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重版出来!『新蒸気波要点ガイド』より、追加掲載レビューをためし読み公開

『新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019』(佐藤秀彦著、New Masterpiece編)がおかげさまで大好評につき、昨年12月の発売から1か月で重版となりました。読者のみなさま、ありがとうございます。
 2刷重版からは、諸般の事情により初版には掲載できなかった作品レビュー3点を追加掲載しています。今回はそれら追加レビューを全文ためし読み公開します。ぜひお読みください。

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Hologram Plaza
Disconscious
Self Released
2013/04/09

ヴァーチャル・プラザへようこそ! ゴキゲンなMallsoftはいかが?
『Hologram Plaza』はすごく快適だ。これは毎日毎日、決まりきったルーティンを繰り返すショッピングモールの愛らしいサウンドトラック。買い物客、エレベーター、マットレス売り場、フードコート、噴水。真夜中のマネキンは、ムーディなナイトライフを夢見る。惜しみない承認の散布に、百八煩悩も口をパクパク言わせるばかり。
このDisconsciousという、サンディエゴ在住らしき人物もまた、完膚なきまでに匿名だ。プラザでの生活は、無意識(unconscious)なのではなく、反意識(disconscious)である。共犯関係があってこそのユートピアなのだ。無意識の間隙を突くサブリミナルや、101号室は必要ない。
#2「Enter Through the Lobby」は、高らかに開店の時刻を告げる。「ベイビー、君こそチャンピオンだ!」と。生活のためのミューザックなのか、ミューザックのための生活なのか、僕にはわからなくなる。ショッピングモールは人工物を超えて、自然環境そのものに擬態する。我々はモールの気温に合わせてコートを着脱し、与えられた通りの順路を歩き、暗闇で映画を観る。エレベーターの上昇下降(#110)によって円環構造をなすモールには、始まりも終わりもない。#8「Absent Interlude」は、不在を謳い上げる小気味いいミューザックだ。
Mallsoftの系譜は、やがて猫 シ Corp.の傑作『Palm Mall』へと受け継がれるが、その美学は『Hologram Plaza』ですでに完成しつつある。消費社会、大衆文化への冷笑的なまなざしを携えていたVaporwaveに対し、Mallsoftは享楽的でアップテンポなサウンドを突きつけた。これはもう一つのアップテンポなサブジャンル、Future Funkの誕生と完全にパラレルである。Saint Pepsi『Hit Vibes』は我々をディスコへと導き、『Hologram Plaza』はモールへと導く。これはカウンター・カルチャーの敗北であろうか、はたまた完全勝利による聖戦の終結であろうか。
反意識の権化たる匿名の作家は、何も語らずインターネット上から姿を消した。いずれにせよ、このささやかながら楽しいアルバムが、Vaporwave史に残る傑作として愛され続けることは間違いない。 (1000)

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DΣΛD PRΣ$iDΣNT$
gh0stwerk
Self Released
2012/12/25

ネバダ在住のプロデューサーの初期作。#1、3を除いて全曲、TR-808のドラムを使ったジューク~トラップ・サウンドで、ベース系のDJでも全然使えるんじゃないでしょうか(ドラムが今聴くとちょっと…なダンス・ミュージックは少なくないですが、808のいい所はそういうトレンド性を一度無化してくれる所ではないでしょうか)。とりわけ#4、7のシンセサイザーが素晴らしい。このVaporjuke路線をこの後の諸作で更に展開していきます。 (小鉄)

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girls only
ESPRIT 空想
100% ELECTRONICA
2012/12/20

ローファイ。さすがESPRIT 空想の作品は、Vaporwaveマナーに忠実だ。高品質でありながら100%ハンドメイド。宅録の美学が、ここには詰め込まれている。『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』に捧げられた#3「Emerald Hill Zone2」、なぜかシンガポールの日常用品店につながる#4「+65 6742 1771」。畳み掛けるようなループのなかでPrefab Sprout(#7「bumnote」)が中断されたかと思いきや、iTunesは再び白昼夢(#1「daydream」)を見始める。 (1000)

※転載にあたり、音源を加えています。

新蒸気波要点ガイド(帯あり)

〈書誌情報〉
『新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019』
佐藤秀彦著、New Masterpiece編
A5・並製・オールカラー192ページ
本体2,500円+税
https://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK237

〈目次〉
・はじめに
・Vaporwave Girls Illustration(イラスト:ぼーぶら(ピンクネオン東京)、西尾雄太)
・作品レビュー
part 1 2009-2013 - New Deluxe Life
part 2 2013-2014 - Hit Vibes
part 3 2014-2015 - Birth of a New Day
part 4 2015-2017 - Vaporwave is Dead?
part 5 2017-2019 - Vaporwave Now
part 0 1980-2009 - Proto-Vaporwave
・蒸気波のルーツを求めて~Pre-Vaporwave対談
・インタビュー
骨架的
Robin Burnett (INTERNET CLUB)
Neon City Records
豊平区民
Seikomart
Equip
・めくるめく蒸気波ジャケミュージアム
・Vaporwave Dictionary 蒸気波大辞典(文:ばるぼら)
・蒸気波フィジカルリリースの世界(文:捨てアカウント)
・インターネットのPlastic Love(文:動物豆知識bot)
・クラウド・ラップ/ローファイ・ヒップホップについて(文:小鉄)
・蒸気波分布図(文:赤帯)
・Vaporwaveからゲームへ(文:さやわか)
・Vaporwaveはアニメを必要とするか?(文:動物豆知識bot)
・ミームと大義なき聖戦(文:銭清弘)
・Vaporwave年表(文:ばるぼら)
・Vaporwaveの未来~Pre-Vaporwave対談

〈レビュー・特集執筆陣〉
ばるぼら / さやわか / 捨てアカウント(Local Visions)/ sen kiyohiro / 小鉄昇一郎 / ブギー・アイドル / imdkm / 糸田屯 / 動物豆知識bot / ESC TRAX(ebi1000 / suesett / Ca5)/ 庄野祐輔(MASSAGE MAGAZINE)/ 赤帯 / フミ / ΔKTR / hitachtronics(New Masterpiece)

編集:New Masterpiece
Tumblr: https://newmasterpiece.tumblr.com/
Bandcamp: https://newmasterpiece.bandcamp.com/
Twitter: https://twitter.com/nmpDATA

装画:Andreas Gaschka
Blog: https://www.andreasgaschka.com/

下記ページでは、重要作5タイトルの作品レビューもためし読み公開中です。


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