しかし、集団になるとだれもが問題を口にしない、実は皆が本当のことを口にすることを待っているなんて状態になっていることが多いと思います。そして、ことが終わった後に責任のなすりつけ合いになったりもします。「勝に急にして敗を忘るなかれ。」を実践できる組織にするためには、会社の心理的安全性を高めていかなければなりません。


まとめ

荀子の格言は、現実に即した問題解決を行うために心得てなければならないことが多く含まれています。孟子は理想を説いていきましたが、現実を捉える言う観点では少し弱い部分もあり戦国時代という背景もあり、当時の偉い人からは現実にそぐわないとの評価を受けていたようです。荀子の性悪説とは、孟子のそういった部分を補っている考えの様に思います。学習し、情報を集め、それをしっかり吟味することで正しい施策を実行することができる、そのための心得が荀子には詰まっているように思います。






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