見出し画像

【2月第1週】DAOレポート Vol.4

DAO(自律分散型組織)で働いて生計を立てる世界はすでに現実となっている。しかも世界的に有名なDAOの場合、かなりの年収を稼げるようだ。

トークンエコノミーの調査によると、MakerDAOとLido、SushiSweapの平均年収(フルタイム当量)はそれぞれ20万5000ドル(約2600万円)、13万2000ドル(約1700万円)、25万6000ドル(約3300万円)。フルタイム当量で働く人の数は、それぞれ104.41人、83人、18.5人だった。

(参照:Tokenterminal「Maker DAO、Lido、SushiSwapのフルタイム従業員数(紫が非テック系、緑がテック系)」)

DAO運営においてボランティア頼みの構造に問題があるという指摘がなされる。立ち上げ初期は情熱のみで自ら進んでDAOの仕事を遂行できるが、同じ熱量を保ち続けるのは難しい。このため、しっかりとした報酬制度の立ち上げとともにDAOのビジネス化を進めることが求められている。実際、上記を含む世界的に著名なDAOであっても、投票率は5%〜10%だ。

DAOは、国籍や学歴、職歴、年齢、性別などに関係なく働けるバーチャル空間だ。原則、ウォレットアドレスのみで活動することが可能で、偽名を使う人も多い。副業としてDAOで働いている人も少なくないだろう。

DeeoDAIによると、執筆時点でMaker DAO、Lido、SushiSwapのトレジャーリーには、それぞれ5130万ドル、3億3720万ドル、3240万ドル相当のトークンが入っている。「冬の時代」によるコスト削減の流れもあるが、今後、DAOが巨額トレジャリー資金をDAO参加のインセンティブ作りにどのように使うのか注目だ。

注目のプロポーザル 

 「Cosmos Hubへ助成金プログラムの追加」 - A Grant Program for the Cosmos Hub: Funding the ATOM Accelerator DAO
提案 https://forum.cosmos.network/t/funding-the-cosmos-hub-grant-program/8965
投票 https://www.mintscan.io/cosmos/proposals/95(2月10日投票終了)要点

  • ATOM Accelerator DAO Grant Programと呼ばれる助成金プログラムの設立で588,000 ATOM(11億2000万円相当)の資金提供を求める提案、賛成多数で可決された。

  • 助成金プログラムは、異なるブロックチェーンの仲介を担うブロックチェーンであるCosmos Hubのコア技術、プロダクトの改善を目的とした小・中規模のプロジェクトへの資金提供、ATOMトークンの長期的なサステナビリティ(持続可能性)の確保を設立の目的としている。

  • プロジェクトマネージャーやテクニカルリードなど、7名で構成されるReviewer Committee(審査委員会)が、助成金の割り当て管理を担う。

② 「Illuvium DAO、今後のDAO運営資金を確保する提案」- ICCP-3 Defining Vault Revenue & Distributions for Future DAO Product Directions
提案/投票 https://gov.illuvium.io/#/proposal/0x245e440c3b517a0b7a7ff11c2c038cfd96c503ab9cbf3e593bd8d7c73cd07fae(2月2日投票終了)
要点

  • Play to Earn(遊んで稼ぐ)ブロックチェーンゲームを提供するIlluvium DAOは、売上の100%のETH(物販やアフィリエイトなど、売上と連動するコストを差し引く)をDAOのVault(基金)に送る提案を行い、賛成多数で可決された。

  • DAOの長期にわたる持続的な運営、プロダクトの品質維持およびガバナンストークンILVをステーキングする人々の期待値を高めることが目的。

③ 「Nouns DAO、追加で5000ETHをLidoにステーキングする提案」- Stake additional 5000 ETH in Lido
提案https://boardroom.io/nounsdao/proposal/cHJvcG9zYWw6bm91bnNkYW86b25jaGFpbjoyMTc=
投票 https://nouns.wtf/vote/227(2月2日投票終了)

要点

  • Nouns DAOは、イーサリアムの分散型ステーキングプロバイダーLidoに対して、追加で5000ETH(10億500万円相当)を投じる提案をし、投票で可決された。

  • Nouns DAOは、NFTを毎日自動で生成するNFTプロジェクトの運営を担っている。

  • 現在4500ETH(9億4500万円相当)をLidoでステーキングしている。

④ 「OLYMPUS DAO、2023年のDAOの予算と報酬について」- OLYMPUS OIP 128: Budget and Compensation for the DAO in 2023
提案 
https://forum.olympusdao.finance/d/1985-oip-128-budget-and-compensation-for-the-dao-in-2023
投票 https://snapshot.org/#/olympusdao.eth/proposal/0x7e787218d495849b505d575088c7cf1c7c8de44b79fb81205dcf9f804b781c3a(2月2日投票終了)要点

  • ステーブルコインOHMを発行するOlympus DAOは、DAO貢献者に割り当てる予算の修正案と新たなボーナス付与の仕組みを提案し、投票の結果可決された。

  • 以前の予算目標は市場環境に左右されることが多く、ほとんどのケースで達成できなかった。このためDAO貢献者がやる気を無くしてしまう懸念があった。

  • 例えば、新しいボーナス設定として、DAO貢献者がタスクの締切を過ぎてしまっても1ヵ月以内であれば全額報酬を獲得できるようにし、それ以降は以下の図のように徐々に報酬が減額していく仕組みを提案した。


⑤ 「Decentraland DAOのデリゲートプロセス改善に関する提案」- Should the DAO implement a mechanism to delegate VP to multiple wallets?
提案 https://forum.decentraland.org/t/dao-66fb7ac-should-the-dao-implement-a-mechanism-to-delegate-vp-to-multiple-wallets/17863
投票https://snapshot.org/#/snapshot.dcl.eth/proposal/0xbddb5c2fcd913d4129a16013a9658d9546799cb005e9741bbdf0a858666fb7ac(2月9日投票終了)要点

  • イーサリアムブロックチェーン上で3Dのバーチャル空間を提供するDecentralandのDAOは、複数のウォレットアドレスにVP(Voting Power : 投票権)を委任できるようにする仕組みを提案し、賛成多数で可決された。

  • 一般的に投票権を委任される人や組織はデリゲートと呼ばれ、トークン保有者に代わって投票できるが、現在、一つのウォレットアドレスにつき一人のデリゲートしか選べない。仮に一つのウォレットに1000 VP(投票権)を持つ場合でも、500VPをデリゲートAに、残りの500VPをデリゲートBに振り分けるなどすることができない。

  • これまで複数のデリゲートに投票権を委任する場合、トークン保有者が複数のウォレットを作成しそれぞれからデリゲートを実行していたため、ガス代が高いことが問題視されていた。

⑥ 「Uniswap v3、イーサリアムとBNBチェーンをつなぐブリッジの選択」- Which bridge should Uniswap v3 use for cross-chain governance messaging between Ethereum and BNB Chain?
提案/投票 https://snapshot.org/#/uniswap/proposal/0x6b8df360fdf73085b21fdf5eef9f85916fbde95621a3d454cb20fbe545ffc852(1月31日投票終了)
要点

  • 暗号資産のスワップ(交換)サービスを提供する分散型取引所のUniswapは、BNBチェーン(バイナンスチェーン)のサポートに向けて、イーサリアムチェーンとBNBチェーンをつなぐブリッジをどれにするか投票し、Wormholeが最も多くの票を獲得した。

  • すでに、ブリッジとして候補に上がっていたCelerとdeBridgeに加え、今回、新たにWormholeとLayer Zeroの2つの候補が加わり、投票が行われた。

  • 今回の投票は、拘束力を持たない「温度感チェック(Temperature Check)」であり、今後、拘束力を持つガバナンス投票が行われることになる。

話題のTweet



“「カッコ悪いことが何か知ってるか?」「分散型と言いながら本当は中央集権型なこと」”@BanklessHQ

“力の分散化は、責任の分散化を意味する” @owocki

“未来のDAO - コードとスマートコントラクト > 言葉とコードによる動作” @eaglelex_eth

オススメの読み物  トップ5

①「Web3はプロトコルでなくアプリを規制せよ」”Regulate Web3 Apps, Not Protocols” by a16zcrypto
DeFiやDEXなどの規制対象はプロトコルではなく、アプリであるべきだ。インターネットの規制は、HTTPやSMTP、FTPといったプロトコルが対象ではなく、ユーザーが使うブラウザーやウェブサイトなどアプリが対象だった。Web3規制も同じ方針であるべきだ。ブロックチェーンやスマートコントラクトなどプロトコルレベルで規制をするべきではなく、トレードや流動性提供で使うウォレットなどアプリレベルで規制するべきだ。a16zが執筆するシリーズ「Web3はプロトコルでなくアプリを規制せよ」の第一弾。


② 「Web3はプロトコルでなくアプリを規制せよ 第二弾 Web3アプリを規制するための枠組み」”Regulate Web3 Apps, Not ProtocolsPart II: Framework for Regulating Web3 Apps” by a16zcrypto
Web3の規制に関する議論は両極端になりがちだ。伝統的な金融規制をそのまま導入するべきか、それとも別物だから規制を一切するべきではないか。答えは、その中間にありそうだ。前回訴えたように、Web3の規制対象はプロトコルではなく、アプリに対して実行されるべきだ。アプリを規制する上で重要なのは、規制の目的を明確化することだ。投資家保護なのかイノベーションや資産形成の促進なのか、はっきりとさせなければならない。次にアプリが営利か非営利か、アプリの目的が違法ではないか、そして規制が憲法違反でないかどうか、精査する必要がある。a16zが執筆するシリーズ「Web3はプロトコルでなくアプリを規制せよ」の第二弾。

③「Web3はプロトコルでなくアプリを規制せよ 第三弾 Web3 DAOのジレンマ “Regulate Web3 Apps, Not Protocols Part III: The Web3 DAO Dilemma” by a16zcrypto
Web3プロトコルを管理するDAOに対する規制は望ましくない。しかし、コンプラ違反をするアプリの利用をDAOが促さないようにしなければならず、その点において規制は必要だ。この状況を「Web3 DAOジレンマ」と呼ぶ。プロトコルのデザインを工夫することでWeb3 DAOのジレンマは突破できる。例えば、DAOは、アプリから手数料等の収益を受け取るが、規制当局からコンプラ違反を指摘されたアプリがあればそのアプリからの収益は別の場所に保管するといった仕組みだ。また、CFTCに指摘されるOoki DAOのケースのように、そもそもDAO事態が中央集権的な組織の隠れ蓑となり違法商品を扱うことがないように、ガバナンスデザインも意識しなければならない。a16zが執筆するシリーズ「Web3はプロトコルでなくアプリを規制せよ」の第三弾。

④「DAOを運営するにはどのくらいお金がかかるのか?」”How much does it really cost to run a DAO?”by tokenterminal
DAOの収入はスマートコントラクトを見れば分かるが、支出は銀行支払いなどオフチェーンでの活動が多いため、DAOの収支を計算することは難しかった。しかし、MakerDAOとLido、SushiSwapは支出をフォーラム等で公にしているため、収入と支出の両方を調べることができる。調査の結果、MakerDAOとLido、SushiSwapの平均給料(フルタイム当量)はそれぞれ年間20万5000ドル(2600万円)、13万2000ドル(1700万円)、25万6000ドル(3300万円)だった。DAOの運営コストは実に高い。tokenterminalが執筆。
⑤ 「プルーフ・オブ・ヒューマニティ(PoH)DAOの民族誌学的な研究」Ethnographic Research of Proof of Humanity DAO
2021年に立ち上がったプルーフ・オブ・ヒューマニティ(PoH)は、イーサリアムブロックチェーンを使って、参加するすべてのメンバーに対してユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)トークンを与えるプロジェクトだ。しかし、PoHのDAOは2022年、ガバナンスの危機を迎えてフォークする決定をした。一体何がPoH DAOの失敗につながってしまったのだろうか?調査の結果、初期にPoHの目的について明確化できていなかった点、メンバーの多様な興味関心を集約できなかった点、衝突ではなく妥協点を探ろうとする文化を醸成できなかった点、DAOメンバーの権利を明確に規定できなかった点、三権分立のようなパワーバランスの欠如、そして多数派の暴力を抑制できなかった点があげられる。


Weekly DAO Reportのダウンロードはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?