《民衆の敵》から《ラ・ラ・ランド》まで  映画によく出てくる「あの椅子」について(1)
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《民衆の敵》から《ラ・ラ・ランド》まで  映画によく出てくる「あの椅子」について(1)

映画にはカフェやビストロでのシーンがよく出てくる。そんな場所でこの椅子(上の写真)を見かけたことはないだろうか?背もたれの緩やかな曲線とリング型のレッグブレースが特徴的なこの椅子は、トーネット・チェアという。
少し由来を話そう。

写真はThonet No14. £240で購入(よく似た椅子もあるので、レッグブレースがリング型であることを確認すること)

産業革命の申し子、トーネット・チェア

18世紀後半、英国から始まった産業革命の波は19世紀半ばにはドイツにも押し寄せた。いわゆる第2次産業革命である。

木綿工業から始まった技術革新の流れは全ての産業に波及し、工場制機械工業の出現を促した。機械による大量生産の波に手工業は飲み込まれつつあった。家具職人も例外ではない。

ミヒャエル・トーネットは安価で大量供給できる家具づくりを目指し、木板を接着した積層材を曲げることで家具を作り出そうと試みる。これはのちに、水蒸気で木を蒸して柔らかくしてから圧力で曲げ、冷やして固めてアーチを作る曲木細工工法につながった。1859年に発売されたトーネットNo.14は、ヨーロッパで最も初期の大量生産された家具のひとつとなった。   

トーネットNo.14は1862年のロンドン万博で話題となった。「シンプルかつ優雅、軽くて強い。ショーのための作品ではなく、日常使用できる実用的な家具である」と審査員は絶賛し、瞬く間に広まった。

著名人が愛用したことでも知られており、レーニンもピカソもアインシュタインも購入したという。

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初めて使われた映画は何だろう?

 トーネット・チェアは数多くの映画で使われている。
《市民ケーン》や《キャバレー》、《トイ・ストーリー4》、そして《ラ・ラ・ランド》と枚挙にいとまがない。では、初めてトーネット・チェアが使われた映画といえば?

『トーネット・チェア:最も謙虚な椅子のデザインが映画の中で最も働き者の家具になった経緯』の筆者フィオナ・コールは《老兵は死なず》に使われたのが最初であると書いている。しかし同じブログで《市民ケーン》も使用例に挙げており、制作年で比較すると《市民ケーン》は1941年の作品なので、1943年の《老兵は死なず》より早い。ブログ内ですでに論理が破綻しているのは残念なことだ。

The Thonet Chair: How the humblest of chair designs became the hardest-working furniture in film
FEATURE, GUEST BLOG BY FIONA COLE 20 MAR 2020

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調べてみると、1931年の《民衆の敵》ですでにトーネット・チェアらしきものが使われている。ジェームズ・ギャクニーが演じるトム・パワーズが手を掛けている椅子はトーネット・チェアだろう。

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キティ(メイ・クラーク)との食事シーンでもレストランの椅子はトーネット・チェアだ。

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こちらはハワード・ホークスとリチャード・ロッソンが1932年に共同監督した《暗黒街の顔役》での打ち合いシーン。ここにもはっきりとトーネット・チェアが映っている。

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時代は下るが、1944年の《カバーガール》では、マリベル(リタ・ヘイワース)とダニー(ジーン・ケリー)がテーブルに積み上げられたトーネット・チェアを通して閉店を告げるシーンが秀逸。

ビリー・ワイルダーはトーネット・チェアを愛用する監督で、アカデミー監督賞と作品賞を受賞した《失われた週末》でも、《お熱いのがお好き》でも《アパートの鍵貸します》でも《あなただけ今晩は》でも《フロント・ページ》でも、何十年も使い続けている。

あの映画のあの名場面に

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セシル・B・デミル監督の《地上最大のショウ》では、ピエロの椅子取りシーンが笑いを誘うが、そこで使われていた椅子がトーネット・チェアだった。この頃には映画の小道具でトーネット・チェアを使うことが一般化していたのだが、今見るとやはりどんなフォルムの椅子でも良かったわけではなく、どこかとぼけた感のある有機的なフォルムの椅子が効果を挙げている。

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ボブ・フォッシー監督の《キャバレー》のオープニング・シーン。ライザ・ミネリはトーネット・チェアに取り囲まれている。

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《ラ・ラ・ランド》ではセブ(ライアン・ゴズリング)がミア(エマ・ストーン)を「ジャズを教えてやる!」と連れて行った「ライトハウス・カフェ」でトーネット・チェアが使われていた。
「ライトハウス・カフェ」はロスのハモサビーチに現存する1949年にオープンしたジャズ・ハウスだ。今や観光名所になっているが、トーネット・チェアも映画の小道具としてではなく、実際に店で使われている。

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そういえばセブが旧友キース(ジョン・レジェンド)と再会するのもこの店だった。
                             (2)へ続く

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映画とアートの不思議な関係、PICTURES IN MOTION PICTURESを追究しています。映画はヴィジュアル表現なのに、文学的な評論が多すぎませんか?映画は特定のヴィジュアル要素(特にアート)を使って人物の心情を暗示したり、映画そのものをメタ表現したりしているのです。