見出し画像

おじいちゃん先生と私

わたしは人づきあいが苦手ですが、何かと周りの人たちに恵まれています。
家族、友人、恋人、わたしの周りはやさしい人ばかりです。
今日はその中でも、わたしが学生時代に出会った先生とのお話を書いていきたいと思います。

先生と出会ったのは、わたしが短大一年生の時でした。
その先生は、主に歌の指導をしていました。
明るくて、前向きで、パワーがあって、授業の中では哲学的な話をしたりと、ちょっと変わった先生でした。
もう大分お年を召されていましたが、学生のわたしたちよりも若々しく、溌溂としていたのを覚えています。
その先生の授業では特に試験などはなかったため、サボったり居眠りする学生の姿もよく見られました。
わたしはと言うと、歌が好きだったということもあり、先生のちょっと難しい話は聞き流しながら、割と楽しく授業に参加していたような気がします。

そして二年生になった日、わたしと先生との距離はちょっとだけ近くなりました。
わたしの通っていた学校では二年生になると卒業研究という科目があり、より専門的なことを専門の先生と一緒に研究していくというものでした。
そしてわたしは「ミュージカル」について、その先生のもとで一年間学ぶことになりました。

実はこの「ミュージカル」、毎年倍率が高く人気でした。
「目立つのが好き」「自分を変えたい」「音楽が好き」など、さまざまな理由で希望する学生がたくさんいます。
そんな中でわたしも、周りの気迫にちょっと押されながらも、ただ単純に「お芝居がしたい。歌いたい。」という理由でこの「ミュージカル」を希望しました。
(わたしはお芝居が好きで、高校時代演劇部に入っていました。)
そして無事、その願いが叶うことになったのです。

しかし、初めての顔合わせのとき、わたしは何とも言えない気持ちになりました。
一人だけ友人がいましたが、その他は顔見知り程度の人たち。明るくて、キラキラしていて、わたしとは住んでいる世界がかけ離れているような人ばかりだったからです。
お芝居ができるのも、歌を歌えるのもうれしい。だけどこの人たちと一年間一緒に頑張っていけるのか、とても不安な気持ちでいっぱいでした。

そんな気持ちのまま、一ヶ月が過ぎ、2ヶ月が過ぎ、どんどん月日は流れていきました。
皆でお泊りをしたり、ご飯をつくったり、出かけたり、飲みに行ったりもしました。
きっと表面上は親しくなっていたと思いますが、わたしは常にみんなの顔色を窺ってしまったり、自分がどんな風に思われているのか気にしたりして、なかなか自分を出せない毎日でした。
「なんでいつもこうなるんだろう。」と、人の目を気にしすぎる自分に、言いたいことを言えない自分に嫌気がさしていました。
そんなとき、先生が何気なくある言葉を掛けてくれました。

それは、「相手と言い合いになったり、喧嘩したりしないのも才能だよ。」というものでした。

多分先生は全部わかっていたのです。わたしの性格も、何を考えていたのかも。
それをわかった上で、この言葉を掛けてくれたのです。わたしはこの言葉でちょっとだけ心が軽くなりました。
今まで悩んでいた自分の悪いところ。嫌いなところ。それをすべて受け入れてもらったような気がしたからです。
確かにわたしは、誰かと言い合ったり、喧嘩をしたりしたことがそれまでありませんでした。だからこそ、素直に気持ちを言い合ったり、喧嘩して仲直りする友人たちの姿がうらやましく思えたこともありました。
だけどきっと、何でも素直に言い合える関係が、喧嘩できる関係だけが良いものだとは限らないのです。
人の目を気にしたり、言いたいことが言えなかったりするのも、決して悪いことではないのです。そういう関わり方があってもいいのです。そう思いました。

そして同時に、その先生のやさしさを感じました。
なんて素敵な人なんだろう、と思いました。
その人のありのままの姿をあたたかく受け止める。
そんなやさしい人にわたしもなりたいなあと感じました。

これがわたしと先生のお話です。
これを読んでくださった皆さんが、少しでもあたたかい気持ちになっていただけたらうれしいです。
また次回も読んでいただけたら嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?