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レンズの比較テスト

手元に50mmクラスのレンズが複数あるため、どれほど描写の違いがあるのかを比較したくなったので、テストをすることにしました。


比較するレンズ

今回使用するレンズは以下の7本。

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hexanon 50mm f1.7(konica AR)

hexanon 52mm f1.8(konica AR)

oreston 50mm f1.8(exakta)

sekor 55mm f1.8(M42)

super takumar 55mm f1.8(M42)

tessar 50mm f2.8(M42)

industar 50mm f3.5(M42)


テスト条件

テストにあたり、なるべく統一された条件で比較したいので、今回は以下のような条件で撮影し、比較することにしました。

フィルムはfomapan400、atomal49で現像する

解放、f5.6、f11の3つの絞りの状態で撮影したものを比較する

露出はスポットメーターで測った値をカメラにセットする

ピントは無限遠に設定する

三脚にカメラを固定した状態で撮影をする

プリントは3号フィルターで焼き、スキャナで取り込んだデータを比較する


なお、今回は3種類のマウントのレンズを使用していますが、カメラは同じものを使った方がいいと思ったので、konica FS-1と純正マウントアダプタを使用して、konica AR、exakta、M42の3種類のマウントに対応させています。

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カメラが古いため中間値を設定できないため、解放での撮影はf1.7やf1.8は近似値f2として露出を設定しています。同様にf3.5はf4として露出を決定しています。

撮影および現像後、全てのコマを手焼きでプリントしたものをスキャンして、今回の比較用として掲載します。

全てのコマはほぼ同じEV値であるはずなので、プリントの際はすべて同じ露光条件で焼けるはずですが、実際は微妙なばらつきがあり、完全に統一できないため濃淡に差が生じています。一部、露光秒数を変えて焼いたものも存在します。


解放値での比較

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解放ではf値の違いがあるため、ピントの深さにばらつきがあり、単純比較ができません。

同じf値であるf1.8のhexanon、oreston、sekor、super takumarを比較した場合ではhexanonが一番ピントが浅く見え、反対にsuper takumarは同じf1.8とは思えない程ピントが深く全面に合っているように見えます。同じf値のレンズで比較しただけでもこれほど差が出るのは面白いなと思います。

個々の描写について、細かく見ていきましょう。

解放値では描写が甘いため、ピントの深さなのか描写の甘さなのか一概に言い切れない部分がありますが、hexanonは50mmf1.7も52mmf1.8もピントが浅く流れるような描写が見られるため描写の甘さも出ているように思います。

その点、orestonは画面周辺での流れこそ見られるものの、中心部分での細かなディティールの描写は優れており、今回の7種類のレンズの中では1,2位を争う描写力の高さを見せています。

sekorは周辺部分に流れを感じるものの、中心部分はhexanonよりはしっかりとした像の描写をしています。super takumarは更に周辺の流れも抑えられていますが、sekor、super takumar両者の間で中心部分での描写力の差はさほど感じられません。

tessarは解放値f2.8だけあって、他のレンズに比べると既に画像に解像感があるのを感じます。わずかに周辺部分に流れを感じますが、中心付近では細部まで描写されており、orestonと争う描写力ではないでしょうか。orestonは線の細さと柔らかさから来る繊細さを感じますが、tessarはシャープさやキレを感じる描写だと思います。少し硬いと感じるかもしれません。

industarはtessarのコピーレンズとのことでtessarに迫るのか期待をしていましたが、解放では思ったほど解像力がないと感じました。f3.5であるにも関わらず周辺部分では流れもある上、中心部での描写も甘さがあります。解放ではそこまで描写力の高いレンズではないのかもしれません。この時点でtessarとの違いが見えて興味深く感じています。そして、このレンズだけ随分とコントラストが低いです。ネガの濃度も違ってプリントの際に難儀しました。


f5.6での比較

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f5.6まで絞るとさすがにどのレンズも解放と違い、かなり描写するようになります。35mm用レンズはf5.6~f8あたりが一番高い描写力を発揮すると言われているので、個々の特質を比較するならこのあたりではないかと思います。

hexanonは50mmf1.7と52mmf1.8では、プリントの濃度の差があるため一概には言い切れませんが、やや52mmf1.8の方が描写が甘いかな、と感じます。そこまでの差はないと思いますが。同じf値で撮影して同じ露光条件でプリントしているので理論上は同じ濃度になるはずなのですが、レンズの個体差や作業のばらつきで多少差異はでるとは言え、結構濃度に違いがあるので、おそらく50mmf1.7と52mmf1.8でのf5.6は取り込む光量に違いがあるのだと思います。これはほかのレンズとの比較でも言えることです。hexanonは滅茶苦茶解像力が高いとは言いませんが、きちんとそつなく描写する、という印象があります。巷でも概ねそういった評判なようですし、実際に自分で比較してみてもその様に感じました。

orestonは、解放の時の描写力のままぶっちぎるかと思いきや、そんなに驚くほど解像力を感じない仕上がりになっています。今回のテストでは無限遠にピントを設定して撮影していますが、もしかすると微妙にオーバーインフなどになっているのかもしれません。普段使用した時も、これといって個性的な描写をするレンズとは思わなかったので、想定内と言えば想定内ではあります。

sekorは、このあたりから不思議な挙動を始めます。なんだか濃度がおかしい。このレンズはほかのレンズに比べてf値の指標通りよりもよく光を取り込むのかもしれないと推測しています。この傾向はf11で更に顕著に現れます。描写はこれまたそつなく、中判のsekorレンズ同様に癖がないものだと思います。但しさすがに中判のsekorほどの解像力はないようで、hexanonあたりとあまり差は感じられません。hexanonが1970年代、sekorが1960年代後半から1970年代あたりのようなので、このあたりの時代のレンズはこんなものかなと思っています。

super takumarは、f5.6で比較したときに他に比べて全体的にしっかり描写しているように感じました。但し、個人的には少し主張が強いというか、輪郭全てをゴリゴリに描写するのでややうるさいように感じます。これは僕のこれまでの主観が含まれているせいかもしれませんが、どうしてもsuper takumarに関してはこの主張の強さ、線の太さが否めません。ハイライトが明るめに出る関係もあるのでしょうか。「あぁ、super takumarの画だな」と感じる独特の個性を感じます。このあたりから後の画像に露光のムラの映り込みがあります。

tessarは、解像力ではsuper takumarとさほど差は感じられません。但しこちらの方が主張はおとなしいように思います。シャープさはわずかにこちらの方があるのではないかと感じます。

industarは、明らかにコントラストが低いです。3号フィルターで焼いているのにこれだけ軟調になっています。そして、まだ周辺の流れを感じます。これはソ連製レンズの個体差なのでしょうか。普段のスナップ使いでは気になったことがありませんでしたが、こうして比較してみると顕著に現れます。他と比べて明らかに傾向が違いますが、描写するところはきちんと描写されているので、もともとのポテンシャルは良い方なのだと思いたいです。


f11での比較

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f11になると、思っていたよりも各レンズが独自の露光状態を見せてきて、同じ条件で焼いているのに濃度がバラバラで比較にならない事態になりました。一部は露光時間を変えてなるべく濃度を近づける努力をしたつもりですが、その努力もあまり意味のない結果となっています。

hexanonは50mmf1.7と52mmf1.8で明らかな濃度の違いがでてきました。濃度の違いにより見た目のコントラストが違うので別物なように感じますが、描写能力としては差を感じません。というか、レンズ全般に言えますがここまで絞ればたいした差は出ないと思います。

orestonはhexanon52mmf1.8とほぼ同じ濃度になりました。このあたりが標準だと思いたい。描写能力に関してはこれも特筆して差に感じるものはないと思います。但し、コントラストに関してはorestonの方が軟調のように思います。あと、やや白や明るい部分がふわっとした感じになるように思います。古いレンズ故の劣化によるものかもしれませんが。やわらかさというか、やさしいテイストに仕上がると感じました。

sekorは、過去にスナップで使ったときも薄々感じてはいましたが、やはりコントラストが低く出る傾向にあると思います。今回のプリントでは濃度が薄いとはいえ、同じくらいの濃度に近づけてもコントラストは持ち上がらないと思います。

super takumarはガッチガチに描写されるようになりました。枝葉の細部まで輪郭が強調されて、主張が激しいです。今回のテストの中では一番主張の強いレンズだと思います。かなりの数が中古で出回っていて入手が容易なので、この個性も含めて楽しめるなら面白いレンズだと思います。岩肌や寺社仏閣の彫刻などをこれで撮るといい感じになるのでは。

tessarは、hexanon52mmf1.8やorestonと濃度はさほど違いはないと思うのですが、その割に硬調に描写されるレンズだと思います。とは言え、super takumarほど主張は激しくなく、硬調なりにバランスのいい描写に収まっていると思います。3号で焼いていることを思えば、このあたりが標準的なコントラストで、hexanon52mmf1.8やorestonあたりはむしろ軟調の部類なのかもしれません。f11まで絞ってわざわざシャープというほど特筆してシャープさが目立つわけでもないですが、気持ちそういう傾向に見えないこともないです。完全にtessarに対する贔屓が入っていると思います。

industarは最後までコントラストが低いままどうにもなりませんでした。そして、どう見ても周辺の流れが収まってない気がするので、もしかしたら個体差で残念な方に向いているのかもしれません。tessar型、tessarのコピーともてはやされているレンズだったので今回のテストの中では一番期待していたのですが、思ったより振るわなかったというのが正直な感想です。


まとめ

今回のテストでは、無限遠にピントを設定すればどのレンズもちゃんと無限遠に合うという前提のもとでテストを行ったので、微妙なオーバーインフなどによるズレで公正な比較にならなかった可能性もあり得ます。

プリントの濃度が違う時点で単純比較ができないのでアレなのですが、理論上はすべて同じ露光条件でプリントすれば同じ濃度になるつもりでテストをしたので、これだけ差が出たという事はレンズによって同じf値でも入る光の量にばらつきがあるという事だと思います。実際、全く同じ種類のレンズでも個体差は生じますし、f値の公差は認められています。分解修理の過程でズレが生じている可能性もあり得るので、どういった要因でこれだけ差が出ているのかを解析することは、僕の持っている知識や技術では不可能です。

今回のテストはfomapan400にatomal49を組み合わせた、トーン重視の組み合わせで行ったため、レンズのシャープさを比較するならrodinalなどを使った方がより顕著に出るのではないかと思っています。そういう意味では、今回の結果は僕自身、思っていたよりはシャープさがわからない結果だったと思っています。もっとも、35mm用レンズにそこまでシャープさを求めてどうするのかというところでもあります。プリントサイズが事情により大カビネサイズだったこと、それをスキャナで取り込んでいることで、かなり画質の変化が起きているはずなので、こうして比較するのに不向きな条件ではあると思います。プリントサイズが8x10だったらそれだけでもかなり違って見えるのではないかと思います。


元々は、増えすぎたレンズの整理をするために比較検討をする基準として条件を統一してテストをしてみようと思い始めたことでしたが、よく考えればこれまで同じ構図を違うレンズで撮り比べたことがなかったので、こうしてレンズごとに比較してみると思ったよりも違いがあって驚きでした。特に解放値での比較は、全てのレンズでf値が同じではないので比較にならないと思っていましたが、同じf値のレンズだけでもかなり違いがあって、これはこれでやった価値があったと思っています。

普段使っていて「このレンズはこういう描写の傾向だ」と思っている部分がはっきりでてきて面白かったですし、あまり傾向がわかっていなかったレンズに対しての理解も深まったので、手間ではありましたがやってよかったと思っています。


今回は無限遠でのテストをしましたが、もう1パターン、60cm付近での近距離の撮影をした際の比較テストもしています。プリントが出来次第、また掲載しようと思っています。

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