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【翻訳】詩人ローレンス・ホープ その5

ジラ、囚われの身にて
Zira: in Captivity

少しばかり愛を私に。ああ、叶わないなら見放して、
あなたのいない広間じゅうを歩き回り、この身は疲れはてた。
かぐわしさをたたえた、この場所へ
あなたの来る足音が響き渡った。

花をあしらった渦巻き形の麗糸レースに似た石に囲われた
私たちの女中たちの窓――独り身の私。
前を見据えると、黄色の〈砂漠〉を越えたところに、
北を向く紫の群丘が立っていた。

あのとがった〈連山〉の薄紫色の頂のうらには
捕われた鳥の、略奪された小さな憩いの場があった。
兄弟は殺められ、姉妹は縛られた。
その血で、その涙で、潤いが大地にもたらされた。

やがて、村が燃えて煙が高く上がり、
神聖で平穏な空が汚されたとき、
囚われの身になったのは、自由闊達に生まれた私たちだ。
砂の海を踏破する、たくましいラクダの一隊にいた私たちだ。

だが、この荒涼とした地でそう見ない水辺で、
砂の上で夜間に私たちが休みにつくと、
野営隊が眠りにつつまれぬうちに、私たちを捕らえた者たちが、
話しかける。耳を傾けた私は、泣くのを忘れた。

「この者は勇敢で公平ではないのか」との彼らの問いに続き、
口にする言葉は、「我らの王は、春迫るころの高い椰子の木のように
細ければ、まっすぐした姿勢で、その目は穏やかで重々しくも光輝き、
この砂漠の空ほど深い黒色が備わっている」

「本当に過酷な運命は」と言った彼らは微笑んで告げる。
「囚われの麗しいこの子を待ち受けぬ!」
私の心の中で何かが歌いだし、
ひそやかに生まれたのは、王のお目にかかりたい想い。

ほかの乙女たちは座して涙に暮れたこともあれば、
〈時〉が恋人たちに何をもたらすか物思いにふけながら、
自分の不安を笑い飛ばしたことも。
私は一言も発しなかった、王を思ってのこと。

疲弊の、果てしない砂地をやっと通り抜けると、
遠くの南方に都が姿を見せ、
皆の言葉は私に向けられず、私のまぶたは下がった、
我が王をこよなく愛していたからだ。

やがて分断の時。都の商人のもとへと
送られた者もいた。どうやら、
壁の向こうの避暑の宮殿に遣われる者もいた。
だが、連行される私は、まっすぐスルタンの広間へと。

朝が来るたび、目覚めた私はこの言葉をかける。
「皆さん、私は今日、王のお目にかかるのでしょうか」
女中たちがローブを着せ、香水をかけて微笑む。
「王の足が喜びに鈍感だったころがあったでしょうか」

やがて、女中たちの話は、戦での王の偉業に移ろう、
その名が遠くの地でどう敬われているかも話せば、
身をかがめて灯火のかすかな輝きに近寄り、小さな声で語った、
王の美しさを。

何を聞きたい、何を、と要領を欠いた女中たちが聞く。
とうに、全身全霊で愛をあなたに捧げている私。
ああ! あなたへの愛を失くしたときがあったでしょうか。
生の淵でも、死の淵でも、あなたを愛せなくなるときがあるでしょうか。

私を探し求めないあなた。私は一日じゅう
格子細工状の石の彫刻のうらで横になり
はるか遠くの空の移り変わりを見据える。
哀れなるかな、一晩じゅう独り身の私。

けれども来ることのないあなた。ああ、我が神たる王よ、
どうすれば、この境遇に気付いてもらえましょうか。
どうか、一度ばかりこちらへ。横になっていると、
生じるのです、あなたに会えるか、叶わずに死ぬかという疑念が。

ああ、戸口であなたの足音を耳にできれば
まぐさを清めて床を優しくなでられれば、
私はあなたの美を飲み、
満ち足りれば、喜びによって死するでしょう、私のそばに来られる前に。

おお、惨めかな、あなたが来られないとは。生命の炎が衰え、
自らの知らない美しさを欲し、あなたの顔を見たい思いで、
気が遠くなる、ああ、どうか――いらして、すぐに私のもとに――
あなたの代わりに〈死〉がこの私を解き放たぬように!



この詩のオリジナルを執筆した作者、ローレンス・ホープの経歴につきましては、こちらの記事をご一読くださりますと幸甚です。

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Cover picture by Byam Shaw, from The Garden of Kama and Other Love Lyrics from India (1914)


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