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花瓶を買った

昔、たまたま立ち寄った写真展でみかけた一枚の写真が今でも忘れられない。

テーブルの上に置かれた花瓶、そこに挿された一輪の花。

それだけが、煙のような薄い色で、まるで輪郭をなぞった鉛筆画のように、バライタ紙に焼き付けられた写真だ。

軽く撫でただけで消えてしまいそうな儚い一輪挿しのその写真をずっと眺めていた。

作者もタイトルも覚えていない。何の花かもわからない。

ただ、とても美しいと思った。


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旅をしながら写真を撮るという作柄、室内で写真を撮るということはしたことがなかったのだが、今のご時世色々と気を遣うことも多く、ろくに旅にも行けず、近場を散策したり、季節の植物を撮っては焼く、なんてことをすることが多くなった。

思えば、目の前の被写体にむかってああでもないこうでもないと考えながら向き合うということは、大判カメラを使うようになってからやりはじめたことで、それまでは撮り流すことが多かった。

大判を使うようになってから、撮りたいイメージと、そうならない結果との間で頭を悩ませたり、調べて勉強したりという試行錯誤が増えた。

できないこと、わからないことに向き合って探究するのは昔から好きな作業だ。


雨続きで散策に出るのもままならなくなっていよいよ被写体に困ったとき、なにを撮ろうかと考えて、一輪挿しの写真を思い出した。

幸い、うちの近所にはちいさな花屋が一軒ある。

数十、数百円で一本花を買ってきて、それに向き合って一日を過ごすのも悪くないかもしれないと思った。

仕事の帰り道に寄った雑貨屋でちいさい花瓶を買った。


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